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 内閣府は、7月に公表した「世界経済の潮流」の中で、主要国の民間債務が世界経済に与えるリスクを分析し、金融危機後の中国の債務拡大が際立っていることを指摘しました。中国政府も民間の『過剰債務』を問題視し、デレバレッジ(債務の削減)の方針を打ち出しています。巨額の『過剰債務』は処理できるのでしょうか?

 

【ポイント1】中国の民間債務はリーマン・ショック後に急拡大

景気対策により企業債務が膨張

 内閣府の「世界経済の潮流」によれば、中国の民間非金融部門の債務残高は、2008年のリーマン・ショック前には名目GDPとほぼ同じペースで増加していましたが、金融危機後は同残高の増加ペースが名目GDPを一貫して上回り、2016年の名目GDPが2000年の約10倍となったのに対し、同残高は約17倍に達しました。民間債務残高を企業部門と家計部門に分けると、企業債務の拡大が目立ちます。

 企業債務が膨らんだのは、金融危機後の景気を支えるため、地方政府系企業や国有企業が銀行からの借り入れを増やして、インフラや不動産開発の投資を急拡大させたことが背景です。国際決済銀行(BIS)によると、企業債務のGDP比は08年12月の96.3%からピークの16年6月には166.9%に達しました。ただ、デレバレッジの取り組みで17年12月には160.3%と高水準ながら、小幅に改善しています。

 

【ポイント2】中国の家計債務も拡大

住宅ローン増加が背景

 一方、中国の家計債務は足元で拡大しています。BISによると、家計債務のGDP比は08年12月の17.9%から17年12月には48.4%と過去最大になりました。このところ伸びが加速しているのは、住宅価格の上昇や住宅購入者の増加に伴い住宅ローンが増えていることが要因です。中国人民銀行によると、17年12月の個人向け住宅ローンの融資残高は21.9兆元で、家計債務の5割を超える水準です。13年以降住宅ローン残高は毎年10%を大きく上回る勢いで伸びています。

 

【今後の展開】デレバレッジは中長期で慎重に行われよう

 中国政府は、金融リスクの抑制を経済の最重要課題に掲げて、『過剰債務』の削減を進めようとしています。長期的に緩やかなインフレ環境を醸成することで企業業績を価格面から支えつつ、不動産市況の底割れを防ぐと共に銀行システム強化によって信用創造機能の毀損を回避させながら、デレバレッジの処理を進めると考えられます。ただし、米国との貿易摩擦拡大で輸出減少が懸念される中、処理を急ぐと思わぬ景気下振れを招く恐れがあるため、デレバレッジは時間をかけながら慎重に進めるとみられます。難しいかじ取りが求められますが、日本など先進諸国の事例も参考にしながら、コントロールを行うと思われます。