選挙でトルコが注目される
トルコでは6月24日に大統領選挙と議会選挙が行われます。下馬評ではエルドアン大統領ならびに彼の政党、公正発展党(AKP)が勝つだろうと言われています。しかし、場合によっては決選投票までもつれ込む可能性もあります。
今回の選挙は当初の予定より1年半繰り上げられて実施されます。エルドアン大統領が急いでいる理由は(トルコ経済がおかしくなる前に選挙を済ませておきたい)という計算があるからです。
エルドアン、長期政権確保へ
今回の選挙に先立つ国民投票で憲法が一部改正され、新ルールが6月24日から施行されることになります。それによると今回の選挙での勝者は二期、すなわち2028年まで大統領を務めることができるようになります。
すでにエルドアンは2003年から首相を務めており、これまで通算三選されています。その間、ちょうどロシアのプーチン大統領が行ったように大統領と首相の権限を巧みに操ることで長期に渡りトルコに君臨してきました。
公正発展党の歴史
公正発展党は2001年に発足した中道右派の政党でイスラム主義を打ち出しています。2000年代初頭トルコは深刻な経済危機に瀕していました。公正発展党は経済を立て直すことを公約して支持を集め、2002年の選挙に勝利しました。つまり「経済のことなら公正発展党にまかせておけ」というイメージを、それ以来、ずっと堅持しているのです。
エルドアンは慣習にとらわれず、その時々の世論の流れを冷静に観察し、勝つためには誰とでも組む実利追求型の政治を行ってきました。
一例として2014年の選挙ではトルコの有権者の20%を占めるクルド人の票を味方につけました。しかしその後クルド独立運動が高まり、クルド票が期待できなくなりました。
そこでエルドアンは国家安全保障問題を前面に打ち出し、実質的にクルドを敵に回しました。折からのクルド過激派による一連のテロで反クルド機運が高まり、エルドアンは選挙戦を有利に展開しました。
エルドアンはかつてギュレン派と手を結んでいました。ギュレン派は公正発展党同様、イスラム主義の政党です。しかし2016年のクーデター未遂事件を契機にギュレン派とは決別しています。
このクーデター未遂事件はトルコ国民を不安に陥れました。エルドアンは国民の動揺をうまく活用し、国民投票を呼びかけ、かねてからトルコ政治に隠然たる影響力を行使してきた軍隊を封じ込めることに成功しました。
今回の繰り上げ選挙は、その国民投票で得られたエルドアン政権にとって有利なルール改正を速やかに実行に移すために行われると考えることができます。
国民投票で改変されたこと
先の国民投票で改変されたことをまとめると次のようになります。
新ルール | 旧ルール | |
---|---|---|
大統領権限の変更 | 大統領は議会の承認なく全ての大臣を指名できる | 大臣の指名は議会が承認投票 |
大統領は国家予算を提案。勅令によりそれを実行可能。 | 国家予算は議会の批准が必要 | |
大統領・議会が最高裁判事を選出 | 大統領・議会・最高裁の三者が判事を選出 | |
大統領は在任中、所属政党の活動に関与できる | 大統領は在任中、所属政党の活動に関与できない | |
それ以外の変更 | 議会による大統領罷免が難しくなった | 議会は大統領を罷免できた |
大統領選挙と議会選挙を同時に五年ごとに実施 | 議会選挙は四年ごと。大統領選挙とは実施時期が一致していなかった | |
議員立候補者は兵役を必要としない | 議員立候補者は兵役を必要とする | |
軍をシビリアン・コントロール下に置く | 軍は軍事法廷の監視下に置かれる | |
首相のポストを廃止 | 首相のポストあり |
全体的に大統領の権限が強まると同時に軍の影響力が弱まったことが読み取れます。
トルコは「建国の父」ケマル・アタチュルクが近代化のためイスラム主義に背を向け、強く世俗主義を打ち出しました。トルコの軍隊は実力主義を貫くとともに世俗主義、モダニズムの象徴となりました。トルコ政治は西欧化とアジア主義、近代化と伝統重視、イスラム主義と軍隊に代表される実力主義の綱引きとして捉えることができます。
新しいトルコ | 伝統的なトルコ |
---|---|
西欧化 | アジア主義 |
近代化 | 伝統重視 |
軍隊 | 公正発展党 (エルドアン政権) |
世俗主義 | イスラム主義 |
そして現在は振り子が大きくイスラム主義の方向へ振れているわけです。
トルコが経済混乱に巻き込まれる前に選挙を!
このように一見すると公正発展党は勢いに乗っているように見えます。しかしトルコのインフレ率は10.3%であり、これは2003年に公正発展党が勝利して以来、最悪となっています。またトルコ・リラには売り圧力がかかっています。
エルドアン大統領は利上げを嫌い、経済成長を優先する経済政策を好んできました。したがって今回のトルコ・リラ危機でもトルコ中銀に対し利上げをしないよう牽制しています。
トルコ中銀は遅ればせながら最近相次いで利上げを開始、トルコ・リラ防衛に動いています。
エルドアン政権としては、1) インフレが手に付けられなくなる、2) トルコ・リラが暴落する、3) 通貨防衛のための利上げで不景気が来る、などの不測の事態が訪れる前に選挙を済ませてしまい、政権の座をもう10年間延長することを狙いたいわけです。
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