7月6日以降、緊張は緩和か?

 今、世界の株安の最大の原因は「米中貿易戦争」です。この米中貿易戦争は7月6日(金)にひとつのクライマックスを迎えます。この日、アメリカは340億ドルに相当する中国からの輸入品に対して追加関税を課すと見られています。もしアメリカが予定通りこれを実施した場合、中国も速やかにそれに報復するという意思表示をしています。

「相場は知ったら、しまい」という格言があります。これは投資家が予期する悪いニュースが現実のものとなれば、それは材料の出尽くしであり、むしろ「買い」だという考え方です。今回の場合もこの法則がたぶん当てはまると思うので、このところ大きく売り込まれている中国株は一時的反発が期待されます。

 しかし、米中関係の緊迫が今週で峠を越すかどうかは、かならずしも楽観視できないと思います。

 その理由は1970年代から80年代にかけて勃発した日米貿易摩擦の経緯を見ると、不均衡の是正の議論は10年越しで戦われた極めて長丁場の交渉だったからです。

プラザ合意からバブルへ

 当時、日本はアメリカに対して貿易黒字となっていました。オイル・ショックの後、米国の金利は高かったので、世界のマネーがアメリカへ集まっていました。これはドルがアメリカ企業の国際競争力より過大に評価される事態を招き、結果としてアメリカの経常収支は赤字になっていました。

 そこで1985年9月に「プラザ合意」が成立し、日本は政治的に円高を余儀なくされたのです。

 円高になると日本は不景気になるリスクがあったので、当時の日本政府は円高不況の回避に躍起になりました。経済の実勢に対して、緩和的な金利政策のスタンスが維持されたのは、そのような理由によります。これがバブル経済のタネを蒔き、のちに禍根を残したのです。

 しかし当時は「円高、金融緩和、原油安」は「トリプルメリット」と株式市場で持て囃され、その背後で日本企業の国際競争力が著しく低下していること、日本国内でモノ作りをすることが割に合わなくなっており、企業はこぞってアジアへ工場移転を進めたことなどは投資家にはあまり注目されませんでした。

 つまり、この時期は「日本型モデル」が崩れ去った時代です。

借金による経済成長に依存する中国

 一方、今日の中国経済は当時の日本とは違う問題に直面しています。リーマンショック以降、中国は借入れを増やし、それを不動産開発をはじめとする投資に回すことで成長を捻出してきました。

 その借入れの多くは理財商品に代表されるシャドー・バンキング(銀行のバランスシートに載らない貸付け)を通じてなされました。

 シャドー・バンキングは2014年から2015年にかけて抑制の努力がなされたのですが、2016年から2017年にかけては再び加速し、(これではいけない!)と危機感を抱いた中国政府は、体質改善に本腰を入れています。

 したがって現在の中国に漂う、(なんとなく金詰り感、不景気感があるな)というムードは米中貿易戦争が原因ではなくて、中国政府によるレバレッジ抑制策が原因なのです。

 ただでさえその締め付けでやりくりに苦労している中国企業にとって、米中貿易戦争はまことに悪いタイミングでやってきました。なぜならほんの少しでも輸出が落ち込んだら、借金の返済計画に支障が生じるからです。

 貿易戦争が早く片付いてほしいというのは、だから中国側の強い願望です。

 しかし、米国は今年11月に中間選挙を控えているし、ゆくゆくトランプ大統領は次の大統領選挙で再選を狙いたいと考えています。つまり米中貿易戦争というカードは、共和党にとってまことに都合の良い人気取りになるわけです。

 したがって、7月6日を過ぎればこの問題は一段落すると考えるのは、甘いかもしれません。

貿易の枠組みそのものが変わる?

 日米貿易摩擦の当時に戻って考えると、繊維から始まった交渉はその後いろいろな産業分野へと「延焼」してゆき、最後には日米半導体協定による数量規制が課せられました。日本の半導体産業の斜陽化の全ての責任を日米半導体協定に求めるのは間違いだと思いますが、「日の丸半導体」の凋落の少なくとも一因にはなっていると思います。

 つまり、一連の貿易交渉を通じて、国際分業とか貿易のフレームワーク(=枠組み)が大きく変わったのです。

 折から現在の中国と米国の貿易戦争は「ハイテク冷戦」の造語を生んでいます。つまり中国とアメリカとの間では、ハイテク分野がちょうど日米半導体摩擦の頃を彷彿とさせるような主戦場と化しているのです。

 それはゆくゆくグローバルな分業体制そのものの見直しにつながる恐れがあります。アメリカの半導体株やハードウェア株も、そのとばっちりから逃れることはできないかもしれません。

まとめ

 現在の中国の立ち位置と日米貿易摩擦当時の日本の立ち位置を整理すると下のようになります。

  当時の日本 今日の中国
通貨 円高 人民元安
金利政策 緩和的 引締め的
原油価格 下落基調 上昇基調
主戦場 日米半導体摩擦 ハイテク冷戦

 7月6日以降、中国株が反発局面を迎えた場合でも、現在の中国株を蝕む本当の問題はレバレッジ抑制策にともなう金詰りなので、その方面で新機軸が打ち出されるかどうかを見極めることが大事になると思います。

 もしレバレッジ抑制策に変化が見られない場合は、中国株の戻りは「売り」だと思います。