OECD経済見通しも下方修正

 11月21日、OECD(経済協力開発機構)が経済見通しを公表しました。OECDは主要先進国の国際機関です。

 IMF(国際通貨基金)が先進国と新興国が加盟する国際機関に対して、OECDは先進国クラブと呼ばれています。IMFと同じように定期的に経済見通しを公表し、マーケットもその予測を注目しています。下表の通り、来年2019年の世界のGDP(実質成長率)を3.5%とし、9月時点から0.2%引き下げました。下方修正した理由は、米中貿易摩擦の影響による世界の貿易量の低下と米国の金融引き締めの影響を挙げています。

OECD(経済協力開発機構:Organization for Economic Co-operation and Development )。EU(欧州連合)22カ国を中心に、日本、米国などその他13カ国を含めた35カ国の先進国が加盟する国際機関。

 経済見通しの要点は以下の通りです。

  1. 貿易摩擦による先行き不透明感から世界の貿易額の伸びが鈍化し、先進国の金融引き締めを背景に、世界のGDPは鈍化
  2. 世界の貿易額の実質伸び率は、2017年の5.2%から2018年以降は3%台へ低下すると予測
  3. 2019年のGDP見通しは、底堅い米国を除いて9月時点の予測よりも軒並み下方修正
  4. 2020年は米国、中国が大幅鈍化。米国は2019年の2.7%→2.0%に、中国は6.3%→6.0%に
  5. 日本は、2018年は自然災害の影響で9月時点の予測よりも0.3%下方修正。2019年は持ち直すものの輸出の停滞によって1.0%と0.2%の下方修正に。2020年は消費税増税後の消費減退によって0.7%に鈍化すると予測
  6. もし、米国が中国製品に対する関税を25%まで引き上げると、世界経済のGDPは2020年には3%+-まで下落すると予測。米国のGDPは0.8%、中国のGDPは0.6%下落する恐れがあると分析。米中貿易摩擦の最悪のケースでは、2021年にかけて米国のGDPを1.1%、中国は1.3%程度下がり、その結果世界には0.8%の下押し圧力がかかると分析。

 IMF(国際通貨基金)に次いでOECDも世界経済の見通しを下方修正してきました。先週、クラリダFRB(米連邦準備制度理事会)副議長が、世界景気鈍化の兆候が見られ、FRBは世界景気の見通しを考慮に入れるべきとの見方を示しました。

 IMFもOECDも徐々にその兆候をGDP見通しに織り込み始めています。しかし、完全には織り込んでおらず、IMFもOECDも最悪シナリオの見通しとして公表しています。世界景気が鈍化し、米国にも影響が及んでくると、米国の金融政策にも影響を与えてくることになります。クラリダ副議長は、FRB高官の中でいち早くそのことに触れ、中立金利にも言及したことからマーケットはドル売りに反応しました。

 今週、28日(水)にはパウエルFRB議長の講演があります。クラリダ副議長のハト派発言をパウエル議長が真っ向から打ち消すような発言をするのかどうかが注目されています。利上げサイクルに対して少しでも慎重姿勢をほのめかせばドル売り材料になります。また、今週はパウエル議長以外にもクラリダ副議長をはじめ数名の高官の講演があります。パウエル議長の金融スタンスが変わらなくても、高官たちの発言が総じてハト派寄りに傾けば、ドル売り材料になる可能性があります。

 今週はもうひとつ重要イベントがあります。OECDの経済見通しでも世界経済鈍化の背景として触れている、米中貿易摩擦の先行きを左右するかもしれないイベントです。11月30日から12月1日にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されるG20(主要20カ国・地域) 首脳会談に合わせて、米中首脳会談が予定されています。

 会談の結果についてはいろいろな見方が出ています。米朝首脳会談のように方針のみが交わされ、会談すること自体が目的のような建前だけの首脳会談で終わるとの見方がある一方で、10月からの株下落を見て、トランプ政権は株安を止めるために中国と何らかの合意に達するのではないかとの見通しもあります。世界経済にこれ以上のマイナスをもたらさないような合意、例えば、1月からの25%関税引き上げは見送りまたは延期などが決まれば、株高、ドル高が予想されます。

 しかし、先日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、米国政府が中国のメーカー・Huawei(ファーウェイ)の通信機器使用禁止を働きかけていると報道しました。会談前の牽制球なのか、会談が決裂することになるのか注目度が一気に高まってきています。トランプ大統領も会談を目前に牽制球や会談への期待を次々と発しています。

 米国利上げペースと米中貿易摩擦、これを背景にした世界景気鈍化と株安。来年も続く要因が11月後半に入ってぐっと前面に出てきました。ドル/円は相変わらずレンジの中をさまよっており、このままクリスマス相場に入るかもしれません。

 12/24~1/1までクリスマス休暇が取られる米国では、この機関は為替ディーラーも休むため、クリスマス・シーズンから年末・正月の間は、極端に参加者が減り、取引が停滞しがちです。ドル/円が動かなくてもこれらの要因を追いかけていく必要があります。欧州通貨は動いています。ドル/円も、もし、このままクリスマス相場に入れば、その反動から年明けは大きく動くかもしれません。