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本レポートに掲載した銘柄

村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770

 

1.電子部品各社の2018年3月期決算

 今回の特集は電子部品です。電子部品各社の2018年3月期決算を概観し、今後重要な分野になる5G(第5世代移動体通信)、自動車と電子部品との関わりを見ていきます。

 グラフ1、2は電子部品各社(村田製作所、TDK、アルプス電気、日本電産、京セラ)の2018年3月期4Q(2018年1-3月期)までの売上高と営業利益のトレンドを見たものです。売上高は各社とも右肩上がりに増加していますが、営業利益は企業によってばらつきがあります。

 日本電産は順調に営業利益が伸びていますが、これは「車載及び家電・商業・産業用」モーターの伸びによります。TDKは2017年3月期4Qにクアルコムに対して高周波部品事業を譲渡したことによる譲渡益1,444億円と構造改革費用を計上しており、これらを除くと2018年3月期4Qは前年比増益になっています。

 一方で、村田製作所は樹脂多層基板「メトロサーク」の赤字と、北米高級スマホ向け部品が減少したことによって(iPhoneⅩの不振によるものと思われる)、前4Qは大幅減益、通期でも二桁減益となりました。アルプス電気は、子会社のアルパインは好調ですが、北米高級スマホ向けアクチュエーター(電子部品会社は顧客名を言わないがiPhone向けと思われる)が前4Qに変調しました。また、京セラはソーラーエネルギー事業(太陽電池事業)の原材料調達契約にかかる引当損失502億円を前4Qに計上したため赤字転落しました。

グラフ1 電子部品各社の四半期売上高

単位:億円、四半期ベース
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ2 電子部品各社の四半期営業利益

単位:億円、四半期ベース
出所:会社資料より楽天証券作成
注:TDKの2017/3期4Qはクアルコムとの合弁会社持分売却益1,444億円を含む

 

2.電子部品セクターの今後の注目点は「5G」と「自動車」

 今の電子部品会社の多く、特に村田製作所、TDK、アルプス電気は、スマートフォンの動きに業績が左右されています。日本電産のように自動車が安定需要分野になったことによって持続的成長が実現している会社もありますが、電子部品セクター全体を見ると、スマホの影響力にはまだまだ大きなものがあります。

 表1は2014年9月期からのiPhone販売台数と前年比を四半期毎に見たものです。iPhoneは成長期が終わり、横ばいに入っていますが、2016年9月期のような二桁減少は最近は見られません。2018年9月期は、iPhoneⅩが不振でもiPhone8シリーズ(iPhone8、同8Plus)や旧機種のiPhone7が補い、販売台数は前年比横ばいとなっています。2018年秋の発売が予想される2018年モデルも、大きな期待は出来ませんが、大きく減少することもないと思われます。

 一方で、iPhoneⅩの発売以降、iPhoneの平均販売単価は上昇しています。グラフ3のようにiPhoneの平均販売単価は、2017年11月のiPhoneⅩ発売まではおおむね600ドル台でしたが、iPhoneⅩ発売後700ドル台に上昇しました。販売価格が高過ぎると売れ行きに支障が出ることをiPhoneⅩの不振は表していますが、ユーザーが評価する性能向上を伴う適度な単価上昇が起これば、iPhoneは販売数量を維持しつつ、今以上に様々な高性能電子部品が使われるようになり、搭載される電子部品の数も多くなると思われます。もしiPhone販売単価が700ドル台で定着すれば、電子部品にとってはポジティブです。

 スマホに搭載される電子部品の個数は、傾向的に増加しています(表2)。スマホに大きな変化がなければこの動きはいずれ止まってしまうと思われますが、5G(第5世代移動体通信)が、スマホだけでなく我々の身の回りの通信の世界に大きな変化をもたらすと予想されます。

表1 iPhone販売数量と前年比

単位:千台、%
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 iPhoneの平均販売単価

単位:ドル/台
出所:Apple資料より楽天証券作成

表2 スマートフォンに搭載される電子部品の個数

出所:村田製作所資料より楽天証券作成
注:ハイエンドは、マルチキャリア、LTE-Advances(キャリアアグリゲーション)、ミッドレンジはマルチキャリア、LTE、ローエンドはシングルキャリア、LTE

 

3.5Gで何がどう変わるか

 5G(第5世代移動体通信)は、当初2020年からスタートする予定でしたが、今年2月の「モバイル・ワールド・コングレス」(世界最大のモバイル機器見本市)で、アメリカなどの通信会社数社が2019年からのサービス開始を表明したため、各国でサービス開始時期が前倒しになっています。日本でもNTTドコモが2019年からサービスを開始する可能性があります。

 5Gの特徴は以下の通りです。

  1. スペック上の受信速度が10Gbps以上になる(今の受信実効速度は140~237Mbps)
  2. 送信速度(アップロード)も高速化(今は17~27Mbps)
  3. 同時多接続(数百から1,000以上の端末を同時に接続できる)
  4. 低遅延(遅延はほとんどない)

 伝送スピードの速さは5Gの最大の特色です。今のNTTドコモの実効速度(アンドロイドの場合)は、受信(ダウンロード)が140~237Mbps、送信(アップロード)が17~27Mbpsです。5Gではスペック上の受信速度が10Gbpsの時の実効速度が、(例えば)受信5.0Gbps、送信2.5Gbpsと高速になると予想されます。その場合、受信は4Gに比べて21~36倍に、送信は93~147倍になります。受信速度もさることながら、送信速度が大幅に速くなります。4Gは受信速度の高速化はある程度可能ですが(複数の電波を束ねて使うキャリアアグリゲーションなどによる)、送信の高速化は出来ませんでした。

 これに対して5Gでは、高精細画像、動画のダウンロード、アップロードが、ともに今よりも大幅に高速化されます。特にアップロードの高速化は、SNSなどへの高精細動画(4K動画など)へのアップロードを大きく刺激、加速すると思われます。

 また、5GはIoTの普及に大きく貢献すると思われます。同時多接続と低遅延という特色によって、数多くの小型端末を一つの基地局に接続してデータを送受信することができるようになります。

 5Gは、半導体と電子部品の世界に強い影響を与えると思われます。5Gの周波数帯は、4Gで使われてきた3.6GHz(ギガヘルツ)以下の周波数帯に加え、3.6~6GHz帯、28GHz帯の利用が期待されています。いずれも光の性質に近いミリ波、センチ波であり、アンテナの「ビームフォーミング」技術(アンテナの指向を電子的に制御して電波を受信し易くする)が重要になります。

 高い周波数を使うため、電子機器の高周波対策も必要になります。例えば、村田製作所の樹脂多層基板「メトロサーク」は5G端末での使用を想定して開発されたものです。

 このほか、5Gを制御するための高性能半導体、高性能電子部品が必要になります。

 更に、5Gによってネットワークのアクセス系(端末と基地局のネットワーク)での情報のやり取りが増加することが、データセンター需要を刺激すると思われます。今はネットワークの奥深く、バックボーンの近くに数多くの大規模データセンターがあり、その数が増え続けていますが、5Gによって高精細動画や各種の情報のやり取りが今以上に増えれば、ユーザーの近くのアクセス系に小型データセンターが大量に必要になると言われています。

 また、派生的な影響ですが、5Gによって高精細動画の大量高速伝送が可能になることで、現在少し足踏みしているスマホのカメラの高度化(アウトカメラのデュアルカメラ化、トリプルカメラ化、インカメラのデュアルカメラ化)が進む可能性もあります。

 

4.自動車の電子部品に対するインパクト

 自動車も電子部品に大きな影響を与えています。前述したように、日本電産の車載用モーターが順調に伸びて業績の牽引役になっており、村田製作所、TDKの自動車向けも着実に伸びています。自動車における電子部品搭載個数が継続的に増加していることが背景にあります。

 例えば、チップ積層セラミックコンデンサの搭載個数は、ハイエンドスマホが550~900個なのに対して、通常のガソリン車は2,850~4,000個、ハイブリッドカーは4,300~5,700個、電気自動車は5,100~6,500個となっており、電動車は大量のチップ積層セラミックコンデンサを使います(表3)。ちなみに、自動車向けチップ積層セラミックコンデンサは、村田製作所とTDKが世界市場を二分しています。

 また、自動車の車内電圧の48V化(従来は12V)が欧州で2016~2017年から始まっています。48Vに昇圧することで効率的な電動化を行うことが出来ます。これによって、電子部品や電源の変更、強化が予想されます。48V化も自動車向け電子部品の刺激材料です。

 前述の5Gは自動車とも密接に関連します。同時多接続、低遅延で大容量高速伝送が可能という5Gの性質は、「コネクテッドカー」が外部と接続する時に適した性質です。近い将来、自動車+5Gによる様々なアプリケーションが登場すると思われます。この点では、2019年1月にアルパインを実質的に吸収して「アルプスアルパイン」となるアルプス電気の可能性に注目したいと思います。 

表3 チップ積層セラミックコンデンサの自動車搭載個数

単位:個
出所:村田製作所資料より楽天証券作成
注:マイクロハイブリッドは、モーターで減速時のエネルギーを回収し、蓄電池に貯め、車両内で使うもの(例:スズキのエネチャージ)

表4 主なスマートフォン用電子部品の市場シェアと概要

出所:会社資料とヒアリングより楽天証券作成
注:Samsung Electro-Mechanicsは韓国サムスン電子系の電子部品会社

 

5.注目銘柄:村田製作所、TDK、アルプス電気

 今回は、5G、自動車向けの可能性と、PERの割安感に注目して、村田製作所、TDK、アルプス電気を取り上げます。

 

村田製作所

電子部品の世界的大手

 村田製作所は、チップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタ、デュプレクサ、セラミック発振子など、幅広く電子機器や通信機器に使われる電子部品でトップシェアを持っています(表4)。チップ積層セラミックコンデンサは電圧制御を行う部品で、各種の電子機器に多用されています。また、SAWフィルタ、デュプレクサ、セラミック発振子、EMI除去フィルタなどの通信系電子部品はスマートフォンを初めとした通信機器に使われています。

 前期2018年3月期は19.4%営業減益でしたが、これは樹脂多層基板「メトロサーク」の赤字に北米高級スマホ向け(iPhone向けと思われる)の不振(前4Q)が重なったためです。ただし、メトロサークの生産性問題は最悪期を脱しており、今期2019年3月期は黒字転換すると思われます。また、減価償却方法を今期から定率法から定額法へ変更することが大きく影響します。この結果、今期は48.0%営業増益になる見通しです。

 

5G時代での活躍が期待される

 5Gでは、アンテナのビームフォーミング技術が重要になります。通信機器の高周波対策も必要です。メトロサークは極薄で曲げ易いだけでなく、高周波性能に優れた、5Gに対応した基板です。このほかにも、5G時代には村田製作所の各種電子部品が活躍すると思われます。
株価は4月27日の決算発表後、今期の業績回復と5Gを材料に上昇しています。6~12カ月間の期間で2万円への上昇が期待されます。

(2018年3月期決算の詳細については、楽天証券投資WEEKLY2018年5月11日号を参照してください。)

表5 村田製作所の業績

株価 16,185円(2018/5/31)
発行済み株数 213,251千株
時価総額 3,451,467百万円(2018/5/31)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は当社株主に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

グラフ4 村田製作所の用途別売上高

単位:百万円、四半期ベース
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 村田製作所の製品別売上高

単位:百万円、四半期ベース
出所:会社資料より楽天証券作成

 

TDK

2018年3月期は実質増益

 2018年3月期は59.0%営業減益でしたが、2017年3月期に計上されたクアルコムへの高周波部品事業の譲渡益1,444億円(2017年3月期4Qに、通信系半導体大手のクアルコムとの間でSAWフィルタ等の高周波部品事業に関して合弁会社を作り、その持分をクアルコムに売却した)を除くと、実質的には33%営業増益でした。なお、2017年3月期には減損損失等の構造改革費用212億円が、2018年3月期にはインベンセンス買収費用109億円が計上されています。

 

コンデンサ、電池が好調、センサに注力

 セグメント別に見ると、受動部品の中のコンデンサが順調に伸びています。コンデンサの約50%が自動車向けであり、自動車向けの大容量品の比率が高くなっている模様です。また製品別に見ると、コンデンサの50%強がチップ積層セラミックコンデンサであり、自動車向けでは村田製作所とシェアを二分しています。

 センサ応用製品では、従来からあるTDKのTMRセンサ(HDD用)、MEMSマイクロフォンに加え、2016年3月期4Qに買収したミクロナスの磁気センサ(自動車向けホール素子センサが得意)、2018年3月期1Qに買収したインベンセンスのMEMSセンサ(モーションセンサに強い。スマホ、ゲーム機、ドローンに使われている)が加わりました。会社側ではスマホ向け、自動車向け、産業機器向けなどにセンサ事業を強化していく方針です。買収費用のため赤字が続いていますが、今期以降は順次赤字が縮小する見通しです。

 磁気応用製品は、HDD用磁気ヘッドと磁石などです。HDD用磁気ヘッドは全体では減収になっていますが、データセンター用HDD向けは堅調です。データセンターの建設が活発で、SSDへの置き換えが十分進んでいないようです。また、このセグメントに電源が入りますが、半導体製造装置向け電源が好調です。

 フィルム応用製品は主にスマホ用、PC用、タブレット用の電池(リチウムイオンポリマー電池)です。薄型化、大型化が可能な電池で、TDKはこの分野では世界トップです。業績好調で、このセグメントは前期大幅増益でした。

 

今期も業績順調が予想される

 今期の会社予想営業利益は1,000億円(前年比16.8%増)です。自動車向けコンデンサ、電池、センサが順調に伸びると予想されます。中長期的に見ても、この3分野は競争力があり、TDKの業績を牽引すると思われます。

 株価は6~12カ月の期間で1万2,000円への上昇が期待されます。

表6 TDKの業績

株価 9,780円(2018/5/31)
発行済み株数 126,245千株
時価総額 1,234,676百万円(2018/5/31)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:当期純利益は当社株主に帰属する当期純利益
注2:発行済み株数は自己株式を除いたもの

表7 TDK:セグメント別売上高と営業利益

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成

表8 TDKの分野別売上高

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成

 

アルプス電気

2018年3月期はスマホ向けの寄与で大幅増益

 2018年3月期は62.1%営業増益でした。世界シェア約80%のスマホ用アクチュエーター(カメラの絞り機構)が好調で、北米高級スマホ向け(電子部品メーカーは顧客名をコメントしませんが、iPhone向けと思われます)の出荷が増えました。単価が高いズーム付き手振れ補正式アクチュエーターの出荷が増えた模様です。また、子会社アルパイン(アルプス電気の車載情報機器事業)も好調でした。欧州自動車メーカーの中国向け純正カーナビとディスプレイが増えました。

 

2019年3月期は二桁減益見通しだが、上方修正の期待も

 会社側は2019年3月期は16.6%営業減益を予想しています。北米高級スマホ向けアクチュエーターは主にズーム付き手振れ補正用が増加する見込みですが、積極的な設備投資に伴い減価償却費が増加するため、アクチュエーター事業が入る電子部品事業が減益になる見込みです。

 ただし、会社側の業績に対する見方が厳しすぎると思われること、電子部品事業の中の車載市場(自動車向け各種電子部品とそのモジュール)の採算が改善していることから、上方修正の可能性があります。

 

2019年1月、「アルプスアルパイン」発足へ

 アルプス電気は2017年7月に、上場子会社であるアルパインを100%子会社化した上で事業再編を行い、2019年4月1日にアルプス電気、アルパインを傘下に持つ「アルプスHD」を発足させる計画を打ち出しました。しかし、2018年2月に当初のスキームを変更し、アルプス電気がアルパインを100%子会社として実質的に経営統合し、計画を前倒しして2019年1月1日に「アルプスアルパイン」を発足させるとしました。これでより大きくシナジーを発揮し、早く経営統合できるというのが会社側の見解です。

 なお、アルパイン株式1株に付き、アルプス電気株式0.68株を割当てる株式交換比率に変更はありません。2017年7月27日付けプレスリリースによれば、この株式交換に伴う新たな交付株式数は27,690,824株となり、このうち1,900,000株がアルプス電気の自己株式から充当されます。

 会社側では、この経営統合によって売上高1兆円を目指しています。予想される統合効果で最も大きなものは、アルプス電気の製品開発にアルパインのソフトウェア技術者約2,000名を参画させる機会ができることです。カーナビに大きな事業チャンスがあるとは思えませんが、コネクテッドカーの領域は、5GとIoTの時代を迎えて可能性のあるものになると思われます。

 業績は今1Qは厳しいものの、2Q、3QはiPhone2018年モデル(今年9月発売か)の寄与が予想されるため、回復が期待されます。株価は、6~12カ月の期間で3,000円前後への戻りが期待されます。

表9 アルプス電気の業績

株価 2,584円(2018/5/31)
発行済み株数 195,904千株
       223,595千株(アルパイン統合後)
時価総額 506,216百万円(2018/5/31)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:2020年3月期楽天証券予想EPSはアルパイン統合後の予想発行済み株式数による
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益
注3:発行済み株数は自己株式を除いたもの

表10 アルプス電気のセグメント別損益:四半期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理の関係で合計が合わない場合がある

表11 アルプス電気のセグメント別損益:通期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:会予は会社予想
注2:端数処理の関係で合計が合わない場合がある

 

本レポートに掲載した銘柄:村田製作所(6981)、TDK(6762)、アルプス電気(6770