相場格言の中で、相場に迷った時にすぐに頭に思い浮かんでくるのが「相場は相場に聞け」の格言です。

「相場は相場に聞け」

為替取引を行う際にシナリオを想定しても、相場はなかなか理屈通り、シナリオ通りには動きません。自分が考えているシナリオあるいは経済的な要因からこのように動くはずだと言う読みがあったとしてもなかなかそのようには動きません。相場の読みが外れた時に、自分の想定シナリオや目標水準に固執し過ぎると大きな損失を被ることになりかねません。その時は一度相場を離れ、相場はどちらの方向に行きたがっているのかと、相場に真摯に対峙し、欲から離れ、素直に相場を見る姿勢が重要だと教えてくれるのがこの格言です。相場の行き先は相場だけが知っている。哲学的な格言ですが、自分の思い込みから解放してくれるありがたい格言です。

具体的にはどういうことでしょうか。例えばトランプ政権の経済政策として1兆ドルのインフラ投資があります。これを遂行すれば金利が上昇しドル高になるというシナリオが想定されますが、一方で予算という壁があります。予算が議会を通らなければ絵に描いた餅となります。最初は期待からドル高になるかもしれませんが、予算の実現性を疑問視する向きが増えればドル高の勢いがなくなってきます。そしてしばらく拮抗してから、実現性がかなり乏しいと判断すれば今度はドルが売られるところとなってきます。1兆ドルのインフラ投資は米国人にとってはメリットが大きいから予算は必ず通るはずだとのシナリオを想定したとしても、現実にドルが下がってくれば、予算の壁はかなり大きいと見る向きの人が多いということになります。このような事情や背景はすぐにはわかりませんが、相場の動きによってそのような見方が増えてきていると判断することができます。想定シナリオに固執し過ぎると、相場の行きたがっている方向が見えず、「そんなはずはない」とポジションを持ち続けることになります。相場の動く方向を見て、シナリオは間違っていると判断できれば、早く切り替えることが出来ます。

もう一つの例として短期的な動きの例を見てみます。米雇用統計が発表され、数字から判断してドル高だと思っても、現実には一瞬ドル高になってもその後売られるというケースが時々あります。その原因はポジションの偏りによってそういう動きになることもありますが、もう一つは発表された雇用統計の数字に対してさらなるドル高を惹起させる要因はないと見る投資家が多かったということが考えられます。解説によって後でわかるにしても、相場をやっている時にはすぐにはなかなかわからない場合が多く、瞬時に判断しないと火傷をしてしまいます。このような場合はドルの動きによって相場の流れを判断する方が賢明な場合があります。このことがまさに相場は相場に聞けということになります。後講釈の解説を後で聞くよりも、その場の相場の動きを見ることによって流れを掴みます。

株のデイトレーダーのこういう話を聞いたことがあります。株で儲けた成功体験をTV局がインタビューしました。TV局のスタッフが「今年の景気をどうみますか」と質問しましたが、そのデイトレーダーは「わかりません」と答えました。株は何万円まで上がると思いますかと尋ねると、また「わかりません」との返答でした。TV局のスタッフはびっくりしながら、「全く経済を予測しないんですか」と尋ねると、「私はマクロ経済には全く関心がありません。関心があるのはその日の株が上がるのか下がるのかだけです。上がると思えば買い、下がると思えば売ります。それを繰り返すだけです。」という内容でした。テレビを見ていて、この返答にはびっくりしました。まさにマクロ経済もミクロ経済も関係なく、「相場は相場に聞け」を実践しているやり方のように思いました。これはこれでひとつのトレードスタイルだなと大変感心した記憶があります。

相場の上げトレンド・下げトレンド

「相場は相場に聞け」、つまり相場はどちらの方向に行きたがっているのか。例えばドル円は上がっているのか下がっているのか、プライスの動きを見ながら判断するということはどのような動きになるかを考えてみます。既に意識的にせよ無意識にせよ実践されている方は大勢おられると思いますが、改めて整理してみます。

ドル円相場はどちらの方向に行きたがっているのか、つまりドル円は上がっているのか下がっているのか、上昇トレンドを形成しているのか下降トレンドを形成しているのかを考えてみます。相場というのは上げ下げを繰り返してトレンドを形成していきます。上げ相場(上昇トレンド)の場合は、上げて下げて、上げて下げてを繰り返しながら上昇していくわけですから、次の上げは前の上げより水準が高いということになります。また上げた後の下げは、前の下げよりも高い水準に位置していることが多いです。つまり上げ下げを繰り返している動きの中で高値を更新している限りそのトレンドは上げ相場となっていることになります。高値更新だけを注目するのではなく、上げの後の押し目の水準も注目しておく必要があります。上げの後の押し目を切り上げている限りその相場は上げ相場ということが判断できますが、押し目が切り下がった場合は注意が必要です。保合い相場になるかトレンドが変わる兆候かもしれないからです。

下げ相場(下降トレンド)の場合は、上げ下げの繰り返しの中で、下げ(安値)がどんどん更新されていく状態となります。そして下げの後の戻しが、前の戻しの水準よりも下がっていくことになります。前の水準よりも切り上がった場合は注意が必要です。保合いになるか上昇トレンドに転換する可能性があります。上昇トレンド・下降トレンドは以下の図のような動きになります。

前の高値を更新したかどうか、押し目を切り上げているかどうか、前の安値を更新しているかどうか、戻し水準を切り下げているかどうか、常に意識して相場水準をチェックしてみて下さい。短期的にも、週間や月間の中長期相場にもこの考え方は役に立ちます。そして相場に素直に耳を傾ければ、トレンドがよりフレンドに近づいてくると思います。