米中貿易戦争は長期化し消耗戦へ    

 9月24日、トランプ米政権は2,000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を課す対中制裁関税第3弾を発動。すかさず、中国は600億ドル相当の米国製品に5~10%を上乗せする報復関税を実施しました。中国は同時に発表した貿易摩擦に関する白書で「貿易戦争を恐れない」と反発。「極端な保護貿易措置は世界経済の最大リスクになった」と米政府を激しく非難しています。

 中国は、これまで米国が標榜(ひょうぼう)していた「自由貿易」を擁護するのは中国だと世界にアピールする狙いがあるのでしょうが、数年前では考えられない米中逆転のスタンスとなっています。

 しかし、米国の対中制裁関税は第3弾で終わる様子はありません。

 トランプ大統領は、中国が第3弾に報復すれば、2,670億ドル相当の「第4弾」を発動して、中国からの輸入品すべてを制裁対象にすると警告しています。

 しかし、対立がエスカレートしている環境の中で、米ダウ平均は先週、高値を更新。ドル/円もドル高の動きとなっています。株も為替も、貿易戦争による影響を現時点では無視して動いていますが、物価上昇や成長力低下など米中の経済への影響が明確になってくれば、相場も無視できないはずです。

 24日、IMF(国際通貨基金)が米中貿易戦争の影響を分析中であることが分かりましたが、10月のIMF総会で公表予定の概要では、貿易戦争の影響により、当事者である米中の2019年経済成長率をそれぞれ最大0.9%押し下げると分析しています。さらに、世界経済成長率も最大0.7%程度の押し下げられると見込んでいます。

 表1で示すように、もし最大の押し下げとなれば、2019年の世界経済は7月時点の見通し3.9%から3.2%に、米国は2.7%から1.8%に、中国は6.4%から5.5%に低下することになります。

表1:IMFによる米中貿易戦争の影響分析

単位:%

 中国サイドでも貿易戦争の影響を試算。中国人民銀行の通貨政策委員を務めるエコノミストは米中間で500億ドル規模の貿易戦争が起きれば、中国のGDP(国内総生産)が0.2%押し下げられるとの試算を示しています。これは7月時点の試算なので、現在の米国による実際の制裁規模はこの5倍に拡大しています。影響度合いも単純に5倍と考えるとGDP は1%になり、IMFの分析に近い数字となります。

 いずれにしろ、中国や米国が1%近くの成長力ダウンとなると、日本や欧州、新興国への経済の影響は計り知れないものとなりそうです。

 

貿易戦争長期化予測で、下落のダウ平均

 先週、高値を更新した米ダウ平均は今週に入って下落しました。

 これは、21日に「ウォール・ストリート・ジャーナル電子版」で、米中閣僚協議再開を中国側が拒否したと報じたことが下落の大きな要因のようです。24日の貿易制裁発動は織り込まれていたため、制裁発動自体よりも9月下旬に再開予定の協議が拒否されたことで、貿易戦争が長引くのではないかという警戒感が一気に広まったようです。

 協議再開拒否の報道を受けて、米中間選挙の結果を見極めるまで、中国は協議を再開しないという見方が浮上しています。もし下院で民主党が過半数を取り、トランプ政権が勢いを失えば、11月の米中首脳会談では何らかの妥協点を見出すことができるのではないかという中国の思惑があるからです。このため、米中貿易戦争は、米中間選挙までに交渉が始まって解決に向かうというシナリオの優先度は低くなってきたようです。

 そして、対立が長期化すればするほど、米国経済への打撃は大きくなってきます。来年後半には減税効果もはがれてくると言われており、2018年は大丈夫という楽観的見通しだけでは投資も細ってくることが予想されます。

 

FOMCの焦点は12月利上げと、2019年の利上げ回数

 このような中で今週24~25日にFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。利上げはほぼ織り込まれていますが、今回の注目点は次回12月の利上げ、あるいは2019年の利上げ回数についてどのような見方をするかという点です。

 また、貿易戦争の影響についてFRB(米連邦準備制度理事会)がどのような認識を示すのかという点です。FRBはまだ影響を織り込んでいませんが、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は24日の議会証言で米中による報復関税の応酬が欧州経済に与える悪影響について準備する必要があると強調しました。

 今週開催のFOMCでは、FRBも貿易戦争の長期化を重視し、その影響を考慮するような姿勢をにおわせてくるかもしれません。そうなれば、金利低下、株高、ドル安の動きにつながります。

 今週は日米首脳会談だけでなく、貿易戦争の長期化という時間軸が加わったことによって、FOMCの注目度も高まってきたようです。