昨日に引き続き、「株価下落リスクを負わずに株主優待を獲得する方法」を解説します。

 優待は欲しいが、株価下落リスクを負いたくない場合、「つなぎ売り」を使えばよい

「つなぎ売り」は、信用取引の一種です。以下の方法で、優待取りに使うことができます。

つなぎ売りを使った「優待取り」のやり方イメージ 

 6月末に100株保有すると、魅力的な株主優待が得られる銘柄をA社として、解説します。以下の2ステップで、優待取りが完結します。

ステップ1

 A社100株の「買い」と、A社100株の信用取引の「売り」を両方とも行います。

 買ってから売っても、売ってから買っても、どちらでも問題ありません。同じ価格で行うのが理想です。

 6月末基準の優待を得るためには、6月26日(権利付き最終売買日)までに、ステップ1を行い、6月27日(権利落ち日)までポジションを持つと、6月末基準の優待を得る権利が確定します。

ステップ2

 優待の権利を得たら、速やかに(原則6月27日に)、現渡(げんわたし)で決済してください。現渡とは、保有するA社株100株を、信用で売建(うりたて)しているA社株100株の返済に当てることです。これで「優待取り」は完結です。

 返済期限内なので6月28日に現渡することも可能ですが、貸株料を払う期間が長くなるので、忘れずに27日に現渡しましょう。

 

優待取り「つなぎ売り」にかかるコスト

 それでは、優待が魅力の外食業・A社を例に、つなぎ売りで優待を取るのにかかるコストを説明します。

 A社はすかいらーく(3197)をモデルとして同社に近い内容としていますが、完全に同じではありません。

 コストや税金の仕組みはとても複雑で、すべて理解していただくのは困難です。大まかなイメージだけつかんでください。

 

つなぎ売りを使った優待取りのメリットと、かかるコストの比較

前提条件

・ 6月15日(金)にA社100株を1,700円で買い(約定金額17万円)

・ 同じ日に、A社株100株を1,700円で信用売り(約定金額17万円)

・ 優待を得る権利が確定する6月27日(水)に、現渡で決済

・ 100株保有すると、6月末基準で3,000円相当の食事カードを得る権利が確定

・ 100株保有すると、6月末基準で0.94%(税引前1,600円、税引後1,280円)の中間配当金を得る権利が確定

・ 貸株料、配当金調整額は、一般信用の料率で計算(制度信用では異なる数値となる)

・ 信用売りを現渡で清算する際、配当落ち相当額(1,600円)の支払いが必要

  上記の例では、必ずかかるコストは494円ですから、優待食事カード3,000円が得られるならば十分にメリットがあります。

 ただし、これ以外にもコストがかかる場合があります。

 大きなコストとなる可能性があるのは、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」です。制度信用を使う場合、かかる可能性があります。

 人気の優待銘柄では、ときおり優待メリットを上回る逆日歩を請求されることもあるので、注意を要します。事前には金額がわからず、事後的に決まった金額を請求されます。

 楽天証券が「優待取りのつなぎ売り」のため用意している「一般信用・短期」を使えば、逆日歩は発生しません。制度信用ではなく、一般信用でつなぎ売りしたほうが、リスクが小さいと言えます。

 もう一つかかるコストは、配当金相当額(支払い)と配当金(受け取り)の差額です。

 つなぎ売りしたまま配当金を得る権利が確定すると、信用売りしている100株に対して配当金相当額(ここでは1,600円)を支払う必要が生じます。

 一方、買って保有している100株では、配当金(税引前1,600円、税引後1,280円)を得る権利が確定します。実際に受け取る配当金は、源泉税(320円)分だけ少なくなります。この320円はコストになる可能性があります。

 損益通算を使えるように手続きしていれば、この320円は後から還付される可能性があります。そうでない場合は、そのままコストとなります(詳しい説明は割愛します)。

 

制度信用より一般信用を使ったほうがリスクが小さい

 優待取りをするための「つなぎ売り」では、「制度信用」または「一般信用」のどちらか選択できます。

「制度信用」は取引所が提供する信用取引で、「一般信用」は、楽天証券が提供する信用取引です。

 どちらを選ぶかによってかかるコストが異なります。優待を得るメリットよりも、優待取りにかかるコストが大きくならないように注意する必要があります。

 結論から言えば、「制度信用」を使うよりも「一般信用・短期」を使ったほうが、リスクが小さいと言えます。

制度信用

 取引所が提供する信用取引。取引所が選んだ銘柄で信用売買が可能。欠点は、売建している時に、「逆日歩(ぎゃくひぶ)」というコストが発生する可能性があることです。逆日歩が発生するか否か、発生する場合いくらか、事前にわかりません。

 逆日歩が発生すると、事後的に支払いを請求されます。運が悪いと、優待で得られるメリットを上回る、逆日歩の支払いが必要になります。

一般信用・短期

 株主優待獲得の「つなぎ売り」に活用できるように設計されている、返済期限14日の一般信用取引です。楽天証券が選んだ銘柄で、信用売りが可能です。逆日歩が発生しないのがメリットです。

 売買手数料・貸株料などのコストがかかりますが、事前におおまかな金額がわかるので、優待取りをやるメリットとコストを事前に比較できます。

 制度信用のように、後から想定外のコスト(逆日歩)が発生することはありません。

 

一般信用・短期「つなぎ売り」を早くやるメリットとデメリット

 まず、2018年6月末基準の優待を取るために必要な「つなぎ売り」のスケジュールを、押さえておきましょう。楽天証券で一般信用・短期「つなぎ売り」を行う場合、次のスケジュールとなります。

一般信用・短期「つなぎ売り」スケジュール:2018年6月末基準の優待取り

 優待取りステップ1は「株式現物の買い、信用取引の売りを、同じ株数ずつ、なるべく同じ価格で行う」ことです。

 ステップ1は6月15日(金)から行うことができるようになります。そのための一般信用・短期の売り注文は、6月14日(木)の19時(午後7時)から、出すことができます。

 ステップ1は、初日(6月15日)にしなくても、18日(月)、19日(火)、20日(木)、21日(木)、22日(金)、25日(月)、26日(火)に行うこともできます。26日が最終日で、この日までにステップ1をやらなければ6月末基準の優待は得られません。

 早くやるのと、遅くやるのはどちらがいいでしょうか? メリットとデメリットは次の通りです。

早く(初日・6月15日)ステップ1をやるメリット

 一般信用・短期で、売建が可能な株数には、限りがあります。楽天証券が用意した株数がすべて利用されてなくなってしまうと、つなぎ売りの注文は出せなくなります。

 人気の優待銘柄では早めに売建の予約をしたほうが、つなぎ売りが実行できる可能性が高まります。14日の19時から、売建の予約が可能になります。

早くステップ1をやるデメリット

 売建してから現渡で返済するまで、日数に応じて、貸株料の支払いが必要です。長く借りるほど貸株料は高くなります。

 6月15日につなぎ売りして、6月27日に現渡する場合は、13日分(受渡ベースで6月20日から7月2日まで)の貸株料支払いが必要です。売建可能な最終日(6月26日)につなぎ売りして、6月27日に現渡する場合、貸株料は4日分(受渡ベースで6月29日から7月2日まで)で済みます。

 貸株料は、年率で3.9%ですが、1日あたりでは約0.01%です。先に例に挙げたA社で、約定金額17万円のつなぎ売りをする場合、1日あたり約18円です。13日分ならば236円、4日分ならば72円の貸株料支払いが必要になります。

 結論として、人気の優待銘柄は、貸株料(1日当たり約0.01%)を払う期間が長くなっても、早めにつなぎ売りをしたほうがよいと言えます。遅くなると、売建可能な株がなくなることがあるからです。人気のない優待銘柄では急いでつなぎ売りする必要はありません。
ただし、利用可能な株が少ない場合は早めにつなぎ売りしたほうがいいかもしれません。

 

一般信用・短期で売建可能な銘柄と、利用可能な株数を見る方法

 楽天証券ウェブサイトのログイン後の画面から、「国内株式」→「信用取引情報」→「一般信用売建銘柄」とクリックし、弁済期限「14日」を指定すると、6月末基準の優待取りで「一般信用・短期」の売建ができる銘柄がわかります。

 ただし、売建可能な株数は、14日(木)の19時までは「0株」となっています。14日(木)18時30分前後に、そこに、銘柄別の売建可能株数が入ります。売建注文は14日19時から入力可能になります。

 その後、売建注文を予約する方が増えると、売建可能株数は減っていきます。ゼロになると、それ以上の売建注文は出せなくなります。

楽天証券ウェブサイトで利用可能な株数を見る方法 

 当初(6月14日19時時点)では46銘柄が、一般信用・短期でつなぎ売り可能な銘柄となっています。

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