10月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 月末こそ一矢報いましたが、10月の新興株市場は惨状。10月の月間騰落率は、東証マザーズ指数が▲15.77%、日経ジャスダック平均が▲7.00%安でした。東証マザーズ指数の下落率は、2003年9月の算出来で11番目の大きさ。過去5年では、月間で最大の下落率となりました。

「株価が下がること」、それ自体が売りを誘発していく局面があります。この10月はまさにそれ。米長期金利が上昇していたタイミングで、10日のNYダウが831ドル安に。2月のVIXショックを彷彿させる突然の急落、とりわけGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)群を代表とするハイテク株の下落が大きく、世界同時株安の様相となりました。巻き込まれた日経平均株価の10月の月間騰落率は、今年最大の▲9.11%。

 日経平均は26日に付けた2万971円を月間安値としましたが、マザーズ指数は2日遅れの30日に付けた821ポイントが月間安値でした。底入れタイミングが遅れたのは、完全に需給要因です。

 新興株市場は個人投資家がメインプレーヤーで、信用取引の売買比率が高い市場。日経レバレッジETF(上場投資信託)や任天堂、ソフトバンクなどの同時安で信用評価損益率が急激に悪化し、新興株も軒並み崩れました。その結果、極端に信用評価損益率が悪化する銘柄が出てきます。これにより発生するのが「追い証」の問題。新聞など各種メディアにおいても、この時期「追い証」発生を話題にしていました。

「追い証」発生レベルの地合い悪化局面では、①「追い証」発生手前で先に売る、②「追い証」発生を見越し、ロスカットの誘発を狙ったヘッジファンドの空売り(高いレンディングコストを支払って、空売り株を独自で借りています)、③「追い証」の差し入れがなかった分の強制決済、この3段階で需給悪をもたらします。

 この問題の最終局面が③の強制決済売りなのですが、そのタイミングはネット証券ごとに異なるとはいえ、最も多いのが「追い証発生の3営業日後の寄り付き」。マザーズ指数が最も下げた25日(前日比▲6.36%)の追い証発生がピークとみられ、この3営業日後が30日でした。30日の寄付きで一部強制決済売りがあったとみられますが、まさに理屈通りここで底入れ。最悪の需給環境の一巡(ヘッジファンドの空売り分は当然買戻し)で、月末ラスト2営業日は30日+3.83%、31日+4.30%と急騰状態になりました。これが、底入れが2日遅れた理由です。

10月の売買代金ランキング(人気株)

 端的にいえば、“ひどい相場”としか表現しようがなかった10月の新興株市場。売買代金ランキング上位20銘柄のうち、7割の14銘柄が月間でマイナスでした。マザーズ市場の投資主体別売買動向を見ると、月間安値を付けた10月最終週は外国人が最大の売り越し主体(週間で25億円売り越し)。マザーズも外国人が売り越しだったのですが、興味深いのは個人投資家でした。

 この週の個人投資家は4億円買い越しなのですが、内訳では現金が42億円買い越し、信用が38億円売り越し。需給要因で価格無視(約定優先)的に売られるなか、現金の投資余力を十分持った個人投資家は、押し目買いで動いていたことがわかります。一方で、信用が売り越しというところを見ると、やはり評価損益が悪化する手持ちの信用買い残を処分した個人投資家も多かったことが分かります。ランキング上位では、ジャスダックのテリロジー、マザーズのそーせい、メルカリなどが、信用の需給悪化で処分売りがかさんだ銘柄と特定できます。

市場 コード 銘柄名 10月末
終値
時価
総額
:億円
売買
代金
25日
移動
平均値
:億円
月間
騰落

:%
東証マザーズ 3906 ALBERT 11,570 325 71.4 8.1
ジャスダック 3356 テリロジー 1,189 186 56.3 -26.3
ジャスダック 4582 シンバイオ 191 146 46.6 22.4
東証マザーズ 4565 そーせい 877 669 38.0 -36.0
東証マザーズ 4385 メルカリ 2,856 4,035 33.6 -23.9
東証マザーズ 3990 UUUM 3,115 573 29.3 -23.8
ジャスダック 6425 ユニバーサル 3,420 2,743 29.1 -1.3
東証マザーズ 8789 フィンテック 194 361 28.6 -0.5
ジャスダック 4398 BBSec 2,584 102 28.2 20.2
ジャスダック 2134 サンキャピタル 94 51 25.5 64.9
東証マザーズ 4592 サンバイオ 3,680 1,830 23.7 -6.7
ジャスダック 8909 シノケンG 934 340 22.8 -22.4
ジャスダック 6324 ハーモニック 3,435 3,308 22.6 -17.9
東証マザーズ 3996 サインポスト 4,745 486 20.2 44.7
東証マザーズ 6033 エクストリーム 4,335 235 17.3 5.2
ジャスダック 6787 メイコー 2,818 755 16.9 -10.0
ジャスダック 3776 ブロバンタワ 301 157 15.9 -11.2
ジャスダック 9820 MTジェネック 13,100 141 15.7 -65.9
ジャスダック 2146 UT GROUP 3,395 1,370 15.7 -16.3
東証マザーズ 4394 エクスモーション 4,865 64 15.5 -17.1

売買代金ランキング(5銘柄)

1 ALBERT(3906・東証マザーズ)

 この荒波にあって、売買代金トップながら月間プラスだったことは称賛すべき。月初1日に、損保大手の東京海上日動火災保険と資本提携すると発表。月末30日には、その東京海上とトヨタ自動車も交えた3社間で、高度な自動運転の実現に向けた業務提携を行うと発表しました。ビッグネームとの提携で更なる受注拡大に期待されます。

 また、17日には足元業績の想定上振れも発表しています。2018年12月期の最終利益が、従来予想の0.67億円から1.3億円に倍増へ。自動車業界で期待されるAI投資の拡大を、早くも“実需”としながら業績を拡大させているAI関連株といえます。

 

2 テリロジー(3356・ジャスダック)

 発行済み株数に対する信用買い残の比率が約25%と高水準。個人投資家の信用買い銘柄として人気化してきた代表格です。それだけに、「追い証」発生が需給悪につながった10月後半は、とりわけ下げの度合いも大きくなりました。

 日次ベースで最大の下落率だったのは、25日の▲22.37%(ストップ安)。その後に出た空売り残高報告で、このタイミングでのヘッジファンドによる大量空売りの形跡も確認できました(発行済み株数の約7%に相当する空売り残高)。信用買い残が極端に多かったこともあり、いわゆる“ロスカット狩り”を狙った投機の売りも下げを助長したといえます。

 

3 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 今年6月のIPO(新規公開株)時、そのIPO株は入手困難な“プラチナチケット”とも評された銘柄でした。ただ、上場日に一瞬付けた6,000円を上場来高値に、その後は下げっ放し。とはいえ、公開価格の3,000円に接近すると買いが入っていたのですが…IPO株を3,000円で買えた投資家ですら、10月にマイナスになってしまいました。

 株価が下落する過程では、逆張りの信用買いが入り、信用買い残が100億円強に達していました。信用買い残の金額ベースでは、新興株の全銘柄中で最大。「追い証」発生が意識される局面で、損失確定で売る投資家が多かったといえます。下げが下げを呼び、メルカリの下げがマザーズ指数の下げを大きくする悪循環に。

 

4 UUUM(3990・東証マザーズ)

 新興株全体の地合い悪化に巻き込まれましたが、その手前12日に好決算を発表しています。2018年6~8月期(第1四半期)は、売上高が前年同期比75%増の41.7億円に。増収効果が大きく、営業利益は前年同期の2.8倍となる3.2億円とかなりの好決算。動画投稿サイト「ユーチューブ」で人気のユーチューバーを多く抱え、「はじめしゃちょー」「HikakinTV」などのチャンネル登録者数が今なお拡大しているようです。

 この10月に、写真共有アプリ「インスタグラム」に特化したインフルエンサーマーケティングのプラットフォーム運営会社(レモネード)を吸収合併。中小型株の分析に定評があるいちよし証券では9月末、この買収が業績拡大に貢献するとして目標株価を4,500円に引き上げていました。業績の裏付けがあるだけに、またとない押し目を拾いに向かう中小型ファンドなども出てくるのでは?

 

5 フィンテック グローバル(8789・東証マザーズ)

 月間では小幅マイナスでしたが、新興株が真っ青な期間の“野中の一本杉”でもありました。埼玉県飯能市に、北欧のライフスタイルを体験できる施設「メッツアビレッジ」が11月9日、ムーミンの物語を主題とする「ムーミンバレーパーク」が2019年3月16日に開業を予定しています。後者の「ムーミンバレーパーク」を運営するのが、同社子会社のムーミン物語。このムーミン物語と、ソニー・ミュージックエンターテインメントが資本業務提携したと29日に発表。最小投資額の小さい低位株ということもあって、値幅取り妙味だけを期待した短期資金のよりどころに。

10月の株価値上がり率ランキング

 10月もナンバーワン値上がり銘柄は、ジャスダック上場の地域新聞社。9月は月間で3.2倍、10月も2.2倍で2カ月連続トップ、しかも、これといった理由が見当たらないという…。

 前月も本コラムで書きましたが、千葉県船橋市に本社を置き、「ちいき新聞」という地域密着型の無料情報誌を発行している会社です。10月末時点で予想PERは380倍台に到達しています。筆舌尽くし難いとはまさにこのこと。

 なお、9月の値上がり率トップ20で、10月もランクインしたのは地域新聞社だけ。他の9月急騰株は急落したのに、なぜ地域新聞社だけ…。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落
率:%
10月末
終値
前月末
終値
価格
時価
総額
:億円
ジャスダック 2164 地域新聞 124.1 3,845 1,716 71
ジャスダック 2134 サンキャピタル 64.9 94 57 51
ジャスダック 6664 オプトエレクト 56.7 1,368 873 90
ジャスダック 4335 IPS 55.7 1,090 700 27
東証マザーズ 3541 農総研 54.1 3,635 2,359 153
東証マザーズ 3195 ジェネパ 52.2 813 534 67
ジャスダック 1407 ウエストHD 48.8 1,141 767 311
東証マザーズ 3996 サインポスト 44.7 4,745 3,280 486
東証マザーズ 3907 シリコンスタシオ 34.0 1,647 1,229 48
東証マザーズ 3628 データHR 33.9 2,178 1,627 78
ジャスダック 2173 博 展 32.7 1,490 1,123 59
東証マザーズ 4397 チームスピリト 27.4 2,478 1,945 193
ジャスダック 6233 極東産機 26.6 891 704 48
ジャスダック 4582 シンバイオ 22.4 191 156 146
東証マザーズ 3550 スタジオアタオ 22.2 2,716 2,222 170
ジャスダック 4398 BBSec 20.2 2,584 2,149 102
東証マザーズ 3960 バリュデザ 20.0 2,596 2,163 38
東証マザーズ 3773 AMI 18.6 2,203 1,857 402
東証マザーズ 7033 MSOL 17.6 3,140 2,671 57
ジャスダック 8889 APAMAN 17.5 1,171 997 214

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 オプトエレクトロニクス(6664・ジャスダック)

 月初1日から急騰。買われた切り口、テーマは「消費増税メリット」でした。来年10月の消費増税時の経済対策として、キャッシュレス決済をしたらポイント還元するといった施策が検討されていると報じられたことが手掛かりに。

 その関連株として、バーコード読み取り装置を手掛ける同社はど真ん中。GMOPG、ビリングシステムなども物色対象になりますが、ジャスダックで手垢が少なく、時価総額の小さい同社の上昇がとくに目立ちました。

 

2 農業総合研究所(3541・東証マザーズ)

 19日に、日本郵政傘下の日本郵政キャピタルと資本提携すると発表。同社の筆頭株主から、日本郵政キャピタルが発行済み株数の12.5%に相当する52万5,000株を取得しました。

 日本郵政の持つ全国のネットワークを活用し、農産物物流システムを生産者に利用してもらうという同社にメリットの大きい提携。業容拡大への期待で急騰したともいえますが、日本郵政キャピタルが出資した前例(フィルカンパニー、パルマ)の株価急騰の面影を追った投資家も多そうです。

 

3 サインポスト(3996・東証マザーズ)

 AI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」の実用化に向けた期待感が逆行高の背景に。2日の取引時間中、「スーパーワンダーレジ」導入店舗をJR赤羽駅で実証実験すると発表しました。このリリースに反応し、株価は大幅上昇。このリリースと同じ内容ですが、16日にJR赤羽駅の実験店舗がオープンしたと発表するとさらに上昇。

 近未来的な無人の特設店舗の話題は、メディアの映像も通じて広く報じられています。駅のコンビニだけでなく、その他のジャンルでも実証実験が行われる見通し。キャッシュレスや省人化関連としてテーマ性もありますが、何と言ってもリリースなどで材料が多く出ることが確実ということも魅力なのでしょうか。

 

4 極東産機(6233・ジャスダック)

 9月末にジャスダックに上場した直近IPO銘柄。兵庫県たつの市に本社を置く、創業70年の内装施工機器メーカーです。成長性重視のIPOとしては人気化しやすいとは言い難い銘柄でしたが…初値形成後の急騰ぶりは圧巻でした!

 地味ですが、個人的には面白い会社だと思っています。機械メーカーといっても、大手が手掛けないニッチな分野の“職人技”を機械化している企業。例えば、壁紙の糊付けや畳の製造マシーンです。今後、職人の人手不足も社会問題になります。機械化が難しいこうした分野の問題を解決するマシーンを作る稀有な存在。こうした銘柄を発掘しようとする個人投資家が増えてくるといいですね。

 

5 スタジオアタオ(3550・東証マザーズ)

 間の悪いタイミングでの決算発表ながら、内容が良すぎて地合いの悪さを吹き飛ばした銘柄です(決算発表はNYダウが急落した10日引け後。翌11日は、日経平均やマザーズの急落に逆行して前日比16%高)。

 10日発表した第2四半期決算は、営業利益が前年同期比4割増の5.5億円に。この時点で、通期予想の6億円にほぼ到達しています。「ATAO」ブランドの販促が上手く、自社ECサイトを通じた財布などの売上を伸ばしました。通期予想は据え置いていますが、今後の上方修正発表が確実視されています。

11月に注目したい新興株の動き

 暴落を経て迎える11月の新興株市場。前述の通り、追証の強制決済売りが最も多かったと見られる「10月30日寄り付き」を通過し、需給的なアク抜けから強いリバウンド相場に転じています。個人投資家の懐事情を理由にした、価格無視の下落…これはすでに峠を越えています。では、リバウンドはどこまで続くのでしょうか?

 10月30日をボトムにしたリバウンドの過程で、個人投資家の人気株は足並み揃えて上昇しました。一緒に下がって、一緒に戻している…ひとまず、個人投資家の動向だけに注目するなら、「急落→急反発」の両タイミングで値動きが目立った高流動性株をセットで監視し、その足並みがどこで崩れるかを見ておくだけで良さそう。

「急落→急反発」の両タイミングで、その通りに動いた高流動性株(かつ信用買い残も多い銘柄)でいえば、マザーズではメルカリそーせい、ジャスダックならテリロジーMTジェネックス辺りが指標銘柄でしょう。足元で急反発したのは、極度な悲観の反動。反動ですので、長く続くことは期待しないほうがいいでしょう。そもそも、ファンダメンタルズ的に売られ過ぎと言える根拠はないわけで…。

 これら、個人投資家の人気を支えに売買されている銘柄については、目先は決算発表が鬼門になります。8日(木)にマザーズのメルカリそーせいフィンテックミクシィ、ジャスダックのハーモニックフューチャーVCなどの決算発表が重なります。社数が多いのは週末9日(金)で、ジャスダックのテリロジーやMTジェネックスが予定されています。メルカリについては、何らかの業績予想の開示があればポジティブでしょうか。その他の銘柄では、理想と現実のギャップに苦しむ銘柄が多数出てきそう。

 ただ、成長性が高く、中小型株ファンドが好みそうな優良銘柄に関しては朗報もあります。需給要因で想像以上に10月の新興株が崩れたことで、好パフォーマンスを誇った小型株ファンドのパフォーマンスも著しく劣化しました。その結果、銘柄選びに定評のある小型株ファンドで、“申込受付再開”の発表が相次ぎました。具体的には、「日興グローイング・ベンチャーファンド」、「小型株ファンド(グローイング・アップ)」、「小型成長株ファンド(jcool)」の3本。

 この3本のファンドに共通するのは、運用の助言を独立系の投資顧問会社エンジェル・ジャパンアセットマネジメントがしているということ。そのため、ファンドの組入れ銘柄も大半が重複しています。申込受付の再開日も3ファンドとも今月2日から。

 直近の開示分から、組入れ対象として重複しているのがマザーズではイトクロラクスなど。基準価格が大きく下がった小型株ファンドに、再び個人投資家の資金が入ることになれば、ファンド好みの優良銘柄のパフォーマンス改善に寄与するでしょう。ただし、あくまで、“個人投資家の資金が入れば”…。何度も裏切られた2018年の株式市場、かなり懲りた投資家が多いとも聞かれ、理想通りの年末高実現にはなかなか期待はできません。