現在、世の中は「シェアリングエコノミー」ブームです。上場企業の中でもこの流れを掴む動きが出てきていますが、その先頭を切るのはパーク24(4666)です。

 パーク24は時間貸駐車場及びカーシェアリングサービスでシェア1位の企業ですが、ビジネスモデルが軌道に乗り、2018年10期の経常利益、当期純利益は過去最高を更新する見通しです。今後も持続的に成長するために、同社は独自の決済ペイメントシステムを使ったポイントプログラムの強化、駐車場オーナーとドライバーをつなぐマッチングサービスの拡大、トヨタ自動車(7203)と提携した乗り捨て型パーソナルモビリティの展開、に乗り出しました。

 

シェアリングエコノミーとは

 ここ数年話題になっている「シェアリングエコノミー」。「共有型の経済」という意味です。自分だけでモノやサービスを独占せずに、多くの人で共有する仕組みのことを言います。貸し借りをするという考え方自体は昔からあります。例えば、お隣の人に醤油を借りに行くことや、友人からバッグを借りることにより、私たちは「少しの間何かが必要」な時に助け合ってきました。この相互補助の考え方がテクノロジー発達の恩恵を受けて、規模感のあるサービスに発展してきています。

 広がりを見せる近年のシェアリングサービスでは、モノをシェアする相手が近所や友人などの狭いコミュニティではなく、全く知らない人同士であることが特徴的です。サービスを提供する側が一定の保証体制を築き、かつ貸し手と借り手をリアルタイムでつなぐITネットワークを開発したことにより、社会全体でモノやサービスを共有することが可能になりました。

 代表的なところでは、米国の「ウーバー」が挙げられます。「ウーバー」では、自動車を所有する人が、自動車で移動したい人を見つけて乗せてあげることができます。また、元祖民泊とも言える米国の「エアビーアンドビー」は、旅先の一般の家を宿泊できる場所として提供することにより、割安感だけではなく地元の文化を共有する役割をも果たしています。

 その半面、「ウーバー」が自動車渋滞の原因の一つになっている可能性や、「エアビーアンドビー」については近隣住民からの騒音問題が指摘されています。ウーバーの聖地とも言えるカリフォルニアでは、自動車渋滞を避けるべく電動スクーターのシェアリングが活況となっていますが、その結果スクーターの放置問題が浮上している状況です。新しいサービスは新しいが故に、問題が発生しやすいのでしょう。しかし、こうしたシェアリングサービスの利便性の高さは既に広く認められているため、今後は発生した問題を解決して、サービスをより進化させようとする動きになるとみられます。

 

日本のシェアリングエコノミー

 さて、日本でも「シェアリングエコノミー」のサービスは続々と生まれています。最近ですと、

(1)衣類のシェア
(2)自転車のシェア
(3)オフィスのシェア

がトレンドでしょう。上場企業では以下のようなサービスが展開されています。

(1)衣類のシェア

 衣類のシェアでは、ZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ(3092)が、ストライプインターナショナル(旧クロスカンパニー)の運営する日常着のレンタルサービス「mechakari(メチャカリ)」で使用した新品の衣類を、ブランドの公式古着として販売しています。「メチャカリ」では、月額5,800円(税別)で新品の衣類を借り放題できます。返却手数料は1回380円です(税別)(2018年6月7日時点)。

(2)自転車のシェア

 自転車のシェアには多数の企業が参入しており過熱感が出ている状況ですが、認知度が高いのはNTTドコモ(9437)傘下のドコモ・バイクシェアでしょう。都内でよく見かけるあの赤いレンタサイクルです。自転車本体に通信やGPS、遠隔制御の機能が搭載されており、利用者はスマートフォンから空き状況の確認や予約ができます。傘下のNTT都市開発(8933)が自社不動産へのサービス導入を、NTTデータ(9613)が利用分析データの活用を図るなど、グループとしてのシナジー効果を発揮しようとしています。将来的には自転車にとどまらず、電動車椅子や小型電気自動車などのシェアリングサービスを拡大させる可能性があります。

(3)オフィスのシェア

 オフィスのシェアでは「コワーキングオフィス」という言葉が浸透してきました。コワーキング(Coworking)とは、オフィスや会議室を共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルを指します。米国の「WeWork」が有名ですが、日本では2017年にソフトバンク(9984)と合弁会社「WeWork Japan」を設立しています。また、ソーシャルワイヤー(3929)は国内を含むアジアでレンタルオフィス「CROSSCOOP」を展開、ティーケーピー(3479)は貸会議室を運営しています。

カーシェアリングのパーク24は利益の収穫期へ

 このように日本でも様々なシェアリングサービスが立ち上がっていますが、既にシェアリングサービスの需要を押さえ、強固なビジネスモデルを基に利益の収穫期に入っているとみられるのがパーク24(4666)です。

 同社は時間貸駐車場の最大手で「タイムズ」を展開していますが、2009年からカーシェアリングサービスの「タイムズ カー プラス」をスタートしました。このカーシェアリングサービスの売上高が年々拡大しています。同サービスを始めた頃はその収益性を懸念する声もあったようですが、同事業の営業損益は2014年10期に黒字転換をし、今期である2018年10期の営業利益率は16%を超える見通しです(図1)。

図1 パーク24のカーシェアリング事業の業績推移

期間:11年10月期~18年10月期
出所:会社資料より楽天証券作成

  パーク24の営業利益全体における構成比でみると、カーシェアリングは20%を占める見通しです。なお、パーク24全体の営業利益率は低下傾向にありますが、それは海外企業を買収したことに伴うのれんの償却費や、トヨタ自動車との提携、「タイムズペイ」開始に伴う費用(これらについては後述します)の発生によるところが大きく、本業である駐車場事業はおおむね堅調に推移しています(図2)。

図2 パーク24の事業別営業利益の推移

期間:15年10月期~18年10月期、単位:百万円
出所:会社資料より楽天証券作成

 カーシェアリングの利益が拡大し事業が好調に拡大している理由は、同社が、カーシェアリングサービスの成功に必要な以下3点を全て満たしていたためです。

(1)自宅の近くにある駐車場
(2)ドライバーへの効率的なマーケティング
(3)自動車の調達力

(1)と(2)に関しては、基幹事業である駐車場の管理・運営事業の場所やユーザーをそのまま活用でき、(3)については2009年に買収したマツダレンタカーのカーシェアリングサービス「カーシェア24」から吸収できました。

拡大するカーシェアリング市場

 カーシェアリング市場は右肩上がりに拡大していますが(図3)、「タイムズ カー プラス」の車両台数が21,591台(2018年4月末時点)だったので、台数ベースのシェアは約74%となります。同じく会員数は約98万人だったため、会員数ベースのシェアは約7割です。今後も同社は車両台数を増やす計画です。

図3 国内のカーシェアリング車両台数と会員数

期間:2011年~2018年
出所:交通エコロジー・モビリティ財団HP(2011年~2014年までは1月、2015年以降は3月調べ。)より楽天証券が作成

 カーシェアリングの需要拡大の背景には、自動車を維持するコストの高さがあります。車両自体の購入費、自賠責保険、自動車任意保険、点検費用、車検費用、燃料代、消耗品費用など諸々のコストが発生します。都内であれば駐車場代だけで月間3万円かかり、それだけで年間36万円になります。自動車関係諸税については、エコカー減税制度やグリーン化特例によって実質的な負担額が減少するケースもありますが、その他の諸経費は引き続き負担になります。

 使用時間が短時間であればレンタカーよりもカーシェアリングのほうがコストを抑えられるうえに、予約や受け渡し時間に柔軟性があるため、より気軽に使うことができます。「タイムズ カー プラス」の場合、予約はスマートフォンなどで出発の3分前まで出来ます。また、貸出手続きの対応が無人のために24時間の受け渡しが可能です。会社側の試算によると、「タイムズカープラス」とレンタカーサービスの「タイムズカーレンタル」を比べた場合、およそ9時間半以内の利用時間であればカーシェアリングのほうがコストを抑えられ、分岐点となる9時間半時点のコストは約7,000円と推定されています(車種や燃料費等によって金額は左右されます)。

「タイムズカープラス」利用方法(出所:会社資料)

(1)インターネットで車両の予約(スマートフォンからでも可能)

(2)予約をした車両のあるカーシェアリングステーションへ

(3)車内に搭載しているLEDライトが点滅しているか確認

(4)リアガラスの右上部分のLEDライトにICカードをかざし、車両のドアを解錠

▲ICカードのデータが携帯電話網を通じてセンターへ送信され、会員の予約情報と照合

(5)助手席の前のグローブボックス内にあるキーボックスから、クルマのキーを取り出し、通常と同じ操作方法で運転

(6)使用後は元のカーシェアリングステーションへ戻り、(4)と同じ方法で施錠して返却

カーシェアリングとレンタカーのサービス比較(パーク24のサービスの場合)

出所:会社資料

利用時間によるコスト比較

カーシェアリングは利用時間と比例して料金が上がるため、短時間ではカーシェアリング、長時間利用ではレンタカー利用が得

※レンタカーはタイムズ カー レンタルのコンパクトカー標準利用価格にガソリン代金を加味
※カーシェアリングはタイムズ カー プラスのショートプラン利用料金で算出(パック料金利用を加味)
出所:会社資料

リスクは来年の消費税率引き上げだが、ビジネスモデルを評価

 この「タイムズ カー プラス」が牽引し、パーク24の2018年10月期(2018年度)の連結純利益は過去最高を更新する見通しです。パーク24の利益は、2008年度にはリーマンショック、2014年度には消費税率の上昇を受けて落ち込んだものの、その後は数年かけて最高利益を更新してきました(図4)。

 来年は、消費税率が引きあがれば消費者の外出マインド自体が落ち込みとみられるため、時間貸駐車場、カーシェアリングサービス双方にその影響を受ける可能性が高いでしょう。また、傘下となった英駐車場大手のナショナル・カー・パークスなど海外部門の、のれん償却後利益がすぐに拡大することも考えにくいです。しかし長期的な目線で見れば、カーシェアリング事業で首位の地位を確保し利益を拡大させているパーク24は成長企業と言えます。

図4 パーク24の連結業績推移

期間:04/10期~2018年10月期
出所:会社資料より楽天証券作成

 

長期的にはテクノロジーと融合してさらに進化

長期的な観点からは、パーク24とテクノロジーの融合について要注目です。筆者の推測ですが、テクノロジーとのシナジー効果は以下3点で発揮されるでしょう。

(1)ポイントプログラムによる顧客マーケティングの強化
(2)駐車場オーナーとドライバーをつなぐマッチングサービスの拡大
(3)トヨタ自動車と連携した乗り捨て型パーソナルモビリティの展開

(1)ポイントプログラムによる顧客マーケティングの強化

 パーク24では、駐車場、カーレンタル、カーシェアリング向けの無料の会員制サービス「タイムズクラブ」を展開しており、そこで発行される会員カードでポイントを貯めることができます。今後はそのポイントプログラムをさらに活用して、ドライバーに、同社の駐車場を選んでもらう導線を作る見込みです。

 その施策として考えられるのが、2018年2月に正式に誕生した、リアル店舗向けのクレジットカード決済サービス「タイムズペイ」です。同社の駐車場の周辺にあるリアル店舗への試験運用を経て、端末の提供が始まりました。この「タイムズペイ」で決済すると「タイムズクラブ」のポイントを獲得できるということになれば、「外出先での食事はポイントが貯められるあの店にしよう」と考えるドライバーが、店の近くにある「タイムズ」の駐車場を使うという流れが形成できます。「タイムズペイ」は、店舗側が負担するクレジットカード決済手数料が低いため、これまでクレジットカード決済端末の導入をためらっていた店舗にとっても魅力的なサービスとなっています。

 なお、「タイムズクラブ」カードの還元率は、「タイムズ駐車場」利用の場合、100円=1ポイントですが、年間(毎年10月1日~翌年9月30日)に1万5,000円以上を利用した場合、もしくは「タイムズ カー プラス」「マンスリータイムズ(月極駐車場)」を契約した場合、還元率が3倍になります。貯まったポイントは「タイムズチケット」などに交換できます。

(2)駐車場オーナーとドライバーをつなぐマッチングサービスの拡大

 パーク24は、「B-Times」というマッチングサービスも強化していく見込みです。
このマッチングサービスを広げることにより、同社にとっては「タイムズ」駐車場とし
て開発しづらいケースでも、同社の顧客ネットワークとつなげることができます。
このサービスでは、空いているスペースを有効活用したいオーナーと、外出先で確実に車
をとめたいドライバーをマッチングさせることができます。

 例えば、複数台の広さがある月極駐車場のうち、1台、2台だけ解約されてしまったケー
スで、ちょうどそのエリアに行くドライバー側が、駐車場を探すことなくスムースにとめ
たいと思っている場合に機能します。

(3)トヨタ自動車と連携した乗り捨て型パーソナルモビリティの展開

 同社はトヨタ自動車とカーシェアリングの事業で業務提携をすると公表しました。現在、トヨタ自動車との提携で明らかになっている業務提携の内容は、「TimesCarPlusX×Ha:mo」です。これによりパーク24は、トヨタのパーソナルモビリティであるHa:mo(ハーモ)を「タイムズカープラス」に配置することができるようになりました。Ha:mo(ハーモ)は一人乗り用の小型電気自動車で、かつ乗り捨てできることをコンセプトに設計されています。したがって、ハーモの利用可能数が拡大すれば、自転車シェアリングのような感覚で乗り物をシェアするという新しい体験をドライバーに提供することができます。

※パーソナルモビリティ:町中での利用を想定した一人から二人用の小型電動車

 さらに、こうしたカーシェアリングサービスで得られたデータは自動運転技術の開発にも寄与していくとみられます。同社はこれまで、カーシェアリングの自動車に自社開発したレコーダーを搭載することによって運転データを集めてきました。その設置台数は約2万台にも及び、かつドライバーの属性が多種多様であるため、次世代の自動車を開発するうえで貴重なビッグデータになると考えられます。