2001年以降現在まで、秋は米国株にとって、歴史的にパフォーマンスの悪い時期となっています。2001年9月には同時多発テロ、2008年9月にはリーマンブラザース破たんという歴史的なイベントもありましたし、そうでなくても2011年秋には米国の国債デフォルトの懸念が高まったり、2015年秋には中国株安を発端とした世界的な株安がありました。もちろんこのような、メディア的に分かりやすい下落要因もあるのですが「この時期は米国の税制が理由で、市場で実際に売りが出やすい時期である」というのが、第一の理由です

 米国では、12月末が個人所得の決算期末となっています。それまでに配当の支払い等を完了させる必要があるため、投資信託の決算期末が10月末に集中しています。投資信託会社は、個人の税金負担を軽減するために、ポートフォリオ内で損益通算のための取引(含み益と含み損の出ている銘柄を同時に売却)を、それまでに積極化させるのが大きな要因とされています。今年はS&P500指数はこれまでで約7.5%の上昇となっていますが、上昇が一定のセクター・銘柄に集中しているということもあり、このような損益通算による売りが出やすい状況と言えます。

 第二の理由は、この時期は2年に1度の選挙前で、今年は中間選挙があることです。今回の中間選挙では、下院で民主党が過半数を奪回する可能性が高いと見られています。これを巻き返そうと、共和党もさまざまな過激策を打ち出しつつあります。これに対して民主党も、トランプ大統領に対してなりふり構わず攻撃の手を強めています。このように、現在は政治的な不透明感が高まりやすい時期であり、株式投資にとってはマイナス要因となります。

 第三の理由は、今月後半に予定されている利上げです。米国経済が好調であることは間違いないのですが、だからといって特にインフレ率が上昇しているわけではありません。むしろ新興国市場の問題もあってドルは上昇しており、これによって私が見ている5年物期待インフレ率は春以降低下傾向。足元ではFRB(米連邦準備制度理事会)の目標である2%を下回ってきています。市場では、利上げはほぼ確実視されているようですが、利上げを数カ月遅らせたからといって何のデメリットもない状況で行われるわけですから、株式市場は「余計な利上げ」と捉える可能性が高いと見ています。

 第四の理由は、これはヘッジファンドの成功報酬に関わる税制の影響です。今年から成功報酬に対する課税の繰り延べが認められなったため、ヘッジファンドが納税のために、利益の出ている銘柄を現金化する目的で売却せざるを得なくなります。今年は、3月末と6月末に米国株式相場が大きく下落していますが、この税制が少なからず影響していたものと考えられます。とすると、おそらく9月末に向けても同じような動きが出る可能性があると見ておくべきだと思います。

 第五の理由は、これら一~四の悪材料を吸収するようなサポート材料が、特に9月は見当たらないことです。現在、米国の株式相場を支えている大きな要因は企業業績ですが、次回本格的に決算発表が始まるのは10月半ばです。どのような悪材料が出ていようとも、株価評価の本質である業績が良ければ、それによって株価は上昇しますが、そのきっかけがこの先数週間は見当たらないという状況なのです。

 このように見てくると、今年もこの時期、調整局面が訪れる可能性が高い、と考えざるを得ません。しかし私は同時に、この調整局面が米国株投資にとって絶好のチャンスとなる可能性が高いと考えています。

 というのは、上記に挙げた「米国株の調整材料」は、すべて10月に入れば順次なくなっていくものだからです。投資信託による損益通算操作は決算期末のギリギリまでやっているとは思えませんし、選挙直前になれば、ほとんどの材料は相場に織り込まれるでしょう。利上げは必要、とは思いませんが、本当にそうであれば長期金利が低下することによって株式相場のサポート材料となるでしょう。ヘッジファンドによる納税のための現金化は、9月末がピークと推測されますし、10月になればおそらく、前年比で今年最高の増益率となる決算発表が始まります。そして何といっても、来年はトランプ大統領が任期3年目に入ります。歴代の大統領は再選を目指し、任期3年目に経済や株式相場を持ち上げてくる傾向が顕著です。

 前号で米国株式のリスクはむしろ「過剰な上昇」だと記しましたが、こう考えてみるとそれが始まるのはそれほど先の話ではないのではないか、だとするとこの時期の調整局面はむしろ絶好の投資機会と捉えるべき、と考えています。