株式市場は足踏み状態、為替市場は円高傾向

ここ数年、米国を中心に世界の株式市場は上昇し、為替市場も円安が進行しました。しかし、直近数カ月では株式市場は足踏み状態となり、為替市場も円高に振れています。トランプ政権への期待感が落ち着き、FRB(米連邦準備理事会)がバランスシートの縮小に言及する一方で、米株式市場は歴史的に見てバリュエーションがやや割高という声も一部で聞かれます。また、足元では米によるシリア攻撃や北朝鮮問題などの地政学リスクも懸念され、マーケットは身構えています。

先行き不透明感が高まるときこそ、分散投資の重要性についてあらためて考えておきたいものです。株価下落のリスクをヘッジするためには、一般的に株式と逆の値動きをする為替ヘッジ付きの先進国(高格付け)債券を組み合わせるのがセオリーです。しかし、株式と比べて値動きがマイルドな債券ファンドで株価下落のリスクをヘッジするには、かなりの資金を債券にシフトしなければなりません。また、先進国債券は依然として低金利でリターンは見込みにくいのも事実です。そこで今回は、株価下落や円高に備える分散投資のツールとして、金関連ファンドを紹介しましょう。

金(ゴールド)のメリット、デメリット

まずは金(ゴールド)のメリット、デメリットを整理しましょう。金のメリットは株式や米ドルと逆の値動きをすること、つまり分散効果が高いことにあると言われています。図1は、直近(2014年12月末~2017年3月末)の米国株式ファンド、金関連ファンド、円/ドルのチャートです。グラフを見ると、金関連ファンドが米国株式ファンドや円ドルチャートと逆の値動きをする傾向が見て取れます。また、「有事の金」といわれるように、戦争などの地政学リスク、金融不安などが高まる局面で金が買われる傾向にあります。

図1:米国株式、金(ゴールド)、円/米ドルの値動き

※ 米国株式ファンドは「SMTAMダウ・ジョーンズインデックスファンド」、金関連ファンドは「ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)」、円/米ドルはTTM。各ファンドの値動き(左軸)は、2014年12月末を10,000として指数化。

もちろん、デメリットもあります。それは、金自体には金利や配当がつかず、利益を生まないことです。利益を生まないということは、株式や債券のように長期で保有すれば成長するというものではないということです。したがって、金の保有はあくまでも資産全体の一部に留めておくと良いでしょう。また、米金利が上昇し、米ドルまたは債券投資の魅力が高まれば、金は売られることも覚えておきましょう。

金に投資するには?

ポピュラーなものとしては、純金積立金に投資するETFを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。ただし、一つ注意してほしいのは、これらの金融商品には為替リスクが含まれているということです。金の価格は米ドルベースであることから、金価格が上昇しても、円高が進めば、リターンは相殺されてしまうのです。良く言えば、金のリターンと為替のリターンで分散が働き、より安定的な値動きが期待できると捉えられますが、悪く言えば、金本来の分散効果が薄れてしまうと捉えることもできます。金の分散効果をそのまま享受したいならば、為替ヘッジ付きの金関連ファンドに注目すると良いでしょう。

表1:ファンドアナリストが注目する金関連ファンド

ファンド名 投資対象 為替リスク 概要
ピクテ・ゴールド 金(ゴールド) ヘッジあり 金の現物に投資するとともに為替ヘッジを行い、米ドル建ての金価格の値動きを概ねとらえることを目指します。ノーロードで、為替ヘッジありの金関連ファンドのなかでは、実質的な運用管理費用が最も低い水準です。
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり) 金(ゴールド) ヘッジあり 金のETF「SPDRゴールド・シェア」に投資するとともに為替ヘッジを行い、米ドル建ての金価格の値動きを概ねとらえることを目指します。ノーロードで、実質的な運用管理費用も低い水準です。
ブラックロック・ゴールド・ファンド 金鉱株 ヘッジなし 南アフリカ、オーストラリア、カナダ、アメリカ等の金鉱企業の株式に投資します。金価格の変動による収益機会を捉えることを目指します。金に投資するファンドよりも大きな値動きが特徴です。

少額でも分散効果が期待できる金鉱株ファンド

表1の「ブラックロック・ゴールド・ファンド」は、金に直接投資するファンドではなく、金鉱株(金を採掘する企業の株式)に投資するファンドです。金鉱株の特徴は、金価格の変動よりも株価の変動が大きいことにあります。この理由は、金価格の変動よりも、金価格の変動が金鉱企業の業績に与える影響のほうが大きいため、株価も大きく変動することにあります(レバレッジ効果)。同ファンドは「為替ヘッジなし(為替リスクがある)」のファンドですが、為替の変動よりも株価の変動のほうが大きいため、図2のように為替ヘッジ付きの金関連ファンドに似た方向の値動き、かつ金関連ファンドよりも振れが大きい値動きが期待できます。金鉱株ファンドは値動きが非常に大きいため、ポートフォリオに少額組み入れただけでも分散効果が期待できることに投資妙味があります。

図2:金に投資するファンド(為替ヘッジあり)と金鉱株ファンド(為替ヘッジなし)の値動き

※ 金に投資するファンドは「ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)」、金鉱株ファンドは「ブラックロック・ゴールド・ファンド」。各ファンドの値動きは、2014年12月末を10,000として指数化。

金関連ファンドは積立投資がおすすめ

金関連ファンドは、相応に値動きが大きいファンドのため、大きな金額を一括投資するときには投資タイミングが問われます。おすすめとしては、「何かが起こる前」から少しずつ積み上げていく、つまり積立投資で始めると良いでしょう。株価下落、円高リスクをヘッジするツールとして、上手く活用してほしいと思います。