円高から戻り鈍く

 先週(5/21~5/25)のドル/円は、111.39円から108.96円で、2円43銭と値幅の大きい週でした。

 円高に動いた要因は、世界を騒がした米朝首脳会談の中止宣言と言われています。

 しかしその後、北朝鮮から開催意向を受けたトランプ米大統領は、米朝首脳会談の再開を示唆しましたが、ドル/円の戻りは鈍く、110円台には戻らなくなりました。

 米朝首脳会談と言う政治要因は世界を翻弄(ほんろう)しましたが、首脳会談が実現しても、相場はすぐに非核化が決まることはないと踏んでいるため反応は鈍く、会談が実現しなくてもショック度合いが小さくなっているようです。つまり、会談の動向は織り込まれている動きとなっています。

 それでは先週、円高に動いたのはなぜなのでしょうか。今回はこの背景を探ります。

 

先週は円高要因が目白押し

 実は先週、さまざまな出来事がありました。これらの出来事は今後数カ月間の相場を考える上で、重要なテーニングポイントとなるかもしれません。

 その出来事とは、


(1)トランプ大統領の米国輸入車への関税引き上げ表明。もし、実行されれば経済に与える影響は鉄鋼、アルミの比ではない。トランプ大統領の保護主義政策による米国経済減速を嫌気し、米長期金利は低下

(2)5月のFOMC議事録が公表され、6月の利上げを示唆すると同時に、インフレ率が目標から若干オーバーシュートしても問題ないとの認識を示し、より積極的な引き締めには急いでいないことを示唆。この議事録公表後、米長期金利は低下

(3)サウジアラビアとロシアが協調減産の緩和を議論しているとの報道から原油が下落し、WTI 原油70ドル割れ。原油価格低下を受けて米長期金利は3%割れに

(4)ユーロ圏の景気減速感が強まる中、イタリア、スペインの政治懸念が高まり、イタリア国債金利が上昇し、ユーロ安に。ユーロ円も円高となり、ドル/円の円高要因となった

 このように米保護主義の高まり、米長期金利と原油の低下、欧州政治不安、これらの複合要因が先週1週間で一度に現れ、先行きの不透明感からドル/円相場の頭を重くしたようです。

 先週のドル/円の2円43銭という値幅の大きさは、105円割れから反発して円安に動いたドル/円が111円台で転換したことを示唆しているかもしれません。転換点では陽線(ドル高)でも陰線(ドル安)でも、値幅が大きくなることがよくあるからです。

 重要要因のうち、米長期金利と原油は、先週にピークをつけたかもしれません。

 またFRB(米連邦準備制度理事会)は、インフレが目標の2%を超えても、現時点では利上げペースを加速させないことがわかりました。そして、今週6月1日に発表される米雇用統計で賃金の上昇率が強い数字が出ても、金利上昇は抑制される可能性もあります。

 もしそのような動きになればドル/円の頭を押さえる要因となり、また6月12~13日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げは確実視されていますが、注目点は先行きの利上げペースです。年後半で2回の利上げとなるか、1回だけとなるかです。

 2回利上げ見通しが多ければ、ドル高要因となりますが、5月の議事録の内容が反映されるのかどうかに注意を払う必要があります(利上げペースを加速させないのならば、後2回利上げペースの見方が増えない結果に)。

 

イタリアの政治情勢不安で円高に

 一方、先行きの不透明要因の中でイタリア政治不安が今週に入って一気に高まりました、イタリア債券と株は大きく売られ、ユーロ安となっています。この売りにつられてポンド/円やドル/円も円高となっています。

 イタリアは再選挙が7月に行われるとの話も出てきており、それまでは政治混乱は続くと思われます。

 また、再選挙をしても過半数の議席を占める政治勢力はないとの見方が多く、混乱は長期化する可能性があります。

 加えて欧州景気も弱まってきており、ECB(欧州中央銀行)の金融政策も緩和継続の可能性も出てきました。経済要因と政治要因でユーロ安がしばらく続くかもしれませんが、6月14日のECB理事会ではこれら二つの要因をどのように認識するのか注目です。

 特に6月中旬は目が離せません。6月12日に米朝首脳会談、12~13日がFOMC、14日はECB理事会、14~15日に日銀金融政策決定会合と、重要イベントが続きます。一波乱も二波乱もありそうな時期となりそうです。