私は3秒前に犯した失敗はまったく気にしない。重要なのはこれからの動き!

 ポール・チューダー・ジョーンズ(72億ドルのグローバルマクロヘッジファンド、チューダー・インベストメントの創設者)が「今の米国市場をどう見ているのか?」を先週のレポートで紹介した。だが、そのような相場観より重要なのは彼の相場に対する考え方である。

 ポール・チューダー・ジョーンズがメインに据えている取引手法は<エリオット波動による逆張り>で、数日から数週間というスウィングトレードを得意としている。彼は相場の転換点を当てる転換点トレードの名手で、相場の真ん中(市場参加者の平均コストである移動平均線付近)ではポジションをとらない。

 筆者の使っていた米国の証券会社をポール・チューダー・ジョーンズも使っていた関係で、ブローカーから聞かされる彼の<売買手法と徹底した資産管理方法>に、1990年代の筆者はかなりの影響を受けた。

 ポール・チューダー・ジョーンズは、「私は3秒前に犯した失敗はまったく気にしない。私が気にするのは次の瞬間から何をしていくかということだけだ」と、述べている。彼は間違ったポジションについてはあっさり損切りするし、「重要なことはこれからの動きだ」ということを強調している。

 普通の投資家であれば、相場を考える上で自分が買った値段(あるいは売った値段)というポジションの取得コストにこだわってしまう。

 たとえば、「ドル/円は今113円だ。自分は110円で買っているから3円下がってもトントンだ。だから多少相場が動いても問題はない」というのが、一般人の発想なのである。

 ポール・チューダー・ジョーンズは自分のポジションのコスト(取得価格)などいっさい気にしない。現在113円のドル/円相場がこの先上がるのか下がるのかだけを考え、下落すると思ったらあっさり売ってしまう。彼はためらわないのである。

 

相場で最も重要なルールは防御である

 ポール・チューダー・ジョーンズの運用の特徴は<徹底したリスク管理>にある。彼は、「私は失うことを前提に考える。獲得することに夢中になるのではなく保護することを第一に考える。最も重要なルールは攻撃ではなく防御である。どのリスクポイントで自分は撤退するのかを把握しておかなければならない。私は1カ月あたりの損失率を絶対2ケタにしない」と、発言している。

 相場はトレンド期が少なく、保ち合い相場やランダム相場のなかでは平均回帰という現象が起こってストップロス注文をいれなくても相場が戻って助かってしまうことも多いので、ほとんどの市場参加者はストップロス注文を置かない。

 ストップロス注文を置かなくても助かってしまうということを繰り返していると、レバレッジのかかった取引では<3年から10年に1回の大きな下げ局面>で証拠金の多くを失うことになるだろう。現物取引の場合でもポジションが塩漬けになる。いずれにせよ、「何もできず見ているだけ」という塩漬けの状態になり、<投資効率>が死んでしまうのだ。

 ポール・チューダー・ジョーンズが言うように、「どのリスクポイントで自分は撤退するのかを把握しておかなければならない」のである。

 どのリスクポイントで自分は撤退するのかという問題を解決するために、筆者は相場のチャートの上下にストップロスラインというのを引いている。これでとりあえず相場から撤退するポイントは把握できる。

ドル/円(日足)とストップロスライン

レンジブレイクアウトの売買シグナル 買いシグナル(緑の↑)と売りシグナル(赤の↓)
買いポジションの損切りライン(赤)・売りポジションの損切りライン(青)
出所:石原順

 

 筆者にとって、上下のストップロスラインと同じくらい重要なのが、トレーリングストップインによる「強制利食い」(損切りになることもある)である。トレーリングストップラインによって、ストップロスポイント(ストップロス幅)まで待つことなく素早く相場から撤退できる。

※注:トレーリングストップとは、相場の値動きに合わせて逆指値注文を移動させる方法です。トレーリングストップは、「トレール注文」とも呼ばれ、簡単に言えば、逆指値注文(ストップ注文)に値幅指定機能を付けた注文方法をいいます。また、ストップ注文において、値動きによって逆指値価格を引上げたり、引下げたりする手法を「トレーリング」と呼び、通常、トレーリングストップでは、価格(レート)が動くと常に一定の値幅で逆指値価格を自動的に修正してくれるため、トレンドの流れに付いていくことができます。

 

ドル/円(日足)とストップロスラインとトレーリングストップライン

レンジブレイクアウトの売買シグナル 買いシグナル(緑の↑)と売りシグナル(赤の↓)
買いポジションの損切りライン(赤)・売りポジションの損切りライン(青)・トレーリングストップライン(緑の蛍光緑)
出所:石原順

 

 相場に絶対はない。上記のチャートはあくまでストップロス注文とトレーリングストップ注文の考え方を提示しているだけである。しかし、相場を長期に続けていくためには、こうした「生き延びるためのデザイン」が必要であろう。

 

もし損の出ているポジションを持っていて不快なら、答えは簡単だ。手仕舞うだけだ。

 筆者は相場に迷った時、いつもチューダーの言葉をかみしめている。以下はポール・チューダーの言葉だ。

「自分はうまいなどと思ってはいけない。そう思った瞬間に破滅が待っている」

「ナンピンをしないこと。トレードがうまくいかないときは枚数を減らすこと。うまくいっているときには枚数を増やすこと。コントロールができないような局面では決してトレードしないこと。例えば、私は重要な発表の前には多くの資金をリスクにさらすようなことはしない。それはトレードではなくギャンブルだからだ」

「もし損の出ているポジションを持っていて不快なら、答えは簡単だ。手仕舞うだけだ。いつでも相場に戻ってこられるのだから。新鮮な気持ちでスタートを切るのに勝るものはない」

「史上最高の投資家、ジェシー・リバモアは長期的には相場では決して勝てないと言ったと伝えられている。相場に決して勝てないという考え方は驚くべき見方だ。だからこそ私の哲学は巧みな防御なのだ。自分が超人的な洞察力を持っているなどと思ってはいけない。常に自信を持っていなくてはならないが、注意を怠ってはいけない」

 

マーク・ファーバーのブラックマンデーの回顧

 以下の記事は、陰鬱博士と呼ばれるマーク・ファーバーのブラックマンデーの回顧である。The Gloom, Boom & Doomレポートからの転載許可をもらって掲載している。

【1987年夏まで、米国だけでなく世界中に浮かれたムードが漂っていた。ところが、1987年夏までに、米国株が買われ過ぎている状況を懸念する予測者が出てきた。同年に株価が40%を超える上昇をみせたことを思い出してほしい。

ロバート・プレクターもそのひとりである。彼は1978年に『エリオット波動入門』を執筆したときには、ダウ平均が3,000近くにまで上昇するだろうと強気を唱えていた(そして、誰にも信じてもらえなかった)。その彼が1987年9月初旬には弱気に転じたのだ。しかし、これは過半数の見解ではなかった。

10月19日ブラックマンデー直前直後の日々は、私をひどく揺さぶった。極めて混沌としていたからだ。 自分の顧客も個人的にも稼ぐことはできた。しかし、ソロスのような賢明な人物でさえ2週間で資産の32%を失ったのだ。とすれば、私にも起こる可能性があると考えた。そこで、私は売り玉を減らし、しばらくの間、相場から離れると誓った。

NYダウ(日足)1986~1987年のチューダーのエリオット波動カウントとブラックマンデー

出所:石原順

 

 先ほどロバート・プレクターが1987年9月に弱気に転じたと述べた。しかし、暴落直前に大量の売りを仕掛けて富を築いたファンドマネジャーは、友人のポール・チューダー・ジョーンズだった。彼が80年代に叩き出した運用成績はソロスよりもはるかに優れている。彼は1987年を約100%のリターンで終えたのだ!

ポールは私が今まで会った中で最も偉大で、最も誠実なトレーダーである。彼には持って生まれたトレードの本能があるにちがいない】

(マーク・ファーバー)

出所:The Gloom, Boom & Doomマーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2017年11月号『1987年から30年で何が変わったのか!』・国内代理店パンローリングの掲載許可をとって掲載