「これほどまでに『フェイクニュース』にあふれた記事が出現することを誰が予想しただろうか。党派で分断された報道が大衆を誤った方向に導いている」

またトランプ大統領がメディア批判をしているなと新聞の記事に目をやり、続きの文章を読んでいると、なんとこの記事は1890年代のアイオワ州の地方新聞の論説記事とのことです。当時もフェイクニュースがメディアに溢れ(と言っても当時のメディアは新聞しかありませんでしたが)、メディアが批判されていました。「フェイクニュース」という言葉が当時も使われていたのも驚きです。コネチカット州では、州議会がフェイクニュースの法規制を検討しているとの動きもあったようです。当時と今日の環境は似ていたようです。資本主義の発展による富裕層と一般大衆の分断、また1890年代は米国市場で外国生まれの人口が最も多かった時代と言われており、今日の移民が急増している状況と似ています。「フェイクニュース」は、歴史的にポピュリズムの台頭と密接な関係があるようです。

そのメディア批判ですが、トランプ大統領や政権内からのメディア批判はますます厳しくなってきており、対立姿勢が強まってきています。マーケット参加者には、トランプ政権とメディアとの対立姿勢は、公約の経済運営が上手く遂行出来るのかどうかとの警戒心が芽生え始めているようです。トランプ大統領は減税について「2、3週間以内に驚くべき発表をする」と予告しましたが、その後ムニューチン財務長官が「税制改革は議会が夏休みに入る8月までに議会を通過させたい」との考え方を示したことから、トランプ大統領が施政方針演説で減税について触れたとしても、実行までに時間がかかるのではないかと期待は萎むかもしれません。また、予算教書で防衛費の10%増額を盛り込むと発表しましたが、そこに減税も加わることから議会交渉のハードルが一段と高くなりそうです。マーケット参加者は、そろそろメディア批判や「驚くべき」「特別なもの」などの発言には食傷気味になってきているようです。

米株30年振りの12連騰

一方で米国株は、最高値を更新しながら1987年以来30年振りとなる12連騰を記録しています。政策期待からの連騰との説明が多いですが、むしろ企業業績とFRBの利上げペースの後退要因の方が大きいようです。米国債券の動きをみれば、そのことがよりよくわかります。米長期金利は、トランプ政権の警戒心とFRBの慎重姿勢から金利が低下してきています。この金利低下を受けて、為替はドル安の動きとなっています。このようにマーケットを動かす要因は、期待が先行する政治要因から現実を直視する経済要因、それを踏まえた金融要因に移りつつあるようです。そして経済動向への期待と失望が相場を先行させる動きとなりそうです。

まとめますと、為替を動かす要因の注目度合いが、

  • 政治要因から経済・金融要因に
  • 公約4%を実現させる減税とインフラ投資の規模と時期を含めた実現可能性に
  • 現実の経済成長スピード
  • これらを踏まえたFRBの利上げペース

に移りつつあるようです。

公約4%成長と現実

公約4%の経済成長は、最近の成長スピードで見るとどのような位置づけなのでしょうか。また、歴代政権の成長スピードはどのような実績だったのでしょうか。

直近で4%成長を達成したのは、ITバブルの年の2000年です。その後の平均成長率はわずか1.8%です。それ以前の1970年~2000年でも3.2%の成長に過ぎません。4%成長とはかなりハードルの高い成長だということがわかります。

それでは歴代政権ではどうでしょうか。レーガン大統領以降任期平均の実質成長率で4%近くを達成しているのはクリントン大統領(1993年~2000年)のみとなります。平均で3%超とハードルを下げるとレーガン大統領(1981年~1988年)が達成しています。オバマ前大統領は任期の2期8年中、一度も3%成長を達成しておらず、3%成長を達成できない戦後初の大統領となります。あまり芳しくなかったブッシュ(子)元大統領でさえ、2004年と2005年の2回3%超の成長を達成しています。果たしてトランプ大統領はどうなるでしょうか。まずは足元の米国の経済成長を見てみます。

米国GDP実績値(%)

2014 2015 2016 2016
1-3月
2016
4-6月
2016
7-9月
2016
10-12月
+2.4 +2.6 +1.6 +0.8 +1.4 +3.5 +1.9

2016年は、第3四半期(7-9月期)に一時盛り上がりましたが、南米の天候不順による大豆輸出の急増という一時的要因が剥げ落ちると、再び2%前後の巡航速度となっています。しかし、2016年通年では+1.6%と2%を割り、前年+2.6%から1%低い成長となっています。4%成長のためには2%以上の開きを埋めるという至難の業となりそうです。

それでは、FRBや国際機関は今年と来年の米国経済見通しをどのように予測しているのでしょうか。

FRBと国際機関の米国経済見通し(%)

  見通し時期 2017年見通し 2018年見通し
FRB 2016/12 +2.1(+0.1) +2.0(0.0)
IMF 2017/1 +2.3(+0.1) +2.5(0.4)
世銀 2017/1 +2.2(0.0) +2.1(0.0)
OECD 2016/11 +2.3 +3.0

※( )内は、前回見通しとの増減

FRBは、金利見通しは上方修正しましたが、成長については昨年12月時点では政策の内容がまだ推測できないため反映していないようです。ほぼ前回と同じ予測となっています。

IMFの見通しは、トランプ政権の減税やインフラ投資が景気を押し上げるとみて、昨年10月時点の見通しより上方修正しています。

世界銀行は、トランプ政権の経済対策を織り込んでおらず前回と同じ見通しですが、減税が実現すれば、2017年の成長率は2.5%、2018年も2.9%まで高まる可能性があると指摘しています。

OECDは、トランプ大統領が公約したインフラ投資を予測に織り込み、2017年に2.3%、2018年に3.0%と成長が加速する見通しを立てています。

このようにトランプ政権の政策を加味して予測している機関もあれば、加味していない機関もありますが、それでも高くて3%成長であり、全般的には2%台前半と予測しています。やはり、4%成長はかなりハードルが高そうです。

今後は、減税やインフラ投資の規模と時期によって米国の成長がどの程度加速するのか、そしてその影響によってFRBの利上げペースが速まるのかどうかに注目が集まっていきます。また、国境税などの保護主義や移民排斥などの政策の負の部分が、どの程度経済成長の足を引っ張るのかも注目していかなくてはいけません。相場の焦点は、政治要因から経済・金融政策と現実的な要因に移っていきそうです。

(参考)

FRB見通し … 3月、6月、9月、12月の年4回、金利、経済成長率、失業率、 物価見通しを四半期毎に発表

IMF世界経済見通し … 1月、4月、7月、10月の年4回、世界各国の経済見通しを発表

世界銀行経済見通し … 1月と6月、年2回、世界各国の経済見通しを発表

OECD経済見通し … 5月と11月に年2回、OECD参加国の経済見通しを発表

(OECD=経済協力開発機構)