ロシア・ルーブルが急落

 2018年8月9日、ロシア・ルーブルが5%近くも急落しました。「米議会がロシアに対する新しい経済制裁法案を準備している」と報じられたことが原因です。この法案は、3月4日に英国南西部ソールズベリーで、ロシアの元スパイがロシア製神経剤により攻撃された殺人未遂事件に対する報復です。

 米国の法律では化学・生物兵器の使用国に対しては経済制裁を行う事が規定されています。トランプ政権はこの問題を静観しており、議会が中心になって動いています。

 同法案には、米国におけるロシアの銀行の営業に制約が付けられるほか、ロシア国債の保有に関しても制限が付けられることが盛り込まれており、もしこの法案が成立すれば影響が大きい、と投資家は考え始めています。

 議会が思ったより強硬な制裁法案を起草した背景には、米国の大統領選挙へのロシアの関与疑惑などで、ロシアに対する不信感が強いからです。

 ただ、同法案が成立するかどうかはまだわかりません。なぜなら両院で可決されるだけでなく、トランプ大統領が署名しなければならないからです。

トランプ政権はかねてからロシアとの関係改善に前向きな姿勢を打ち出しており、同法案を起草した議会とは少し考え方が違います。

市場の混乱は短期的か?

 このところトルコ・リラが急落していることもあり、投資家は新興国通貨に対して神経質になっています。しかし、今回のロシア・ルーブルの場合、トルコ・リラのケースとは区別して考えた方が良いかもしれません。

 なぜならロシアの経済運営や経済のファンダメンタルズ(国や企業などの経済状態などを表す指標のこと)はそれほど悪くないからです。

 2014年下半期から原油価格が急落したこと、加えてウクライナ問題で西側諸国がロシアに経済制裁を行ったことなどが重なり、ロシア経済は2015年に落ち込みを見せました。しかし現在はかなり立ち直ってきています。

 

 ロシアの経常収支は黒字であり、不健全な「輸入超過」の状況ではありません。

 

 また、石油や天然ガスの輸出により、外貨を獲得することができます。外貨準備高は十分です。

 

 さらに、2015年の経済制裁の時は消費者物価指数が急騰したものの、その後、物価は沈静化しています。これからもロシア中銀の采配が適切だったことがわかります。

 

 さらに、ロシアの失業率も安定的に推移しています。

 

 これらのことから、今回の突然のルーブル売りが、手に負えないほどひどくなるとは思えません。

まとめ

 ロシアに対する新しい経済制裁のニュースでルーブルが急落。世界的にリスクオフになる兆しを見せています。最近、トルコ・リラが下落していることから、他の新興国通貨への「伝染」が懸念されるところです。しかし、ロシアの経済のファンダメンタルズはそれほど悪くありません。トランプ政権もロシア制裁には消極的です。したがって今回のルーブル急落は、案外すぐに収まる可能性もあると思います。