先週初の段階での相場見通しは、「国内企業の決算をにらみつつ、日経平均は2万円を挟んだもみ合いが続く」というのがメインシナリオだったのですが、そんな相場のムードをガラリと一変させたのは、米メディアが「北朝鮮が核弾頭の小型化に成功した」と報じたのをきっかけに高まった地政学的な警戒感です。

下の図1は足元の日経平均の推移ですが、9日(水)のローソク足が目立っています。前日から「窓」を空けて下落し、実体(ローソク足の箱の部分)が大きな陰線になっていることがわかります。
 

日経平均(日足)の動き その1 2017年8月10日取引終了時点

(出所:MARKETSPEEDを元に筆者作成)


また、9日(水)の日経平均は前日比で257円安となりましたが、この下げ幅は偶然にも、先月に北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14」の発射実験に成功したと発表したのを受けて下落した7月4日の下げ幅と同じです。

ただし、当時も地政学的リスクへの警戒が高まったものの、落ち着きを取り戻すのにさほど時間がかからず、相場が大きく崩れることはありませんでした。図1のチャートを見ると、7月4日以降の日経平均は25日移動平均線を下回る場面を見せていますが、7月7日の移動平均線とのかい離率はわずかマイナス0.57%にとどまっています。

この例に従えば、具体的な軍事行動の気配が生じない限り、今回も同様の相場展開になるという見方が多くなっても不思議ではありません。また、日経平均は2カ月以上も節目の2万円を挟んだ保ち合いが続き、こう着感が強まっていたため、今回の北朝鮮動向が売りの口実にされた可能性も指摘されています。つまり、利益確定の売りが一巡すれば、需給が改善して相場が再び息を吹き返すことも想定されるわけです。となれば、今回の下落は「押し目買いの好機」ということになります。

改めて図1を見ると、7月4日の下落は25日移動平均線がサポートになったこと、以降もこの25日移動平均線が意識されたもみ合いが続く格好となりましたが、今回(8月9日)の下落は、すでに日経平均が25日移動平均線を下回っている状況で始まり、しかも、3カ月の値動きの中心線である75日移動平均線をも下回って取引を終えています。さらに、7月の下落以降の保ち合いを見ても、次第に日経平均株価が上値を切り下げており、下方向への意識が強まっています。

つまり、日経平均は下方向への意識が強く、早期に株価の下落が落ち着いたとしても、戻りの勢いが限定的にとどまってしまうシナリオも濃厚ですので、今回の下落が押し目の好機なのかは微妙なところです。国内企業の決算シーズンも一巡する中、お盆休みでもありますし、手掛かり材料が不足しがちなタイミングでもあります。

そのため、「地政学的懸念の後退でどこまで株価を戻せるか」というのが、目先のポイントになります。細かい分析と考察は他に譲りますが、北朝鮮の核ミサイル開発はステップアップを続けていますし、北朝鮮の挑発行動とそれに対する米国の反応もチキンレースのような様相になってきています。

着実に状況は悪化していますので、今回も前回のように状況が早い段階で落ち着くとも限らず、引き続きリスク要因としてくすぶり続けることも起こり得ます。直近に予定されている北朝鮮絡みのイベントとしては、祖国解放記念日(8月15日)、先軍節(8月25日)、建国記念日(9月9日)などが控えています。

また、5日移動平均線が75日移動平均線を下抜ける「デッド・クロス」になるかも今週の注目ポイントです。前回のデッド・クロスは3月下旬に出現していますが、以降の日経平均は下げ足を早めています(下の図2)。


日経平均(日足)の動き その2 2017年8月10日取引終了時点

(出所:MARKETSPEEDを元に筆者作成)


その一方で、9日(水)の下落によって、これまで堅調に上昇トレンドを描いて来たTOPIX(東証株価指数)にも影響が出ていないかを下の図3で確認してみます。
 

TOPIX(日足)の動き 2017年8月10日取引終了時点

(出所:MARKETSPEEDを元に筆者作成)

 
こちらも9日(水)の下落で25日移動平均線を下抜けてしまいました。TOPIXは直近までこの25日移動平均線をサポートに年初来高値を更新してきたこともあり、早期に25日移動平均線に復帰できれば安心感が広がりそうですが、翌10日(木)のローソク足を見ると、25日移動平均線が上値を抑えているほか、TOPIXについても日経平均と同じく、5日移動平均線が25日移動平均線や75日移動平均線を下抜けるデッド・クロスが意識されそうな格好になっています。

これまで順調だったTOPIXチャートの悪化は、市場全体のムードを悪くさせる可能性があります。なるべく早い段階で復調できるかが今週の焦点となりそうです。