9月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 まずは、指数別の9月の月間騰落率から眺めてみましょう。9月の月間騰落率は、日経平均株価が+5.48%、TOPIX(東証株価指数)が+4.71%、日経ジャスダック平均が+0.21%、東証マザーズ指数が+2.70%。ようやく上昇した8月に続き、マザーズ指数は9月も上昇しました。とはいえ、日経平均のパフォーマンスにはダブルスコアの差を付けられています。

 9月に月間1,254円も上昇した日経平均。月末最終日の9月28日に今年の高値を付ける圧巻の日経平均でしたが、上昇した理由として後講釈するならこの辺が挙げられます。①米中貿易摩擦懸念の出尽くしによる外国人投資家の先物買戻し、②自民党総裁選での安倍首相三選を外国人投資家が好感したこと、③(来年の消費増税や自然災害の増加により)確実視される大規模な財政出動を外国人投資家が期待していること、④中間期末に伴う年金やETFによる毎年恒例の配当再投資の買いが入ったこと、⑤想定以上の日経平均上昇に備えた買いヘッジ(コール買いや先物買い)が誘発されたこと。

 この①~⑤のいずれも、マザーズなど新興市場にほぼ関係無い話(外国人の関与率が低く、配当再投資の買いも一切入らないため)。日経平均やTOPIXにパフォーマンスで劣ったのも仕方が無いとしか言えません。

とはいえ、日経平均が年初来高値更新!といっても、温度差は相当高いものでした。日経平均が2万4,000円台に乗せ、月末には年初来高値も一時更新。その日にあってマザーズ指数は、年初来高値の1,367ポイントの約2割も下に位置しているわけですから・・・。日経平均が示す株価の好調ぶりなど、個人投資家の実情を何も表しません。

 9月はいろいろありました。月初早々に起きたTATERUショック(TATERUは東証1部の銘柄ですが個人の信用買い残が非常に多い)、月の中旬まで下がり続ける指数ウエイトトップのメルカリ影響、パイプラインの中断によるそーせいグループの2日連続ストップ安、再び人気化していた矢先におけるアンジェスの新株予約権割り当て発表など・・・。

 それぞれのホルダーにはきつすぎる1カ月でしたし、それぞれが新興株市場全体にマイナス影響を及ぼしました。それでも月間で指数は上昇できたわけで、そう思うと、グイグイ上がる日経平均が投資マインドを押し上げた部分はあったのかもしれませんね。

9月の売買代金ランキング(人気株)

 日米とも株式市場がリスクオンのムードを維持。こうした局面ではリスク許容度も上がるため、典型的なリスク資産の日本の新興株にも追い風ではあります。ただ、振り返ると日経平均も大きく上がりましたが、上がる過程では「なぜ上がっているのか?」がイマイチ理解できなかった印象があります。それなのに、上昇のスピードが速い・・・多くの個人投資家が買いでの参加を控えてしまう9月相場だったと思います。

 実際、9月のマザーズ市場の月間売買代金は1兆7,739億円と、8月(2兆868億円)に比べて減少しました。前月に続いて、ALBERTが売買代金ではトップ。フィンテックの急浮上もありましたが、いずれも市場全体に波及するほど時価総額の大きな銘柄でもなく・・・。

 前月21%下げたメルカリが月後半巻き返して何とかプラスに持ち込んだのは朗報ですが、多数の個人投資家の信用評価損益率を高めるような銘柄が出てきません。物色難という悩みはなかなか解決しませんね。

市場 コード 銘柄名 9月末
終値
(円)
時価総額
(億円)
売買代金
25日
移動平均
(億円)
前月末
終値比
(率)
東証マザーズ 3906 ALBERT 10,700 301 60.6 1.61
東証マザーズ 8789 フィンテック 195 363 57.8 46.61
東証マザーズ 4565 そーせい 1,371 1046 55.7 -19.44
東証マザーズ 6033 エクストリーム 8,240 222 46.0 -28.22
東証マザーズ 4385 メルカリ 3,755 5295 44.0 1.48
ジャスダック 3356 テリロジー 1,613 253 44.0 41.36
東証マザーズ 3664 モブキャストH 593 103 37.3 -16.00
ジャスダック 8909 シノケンG 1,204 438 31.3 -31.00
東証マザーズ 4592 サンバイオ 3,945 1961 30.9 -4.24
ジャスダック 3776 ブロバンタワ 339 177 23.9 15.69
ジャスダック 6324 ハーモニック 4,185 4031 23.1 -7.10
東証マザーズ 3491 GA TECH 3,450 293 22.3 -36.81
東証マザーズ 3990 UUUM 4,090 746 22.1 44.01
東証マザーズ 4563 アンジェス 566 514 20.7 9.05
東証マザーズ 4390 IPS 10,900 264 20.6 35.40
東証マザーズ 5704 JMC 4,835 126 20.3 12.31
東証マザーズ 7034 プロレド 14,150 362 15.9 44.97
ジャスダック 6425 ユニバーサル 3,465 2779 15.9 -6.47
ジャスダック 2146 UT GROUP 4,055 1637 15.2 8.42
ジャスダック 6787 メイコー 3,130 839 15.1 1.13

売買代金ランキング(5銘柄)

1 フィンテック グローバル(8789・東証マザーズ)

 この銘柄が動意付くときは、ほぼ“ムーミン”ネタ。その経緯は遡ること約5年、2013年11月に「ムーミン」を主題としたテーマパークの設立を発表したことから始まります。その後は紆余曲折ありましたが、今年8月、ついに2019年3月16日に開業すると発表。埼玉県飯能市にムーミンのテーマパーク「メッツア」内に有料施設「ムーミンバレーパーク」がオープンするそうです。テーマパークの情報が9月相次いで発表されたこと、そしてマザーズでは数少ない超低位株ということもあってデイトレーダーに人気化。

2 そーせいグループ(4565・東証マザーズ)

信じられない大暴落と、強めのリバウンドで売買が膨らみました。信じられない大暴落(2日連続ストップ安)のきっかけは、18日に発表した認知障害治療薬のパイプライン「HTL0018318」の開発中断。この発表を受け、「ワーストシナリオである開発中止まで前提にすれば、将来的な売上見通しの大幅減は避けられない」との見方が市場で広がりました。
ただ、25日引け後に、別のパイプラインでのグッドニュース(口腔咽頭ガンジダ症治療薬のパイプラインが国内での製造販売承認を取得)を発表。直前の売り材料でかなり空売りが入っていたとも見られ、ショートカバーを巻き込みながら大きくリバウンドしました。製薬大手に独自プラットフォームのライセンス契約をしているため、パイプラインが豊富なそーせい。パイプラインが多い分、悪材料も出やすいですが、好材料も出やすい・・・これが創薬一本のバイオベンチャーとの違いといえます。

3 シノケングループ(8909・ジャスダック)

 8月末に、同業のTATERUに不祥事が発覚。建設資金の借り入れ希望者の預金通帳を改ざんし、銀行に融資の申請をしていたと報じられました。ストップ安売り気配のTATERUに巻き込まれ、同業の同社も月初3日に15.7%安。
 そもそもアパートなど賃貸住宅への投資が冷えつつあったなか出てきた今回の問題。金融庁が投資用不動産への過剰融資抑制に動くことが、関連企業全体にネガティブといえます。

4 アンジェス(4563・東証マザーズ)

 9月前半から突如動意付き、25日に約7カ月ぶりの株価600円台を奪回。その矢先に、三田証券を割当先とする新株予約権を発行すると発表・・・まさにハシゴを外される形となりました。
 開発パイプラインが順調に進んでいるからこそ、研究開発費は増加します。その資金に充当するためのファイナンスですので、前向きな話なのですが・・・株価が上がるとファイナンス(しかも公募増資は難しい業種のため、行使価額修正条項付の新株予約権発行)が出やすい、これはバイオベンチャー投資の宿命です。

5 ユニバーサルエンターテインメント(6425・ジャスダック)

 年初来安値圏で、ほとんど株価も動かず、売買も少なかった同社株。出来高を急増させながら急落したのは、月末も迫った26日でした。

 きっかけは、一部メディアのスクープ記事。菅官房長官がパチンコの規制に本腰を入れるといった内容を配信すると、SNS上で拡散されながら株価も大きく下落しました。直近で携帯キャリアに対する菅官房長官の発言が通信株大手に影響していたこともあり、ネガティブな反応がより強く出ました。
 

9月の株価値上がり率ランキング

 9月のナンバーワン値上がり銘柄は、ジャスダック上場の地域新聞社(月間で3.2倍!)。千葉県船橋市に本社を置き、「ちいき新聞」という無料情報誌を発行している会社です。また、8月に株価が5.8倍になったMTジェネックスは9月も大幅高。
 
 それにしても目立つのは、時価総額が100億円にも満たない超小型株だらけ(トップ20銘柄のうち、12銘柄が時価総額100億円未満)ということ。物色難が続いていますので、ランキングを見て値動きのいい銘柄に付くような投資行動が主流です。同時に注目し、同時に資金を投入するわけで、超小型株が需給ギャップで上がるのは当たり前。下がり始めると、上がるときと同じ需給構造ですので一気に下がります。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
(%)
9月末
終値
(円)
前月末
終値
価格
(円)
時価総額
(億円)
ジャスダック 2164 地域新聞 219.0 1,716 538 32
ジャスダック 4356 応用技術 55.6 1,690 1,086 48
ジャスダック 9820 MTジェネック 55.5 38,400 24,700 415
ジャスダック 5216 倉 元 51.4 218 144 35
東証マザーズ 8789 フィンテック 46.6 195 133 363
東証マザーズ 3558 ロコンド 46.2 1,724 1,179 188
東証マザーズ 7034 プロレド 45.0 14,150 9,760 362
東証マザーズ 3990 UUUM 44.0 4,090 2,840 746
ジャスダック 3356 テリロジー 41.4 1,613 1,141 253
東証マザーズ 6027 弁護士コム 39.2 4,775 3,430 1059
ジャスダック 3953 大村紙業 39.2 1,386 996 68
ジャスダック 9827 リリカラ 38.2 246 178 31
ジャスダック 2673 夢 隊 37.1 159 116 17
東証マザーズ 6579 ログリー 36.9 3,695 2,700 69
ジャスダック 2373 ケア21 36.8 2,965 2,168 73
ジャスダック 6239 ナガオカ 36.3 1,284 942 45
東証マザーズ 4390 IPS 35.4 10,900 8,050 264
東証マザーズ 3927 アークン 34.0 1,850 1,381 82
東証マザーズ 6067 メディアF 33.6 1,777 1,330 89
東証マザーズ 3682 エンカレッジ 33.0 1,354 1,018 94

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ロコンド(3558・東証マザーズ)

 ほぼ右肩上がりに上昇し、9月に年初来高値を更新しました。月初3日正午に、8月のEC受注高を発表。キャンセル・返品前の速報値で前年同期比60%増という伸び率を示したことで、売上のモメンタムの強さが好感されました。
 なお、12日に英大手運用会社ベイリー・ギフォードが5%ルールで買い増ししたことを報告(前回11.11%→今回12.37%)。機関投資家といっても、海外ファンド。外国人買いで上がり始めた中小型株として覚えておきたいところです。

2 プロレド・パートナーズ(7034・東証マザーズ)

 今年7月に上場したばかりの直近IPO銘柄。コンサルティングファームですが、完全に成果報酬型を採用している珍しい企業です。
動きを止めていた株価が急騰したきっかけは、13日に発表した第3四半期の決算発表。営業利益は6.6億円で、IPO時に開示していた通期計画の5.6億円を大きく超過しています。IPO直後に失望決算を発表する企業が増えてきたなか、非常に素晴らしい決算内容。さすが完全成果報酬型のコンサルティングファーム、結果を出しますね。

3 UUUM(3990・東証マザーズ)

 7月、8月と続いた上昇基調が9月も加速。上場来高値をグイグイ切り上げた1カ月でした。14日に、株式分割(3分割)と、Instagramに特化したインフルエンサーマーケティングプラットフォームを提供する「レモネード」の完全子会社化を発表。買収したレモネードの寄与を理由に、長期的な業績見通しを引き上げるアナリストもいました。

4 弁護士ドットコム(6027・東証マザーズ)

契約締結の作業をウェブ上で完結させる「クラウドサイン」の導入企業が拡大中。株価上昇が続くなかで、信用買い残が逆行して減少しています。これが意味するのは、買っているのが個人投資家ではないということ。
実際、20日に英大手運用会社のベイリー・ギフォードが5%ルールで買い増しを報告(前回5.16%→今回6.36%)。機関投資家がビジネスモデルを高く評価している銘柄といえそうです。

5 大村紙業(3953・ジャスダック)

 任天堂の「ニンテンドーラボ」に段ボールを供給するのでは?という思惑で一度人気化した段ボールメーカーの小型株。忘れた頃に再動意したきっかけも思惑でした。民放の人気経済情報番組で、“儲かる!箱ビジネス”が特集されるとの番組告知で火が付きました。

10月に注目したい新興株の動き

 今年の2月以降の傾向なのですが、マザーズ市場は月が替わった直後に大きく崩れています(マザーズ指数のチャートなどで見てみてください)。そして10月も、第1週に週間で5%強の下落から始まりました。

 この10月第1週に大きく下げた主な銘柄を挙げますと、例えば弁護士コム(前週比▲11.4%)UUUM(同▲11.4%)アルファポリス(同▲11.4%)ラクスル(同▲11.2%)オイシックス・ラ・大地(▲10.7%)シルバーライフ(同▲10.6%)JMC(同▲9.9%)など。これらに共通するのは、業績好調や成長性が高いといった切り口から中小型株ファンドのご用達銘柄だったと見られる点。これは、東証1部やジャスダックのパフォーマンス良好な中小型株でも同様で、理由もなく同時に崩れています。

 ここから推測されるのは…年度の下半期に入ったタイミングでもあり、中小型ファンドに益出し目的の解約売りが来ているのではないかということ。10月の新興株、まずはこの優良銘柄ほど下げる現象が一服するのを待ちたいところ。解約売りであればどこかで収まるため、この需給要因で下げたと見られる新興株(前述の大きく下げた主な銘柄群など)は押し目買いのチャンスとも言えるでしょう。逆に、10月第1週に下げていない新興株というのは、中小型ファンドなどプロが保有していない銘柄とも言えそうですね。

 10月の新興株を展望するうえで気にすべきは、10月5日に一部メディアで報じられたソフトバンクグループの携帯子会社ソフトバンクのIPOの話です。報道ベースの情報を整理すると、①公開規模2.5兆円の超大型IPOになる、②11月上旬にも東証が承認、③上場日は12月中旬(12月19日が軸)。このスケジュールであれば10月は関係ない話ですが、11月以降には実際の募集が始まるわけです。

 6月のメルカリIPOの前にも本コラムで触れましたが、募集期間中に個人投資家の資金が拘束されていきます(ブックビルディングに参加するため)。約7割シェアの個人投資家で出来ている新興株だけに、個人マネーの巡りが悪くなると新興株は必然的に軟調化します。この心配の種が見えている以上、手前の10月に新興株を買ってみよう!なる楽観ムードは生まれないのではないでしょうか。