政府要請で「抗がん剤」値下げ懸念、医療保険リストへの採用増はプラスに

 BOCIは最新リポートで、抗がん剤に関する直近の政策動向を報告するとともに、国内製薬会社に対する影響を分析した。中国政府は抗がん剤の円滑な供給に向け、多国籍企業に対して価格引き下げを求め、その代わりに減税や医療保険対象としての資格付与、一元管理型の調達システムの導入、審査・認可のスピードアップといった優遇措置を提示した形だが、BOCIはこれが国内医療システムの高度化を目指す戦略の一環であるとし、政府が「医薬品セクターの自由化を支援する」とのメッセージを発したと受け止めている。より正確には、「製品価格さえ適正であれば、欧米企業を受け入れる」とのメッセージを発したとの見方だ。多国籍企業との競争激化はこの先、市場シェアや製品ライフサイクル、利益率などの点で、国内ジェネリック(後発医薬品)メーカーにマイナス影響を及ぼす見込み。ただ、その一方、今後は特許薬と比べた価格競争力の高さや「医療保険対象リスト」への採用期待を背景に、イノベーティブな医薬品や先行薬(中国生物製薬(01177)のアンロチニブや石薬集団(01093)のアルブミン結合パクリタキセルなど)の国内開発が加速するとみている。

 中国政府は抗がん剤を対象とした輸入関税の撤廃や増値税(VAT)の3%への引き下げを決めたが、これに続いて製薬各社との価格交渉を行った上で、医療保険リストに採用する抗がん剤の種類を増やす方針。交渉は9月末までに終わるという。報道によれば、国家医療保障局(SMIA)は、非小細胞肺癌や大腸がん、腎細胞がん、メラノーマなどを適応症とする抗がん剤18種(輸入薬16種、国産2種)をすでに認定したもよう。中国当局は16年5月、17年7月にも抗がん剤2種、15種を国家基本医療保険リスト(NDRL)に組み込んだ経緯があったが、SMIAによれば、この際の値下げ幅は平均57%だった。

 一方、地方レベルでは10を超える省・市・自治区で特定の抗がん剤の値下げが行われた。国内外の製薬会社を見渡すと、ファイザーの「パクリタキセル」、ヤンセンファーマの「デシタビン」、貝達薬業の「イコチニブ」が対象となった。また、SMIAは省当局に対し、抗がん剤の調達一元化を要請しており、価格交渉だけでなく、こうした調達方式の変更に伴う値下げも9月末までに実施される予定という。

 MSCIチャイナ・ヘルスケア指数は現在、フォワードPERで22.0倍と6月前半の25倍から後退した。BOCIは製品の値下げ観測に加え、中国で起きた不正ワクチン事件が影響したと指摘しながらも、この先◇イノベーティブ薬など国内開発製品に関する最新販売統計の発表や医療保険リストへの採用情報、◇同リストへの採用に伴う販売増やVAT調整による利益上乗せといった朗報が伝われば、投資心理が上向くとの見方。利益見通しが明確で、かつ短期的に製品候補の多様化や収益貢献が見込めるディフェンシブ銘柄を有力視し、三生製薬(01530)と上海復星医薬(02196)を選好している。