7月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 マザーズ指数の節目1,000ポイント…この水準は「押し目が出来たら買いたい」と待っていた投資家の逆張り買いを促すのでしょうか?結果的にはそんな動きになりました。7月も月初から崩れた東証マザーズ指数は、7月5日に昨年9月6日以来となる1,000ポイント割れ。ただ、1,000ポイント割れ水準に滞在したのはこの日限りでした。翌6日から大きめの反発、26日の高値1,067ポイントまでリバウンド基調をたどりました。

 マザーズ指数が1,000ポイントを割れたところで底入れ…これは前回1,000ポイント割れした昨年9月6日も同様でした(このときは1,000ポイント割れした瞬間、強烈に反転上昇)。テクニカル解説者は「1,000ポイントに下値抵抗線がある」的なことを述べそうですが、本音を言えば「たまたま」だと思います。

 というのも、マザーズ指数が1,000ポイントを割れた5日、この日から上海総合指数が強烈リバウンドに転じたからです。前月のコラムで書いた通り、このタイミングまでの市場の不安要因は「米中貿易摩擦の懸念」一本。リスクオフで質への逃避が進むなか、上海総合指数と相関関係が一番強い株価指数がマザーズ指数でした。「高値期日の接近で~」的な解説もよく見ますが、あまり関係ないでしょう。マザーズ指数が1,000ポイントを割れたタイミングで偶然、上海総合指数が強烈なリバウンドに転じたため、これにシンクロしただけだと思います。

 なお、指数別の7月の月間騰落率は、日経平均株価が+1.11%、TOPIX(東証株価指数)が+1.29%。一方で、日経ジャスダック平均は▲0.97%、東証マザーズ指数は▲4.67%…日経ジャスダック平均、東証マザーズ指数ともに6カ月連続の下落です。ほとんど目立ったリバウンドが発生しない、個人投資家泣かせの地合いから抜け出せなくなっています。

7月の売買代金ランキング(人気株)

 7月のマザーズ市場の月間売買代金は1兆8,736億円と、6月の2兆842億円と比べて10%の減少でした。6月19日に、時価総額でダントツのモンスター銘柄メルカリが上場。このメルカリ分がフルで含まれる月ですが、その割には物足りないとしか言いようがない売買代金です。

 貿易摩擦懸念の後退から、一部外資系証券経由の日経平均先物買いが話題になった7月。NT倍率(日経平均株価÷TOPIX)の一時13倍台乗せに注目が集まりましたが、そんな話とも「M」のマザーズは蚊帳の外。月末の日銀会合前に、ETF買いの購入比率見直し(TOPIX型の比率を高める)が報じられるとNTは急低下。これも、ETF買いの対象に入っていないマザーズは蚊帳の外。

 個別銘柄ベースでも、直近IPO(6月上場)のメルカリとZUUの売買が活発だった程度。この2銘柄を除くと、物色の柱と呼べる銘柄どころか、7月の人気株自体も特定困難な惨状でした。

市場 コード 銘柄名 7月末
終値

時価
総額
:億円

売買
代金
25日
移動
平均値
:億円
月間
騰落

:%
東証マザーズ 4385 メルカリ 4,710 6,508 77.0 3.9
東証マザーズ 4387 ZUU 6,130 127 51.2 -21.0
ジャスダック 4579 ラクオリア 1,292 263 30.2 -4.5
東証マザーズ 3905 データSEC 855 99 28.0 41.8
ジャスダック 6324 ハーモニック 4,380 4,219 26.2 -6.6
東証マザーズ 3906 ALBERT 6,820 192 25.0 -2.4
ジャスダック 3356 テリロジー 807 127 22.6 40.3
東証マザーズ 2121 ミクシィ 2,937 2,298 21.5 4.7
ジャスダック 2702 マクドナルド 5,340 7,100 20.5 -5.5
ジャスダック 4764 SAMURAI 419 146 19.7 -8.7
東証マザーズ 2497 UNITED 2,326 551 17.9 -12.9
ジャスダック 9263 ビジョナリー 123 278 17.4 -28.5
東証マザーズ 4565 そーせい 1,396 1,064 16.9 -21.7
東証マザーズ 3680 ホットリンク 1,033 162 15.7 -2.3
東証マザーズ 4592 サンバイオ 3,010 1,496 14.8 4.4
ジャスダック 4712 KEYH 136 189 14.5 -17.1
東証マザーズ 3989 シェアリングT 5,150 315 14.5 7.4
東証マザーズ 4384 ラクスル 2,930 807 12.7 19.7
東証マザーズ 3966 ユーザベース 3,315 976 12.0 1.2
東証マザーズ 7172 JIA 5,250 1,582 11.7 -3.3

売買代金ランキング(5銘柄)

1 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 上場初日こそ盛り上がったものの、今のところ初日が天井のメルカリ。7月の売買代金ではトップとはいえ、出来高は露骨に減少傾向…初値で買った投資家の塩漬け株整理に時間がかかりそうです。
 7月に動意づいたのは1回だけ。19日の大量保有報告で、JPモルガン・アセット・マネジメントが約731万株(発行済み株数の5.4%)取得していたことが判明したタイミングでした。
また、上場から1カ月が経過したタイミングも19日。上場から1カ月経つと、証券会社がレポートを出せるのですが、この日以降にメルカリにレーティングを付与したのは5社。そのうち4社が投資判断を最上位の「買い」にし、目標株価は高いところで6,260円までありました(5社の平均は5,500円)。日本郵政もそうでしたが、話題のIPOの最初のレーティングは強気ばかり…これは株式市場のあるあるですね。

2 データセクション(3905・東証マザーズ)

 新興市場の小型株が、思わぬビッグネームから出資を受けて株価が急騰する事例が多くなっています。同社については、9日に一部で「KDDIが出資する」と報じたことを受けて買いが殺到。報道通り、10日にKDDIと資本業務提携すると発表しました。
KDDIが発行済み株数の約18%を取得し、同社のAIを使った画像解析技術をKDDIのIoTサービスと組み合わせるようです。業績に貢献するのはかなり先でしょうが、間違いなく好材料でしょう。

3 ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324・ジャスダック)

 ハーモニックがストップ安するとは…。きっかけは、13日の第1四半期受注高の開示でした(同社では、3カ月に1度、10日~13日辺りに発表しています)。
 第1四半期(4-6月)の受注が、前年同期比47%減、前四半期比でも47%減と急減。これを受けて売りが殺到しました。ちょうど、前日に安川電機が決算発表し、受注減を理由に株価が大きく下落。中国での産業用ロボットの受注減を心配する空気が濃くなっていたタイミングも相まって、新興株を代表する優良株の暴落につながったといえます。次に四半期の受注高が発表されるのは10月、決算発表以上に注目されそうです。

4 ビジョナリーホールディングス(9263・ジャスダック)

 3月~6月まで4カ月連続で上昇。2月末終値で69円だった株価は、7月19日に付けた上場来高値で203円まで上がりました。先月まで、値上がり率ランキングで本コラムでも常連でしたが、7月は月間で28%安と大暴落。
きっかけは、25日に発表した主要株主であるアドバンテッジパートナーズなど投資ファンド勢による売出でした。しかも、売出株数は9,939万株と大規模。値動きのいい低位株ということで、売出発表の直前まで信用買い残も急増していました。この銘柄で傷を負った個人投資家は多そうです。なお、売出価格は123円に決定、受渡し日は8月9日。浮動株が急増しますので、これまでに比べて値動きも重くなりそうです。

5 ユーザベース(3966・東証マザーズ)

 上昇を続けていた株価は、7月にさらなる高みへ。2日に、米経済オンラインメディア「Quartz」の全株式を、7,500万米ドル(約83億円)で取得すると発表。買収によるコストの発生で今18年12月期を最終赤字予想に修正しましたが、市場は同社のM&A戦略を高評価。同社をカバーする一部国内証券でも「買い」推奨を継続し、目標株価を2,730円から一気に4,220円に引き上げています。
グローバル事業に積極投資し、長期の利益成長を目指すグロース株。そもそも少ない信用買い残を、さらに減らしながら高値をとった動きを見ても、同社株の買い手の中心が中小型ファンドなど機関投資家であることは間違いなさそうです。

7月の株価値上がり率ランキング

 6月に続いて7月も、「なぜこんなに上がったのか理由が分からない」銘柄が多いような気がします(後講釈すら難しい…)。個別の材料で上がった銘柄もありますが、上がった理由は「(少数の)誰かが買ったから」としか言えないほうが多いです。

 そのため、少数派の買い、少額の資金で動きやすい銘柄が必然的にランキング内に多くなります。実際、時価総額で100億円未満の超小型株が20社中13社。6月も8社と超小型株の比率が高かったのですが、さらに度合いは増しています。こうした超小型株から急騰銘柄がいくら生まれても、マザーズ指数など指数への影響はほぼ皆無。新興株の指数が上がらない理由はここからも説明できそうです。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落

:%
7月末
終値
前月末
終値
価格
時価
総額
:億円
ジャスダック 9820 MTジェネック 79.9 4,250 2,362 46
ジャスダック 2706 ブロッコリー 51.2 520 344 227
ジャスダック 7462 ダイヤ通商 43.3 1,242 867 10
東証マザーズ 3905 データSEC 41.8 855 603 99
東証マザーズ 3195 ジェネパ 41.1 560 397 46
ジャスダック 3356 テリロジー 40.3 807 575 127
ジャスダック 2901 石垣食 34.4 211 157 13
ジャスダック 3080 ジェーソン 33.8 535 400 69
ジャスダック 8747 豊商事 30.7 604 462 54
東証マザーズ 7829 サマンサJP 30.6 423 324 149
ジャスダック 3264 アスコット 29.9 361 278 213
東証マザーズ 6033 エクストリーム 28.6 1,720 1,337 46
東証マザーズ 6618 大泉製 28.0 850 664 71
ジャスダック 8938 LCHD 27.6 1,869 1,465 104
ジャスダック 3536 アクサスHD 27.0 141 111 45
ジャスダック 4556 カイノス 26.9 844 665 38
ジャスダック 2136 ヒップ 26.8 1,097 865 44
東証マザーズ 3550 スタジオアタオ 24.9 2,435 1,950 152
東証マザーズ 4824 メディアシーク 23.5 815 660 80
東証マザーズ 6182 ロゼッタ 23.0 2,183 1,775 219

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ジェネレーションパス(3195・東証マザーズ)

 年初来安値(387円)、年初来高値(729円)ともに7月に付けています。まさに、評価一変。きっかけは、22日に発表したユニー・ファミリーマートホールディングスとの業務提携契約の締結でした。ECサイトで連携するようで、ECサイト「リコメン堂」における商品売上アップに期待。足元業績が芳しくないだけに、変化率が大きくなるのでは?という思惑が株価に反映されました。

2 石垣食品(2901・ジャスダック)

 日本列島での連日の猛暑を理由に、猛暑関連の小型株として短期筋にハヤされました。同社が手掛けているのは、ティーパックの麦茶「フジミネラル麦茶」(ペットボトルは扱っていない)。熱中症対策には水分補給が不可欠なわけで、需要アップは予想されますが…時価総額13億円という最軽量銘柄ということで、猛暑をネタにした短期筋の物色で需給ギャップが強く生じただけにも思われます。とりあえず、“動く猛暑関連株”として来年の夏まで覚えておきたい銘柄でしょうか。

3 サマンサタバサジャパンリミテッド(7829・東証マザーズ)

 サマンサJP、以下のカイノス、スタジオアタオの3銘柄は、第1四半期決算の好発進で急騰した銘柄です。同社の第1四半期は、営業利益が前年同期比10倍(5.1億円)に急改善。通期予想は据え置きですが、営業利益の通期予想(3.08億円)をすでに第1四半期で超過しています。人件費(上場企業の中でも平均年収が少ないことで知られる同社ですが…)や広告宣伝費などコスト低減が理由のようです。

4 カイノス(4556・ジャスダック)

 第1四半期は、売上高が前年同期比2割増、営業利益が2.5倍(1.98億円)の好決算でした。臨床検査の増収効果が確認されており、収益改善の中身も良好。通期予想の営業利益4億円に対する進ちょく率は第1四半期で早くも約5割、上方修正期待は高そうです。株価は急伸しながらも、PBRは1倍割れのバリュー株。割安感のある好業績小型株といえそうですね。

5 スタジオアタオ(3550・東証マザーズ)

 第1四半期の営業利益は、前年同期比35%増の3.47億円。女性に「ATAO」ブランドの財布などが人気で、インターネット販売も店舗販売も好調のようです。通期予想の営業利益6億円に対する進ちょく率は、第1四半期で約58%。通期予想の上方修正確率が高いマザーズ銘柄として覚えておきたいところです。

8月に注目したい新興株の動き

 先月まで月間で「6カ月連続」下落しているマザーズ指数。この時点で、マザーズ指数の算出開始(2003年)以降で初の現象が起きています。月間マイナスの不名誉な記録を、8月も「7カ月連続」に延ばすのでしょうか。月間での下落が連続しているというのは、まともなリバウンドが起きていないということ。まともなリバウンドが起きていないということは、マザーズの塩漬け株の損益がまともに改善していないということです。メインプレーヤーの個人投資家が、この長期下落トレンドで疲弊しています。投資家心理的には最悪ですので、「長く下げたからそろそろリバウンドする」なんて軽々しく言える状況ではないように思います。

 そのマザーズ指数ですが、8月から指数が大きく変化しました(そもそもマザーズ指数のチャート分析などに意味はないですが、その確信を強めるような大きな変化)。それは、6月に上場したメルカリ(4385)が、7月末からマザーズ指数に入ったことです。時価総額6,000億円超の巨大新興株ですが、指数計算では浮動株比率をベースにした時価総額に計算し直されます。7月末に東証が公開したメルカリの浮動株調整時時価総額は2,555億円(7月30日終値ベース)。マザーズ指数に占めるウエイトは「11.6%」でした。これは、2位のサイバーダイン(7779)の同5.4%、3位のミクシィ(2121)の5.1%を大きく上回る高ウエイトになります(ちなみに、日経平均株価の高ウエイト株で知られるファーストリテイリングの日経平均ウエイトは7.9%です)。

 指数の1割以上を占めるメルカリを含む8月と、メルカリが含まれていない7月までが同じ指数と言うには無理がある話。だからこそ、7月までは1,000ポイント割れでリバウンドしていたマザーズ指数が、8月以降も1,000ポイント割れでリバウンドすると言える根拠は何もないわけです。

 そのほか、7月までの下落過程でこんな説が市場の中で出ていました。

「7月末からメルカリがマザーズ指数に入るため、機関投資家がメルカリを買う一方、他の銘柄を売却(リバランス)したためにマザーズが下げた」

 これもあり得ません。マザーズ指数に連動した運用をする機関投資家はほぼ皆無です(日銀のETF買入れ対象にも入っていませんし、GPIF:年金積立金管理運用独立行政法人など年金も運用対象としていません)。今年2月に東証マザーズETF(2516)が上場し、ETFは1本あります。ETFの運用資産は28億円程度まで増えていますが、このETFのポートフォリオは「マザーズ指数先物ロング」だけで構築されています。そのため、メルカリを買う必要もなければ、他の銘柄を売る必要もありません。

 マザーズ指数の大きな変化が、投資家の行動に影響を与えたわけではありません。指数計算のうえでの構成銘柄(中身)に大きな変化があっただけ。その変化はメルカリと特定できるため、8月のマザーズ指数にとっては「8月のどこでメルカリの株価が大きく動くか?」が重要となります。その意味で、最重要日は「8月10日(金)」。この日は、メルカリの上場後初の決算発表(しかも本決算)の8月9日(木)の翌日になります。

 メルカリの前18年6月期は営業利益で25億円の赤字予想ですが、今期19年6月期のガイダンスはどうなるか?…先月レポートを書いた証券会社は6社。その6社の19年6月期の営業利益予想平均(コンセンサス)は「49.27億円」と黒字転換を予想しています。会社側のガイダンスで「営業黒字50億円」辺りが分岐点になりそう。メルカリの指数ウエイトを考えると、決算後にメルカリ株が10%動けば、マザーズ指数も1%以上動くことになります。また、このメルカリ決算発表予定の8月9日は、指数ウエイト3位のミクシィ、4位のSOSEI(4565)も第1四半期の決算発表を予定。この3社の決算通過で、マザーズ指数がアク抜け的な反応を示せるか?これが8月相場最大の関門になるのは間違いないでしょう。