円は米国の政治的側面の強い通貨

為替の歴史は政治の歴史でもある。米国の通貨政策というのはご都合主義という面も多いが、それでも通貨の長期トレンドを決める最大の材料は、<米国の通貨政策の変更>である。通貨の歴史をみると、「基軸通貨国である米国の通貨政策でしか動かない」というのが通り相場だ。プラザ合意に象徴されるように、米国は世界最大の為替操作国なのである。

日米の企業利益率をみると、日本企業の売上高営業利益率は一桁台前半の低収益で低迷しているが、米国企業は10%台の後半の収益を維持している。なぜ、こうなるかというと、欧米は政策を総動員して自国通貨安政策を進めてきたのに対して、米国から円高を押し付けられてきたからだ。

円高になると日本の輸出企業は厳しいコストカットやリストラをおこない、輸出数量や輸出販売金額を維持してきた。国内で厳しいコストカットの結果、日本国内は不景気になり、輸出企業は輸出の数量や金額を維持しようとするため、輸出販売による利益率も小さいという悪循環が続いてきた。

一方、米欧の企業は輸出数量が増えなくても、ブランディングの確立と通貨安にすることで利益を拡大してきた。日本は円高に負けまいとして更に輸出を維持し、それがまた円高となって跳ね返ってくるということの繰り返しである。日本は通貨安競争に負け続けてきたのである。

トランプの<米国第一主義>にドル安は欠かせない

3月FOMCでの利上げやその後の連続利上げが囃されているわりには、ドルの上値が重い状況が続いている。ドル/円は米・日金利差に反応が薄くなっているし、ドル/円やユーロ/ドルの日足をみても相場の強い方向性は感じられない。減税・財政出動・ボルカールールの廃止というトランプの政策はドル高要因なのに、なぜ、ドルの上値が重いのであろうか?

米・日10年国債金利差とドル/円相場(日足)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ユーロ/ドル(日足)
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

ドル高的な経済対策を打ち出しながらも、強すぎるドルは不公平だということで、トランプはドル安を望むという口先牽制に出ている。こうした、矛盾したことを平気で言うトランプは、まさにPost Truthである。新債券王のジェフリー・ガンドラックは、「トランプがドル高政策を支持するかは疑問だ」と述べているが、ファンダメンタルズ的なドル高要因と、トランプの「不公平なドル安」という不条理なドル高牽制で、マーケットは方向性を失っているのである。

トランプとしては、米国第一主義にドル安は欠かせないだろう。英エコノミスト誌がミスター保護主義と書いたウォール街の再建王ウィルバー・ロス、通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー、国家通商会議議長の経済学者ピーター・ナバロの顔をみるだけで、ドルを買う気にはなれないという運用者もいるくらいだ。

ファンド勢はしばらく116円半ばから110円程度のレンジ推移を想定

ファンダメンタルズ的なドル高要因と、「不公平なドル安」というトランプのドル高牽制でなんともやりにくい相場になっているが、日本の当局は大きくみて100円~125円のレンジにドル/円相場を維持したいと思っているのは間違いない。125円を超えるような円安になれば米国から何を言われるかわからないし、日本の地方経済も疲弊する。そういった意味では、今のドル/円の水準は日本にとって居心地の良い水準なのかもしれない。

ドル/円(月足)とトレンドライン

(出所:石原順)

ドル/円は13日移動平均線の上下3%が変動範囲となっている。現在、そのレンジは116円半ばから110円程となっており、運用者も当面はそのあたりのレンジを想定しているようだ。

ドル/円(日足)13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)・±3%(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)日本勢の注目が集まっている一目均衡表とATRバンド
目先の焦点は米雇用統計で114円95銭を上抜けるか否か?

(出所:MT4)

現状、トランプはオバマケアや移民問題を優先し、まだ何も経済政策は発動していない。それでも米国株が上がった背景には、トランプの米国第一主義(保護主義)政策によるドル安期待があるのだという。

NYダウ先物(日足) 強い上昇相場はいったん終了?
上段:ボリンジャーバンド(21)±1シグマ=赤のバンド
下段:標準偏差ボラティリティ(26)=青いライン

(出所:MT4)

やはり年央までは株高継続か?

新債券の帝王ジェフリー・ガンドラックは「今年の米10年債利回りについては、短期的に2.25%を下回る水準に下がるが、その後は3%に向かって上昇すると思う」、「7月と選挙後以降、明らかにイールド・カーブはフラット化したが、まだ利上げの余地がある」、「われわれが予想するように年央に米国債利回りが上昇し始めれば、株式市場はそれに屈する形になるだろう」と述べている。

当たり屋と呼ばれ、トランプ大統領誕生を正しく予想した数少ないファンド運用者であるガンドラックの予測は、今年の相場で<7の年の平均サイクル>を重視しているという最高の短期トレーダーと呼ばれるラリー・ウィリアムズの予測と、筆者にはダブって聞こえてくる・・。

NYダウと<7の年の平均サイクル>(ラリー・ウィリアムズ作成)
「7」の付くすべての年の平均を赤線で、1987年を除く「7」の付く平均を青線でグラフ化している

(出所:「ラリー・ウィリアムズのフォーキャスト2017」掲載許可をとって載せています)

NYダウ(週足)と米国の金融政策
米利上げ3回目までは基本的にリスクオンか?

(出所:石原順)

米10年国債金利(月足) ジェフリー・ガンドラックは「年央に米国債利回りが上昇し始めれば、株式市場はそれに屈する形になるだろう」と予測

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。