株主優待めあての投資スタイルはアリか
株式投資をする人、特に個人投資家で投資初心者は「株主優待」が大好きです。
株主優待をめあてに投資をしている、という人も少なくないでしょう。ビックカメラ(3048)やイオン(8905)などの小売店の株式を手に入れて割安の買い物を楽しんでみたり、カゴメ(2811)やタカラトミー(7867)のような企業の株主になって商品やグッズを得たり、株主優待は魅力がたくさんあるように思えます。
株主優待で暮らしている有名人がいて、テレビや雑誌に引っ張りだこであることを思うと、やっぱりみんな株主優待好きだなあと思います。
「なんとなく投資」からの卒業を目指して、いろんなお金の話題を考える本連載、今回はこの株主優待、ちょっと辛口に考えてみたいと思います。
株主優待が「持ち株数に比例しない還元」であることは本来おかしいと知っておこう
当たり前のように株主優待で銘柄選びをしている人はほとんど気にしていないと思いますが、実は株主優待というのは、日本独特の風習です。
本来、株主の権利は発行済み株式に占める持ち株の割合に比例するのが原則です(株主平等の原則)。100万株あった株を1万株持っている、ということは議決権行使の権利が1%あるということですし、10万株持っていれば10%分の権利があります。配当金も同様です。1万株の株主と10万株の株主は持ち株数に比例して配当金をもらいます(ここは原則論なので、議決権のない株式などはここでは省略します)。
ところが株主優待リストを見ていると「100株以上の株主は△△割引券を1枚もらえる」「1,000株以上で□□円相当の自社商品詰め合わせをもらえる」のように、株式の保有数とは比例関係にないことがわかります。むしろ大株主は損をしています。
現状、株主優待の金額水準などはそれほど高くないことなどから、株主優待は株主平等の原則には反するものの社会的に容認されている制度といえます。
株主優待に入れ込むことの注意点をいくつかあげてみよう
一方で、「公平ではないから利用してはいけない」というわけではありません。それが法令などで許容されている仕組みであれば、有利な仕組みを使わないことは非合理的であるからです(似たような仕組みとしては「ふるさと納税」があります。居住地の地方自治体の住民税を財源不足にさせるほど個人は返礼品で得をするといういびつな仕組みになっていますが、今のところこれは合法的な措置ですからやらない人のほうが損になります)。
しかし、やみくもに株主優待を使えばいいというわけでもありません。やはり、注意点がいくつかあります。
注意1)企業評価で「情に棹(さお)さす」とならないようにする
企業の実体的な価値ではなく株主優待に目がくらんだ状態は投資としてあまりよろしいものではありません。何よりよくないのは、情にほだされる恐れです。
企業としては個人投資家にファンになってもらい、その投資以外の日常生活で自社商品を選好してもらいたいからこそ、株主優待を提示します。投資をしているからこそ、買い物でもライバル社ではなく投資企業の商品を買ってしまうことはよくあります。
日常生活の買い物くらいならまだかわいいものですが、気がつけば企業評価にも「情」がわいてきてしまいます。本来ならそろそろ手放すべき時期に来ていても、ついつい保有を続けてしまい、企業の長期低迷に保有銘柄が巻き込まれてしまったら、これは「情に棹させば流される」となってしまったことになります。
本業と無関係の株主優待を設定したり、業績が悪化しても株主優待を継続している企業については、少し辛口に構えているくらいがいいと思います。
また、株主優待めあてで企業選びをすると、消費者と直接つながっている食品メーカーや小売店ばかり銘柄保有することになりバイアスがかかる恐れもあります。
投資においてファンになるのはいいのですが、ファンになりすぎてはいけないのです。
注意2)権利確定日を気にして買うことばかり考えない
優待が欲しいあまりに権利確定日直前に株式購入をしている人も多いでしょう。しかし、配当の権利確定日と権利落ち日、つまりこの日に株式を保有していれば株主優待がもらえるその日を前後して株価は上昇し、経過後株価は下がる傾向があります。
これは最近、株主優待目当ての投資家が増えてきていることもあるようですが、確定日・権利落ち日前後の株価の騰落が株主優待の金銭的価値に近づいている傾向もあるようです。
仮に1,000円の株主優待をもらえる会社を買ったとして、権利が確定した翌日株価が1,000円下がったものを手放していたら、これは投資としてほとんど意味がない、ということになります。
株式の売買手数料がかかりますから、下手をすれば優待で得をしていないことにもなりかねません。権利確定日ばかり気にした短期的保有はリスクを小さくしているように思えるかもしれませんが、むしろ短期的な騰落に巻き込まれるリスクを負っていることでもあります。
中長期的な企業の成長チャンスを踏まえて、権利確定日のことは気にせず購入し、中長期的に保有していたら、何度か株主優待も得て、かつ株価も上昇し、特に売り時を急がなくてもよくなったので、10年長期保有中――みたいな投資スタイルを目指してみたいものです。
注意3)配当でもらった相当額を投資に再投資することを考える
株主優待は見方を変えれば本来株主に配当する原資の一部が「モノ」に変わっているともいえます。これはつまり、株主優待も配当の一部ということです(前述のとおり株主平等の原則には反するため、大株主ほど還元率は悪くなるが)。
だとすれば、株主優待をもらったら、それに相当する金額については手元の財布から入金をして、投資元本の増強にあててみるべきだと思います。
近年は配当金を証券口座に入金させ再投資の元本にしていることが多いと思いますが、手元に受け取った株主優待も「食費が1,000円浮いた」「割引券で2,000円浮いた」と得をするたびに1,000円ないし2,000円証券口座に随時入金をするのです。
最初はわずかな金額ですが、長い目で見れば投資元本の増加につながります。これは、株主優待も投資のサイクルから逃さない方法です。
個人投資家、上手に株主優待とつきあおう
少し厳しめの話をしてしまったかもしれませんが、株主優待目当てだけが投資のスタイルではない、ということを少し話してみました。
株主優待は投資デビューのきっかけとして魅力的なことは間違いありません。しかしそれがすべてではないのです。
分散投資をまじめに考えたとき、株主優待は特定の業種に偏りがち(小売業やメーカーなど)ですし、国内企業への投資に集中してしまうことも問題となります。
夢中になりすぎず、賢く「実」を取るような株主優待投資のスタイルを模索してみてください。
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