マレーシア中銀にも及ぶスキャンダル

 マレーシアの1MDBスキャンダルがBNM(マレーシア中銀)にも飛び火しています。1MDBはナジブ・ラザック前首相が2009年に設立した経済開発企業体です。

 1MDBは2009年にサウジアラビアの民間企業と石油開発のJVを設立しましたが、資金流用があり、10億ドルが政府のアドバイザーを務めるジョー・ローのスイス口座に振り込まれました。ジョー・ローはその金でロスアンゼルスのビバリーヒルズにあるホテル、プライベートジェットなどを購入しました。

 2012年には1MDBがゴールドマンサックスを主幹事に立て、35億ドルの債券を発行しました。そのうち14億ドルはスイスの銀行のカディーム・アル・カベーズィーの口座に送金されました。そのお金の一部は映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の製作に使われました。またナジブ・ラザック前首相の義理の息子であるリザ・アジーズへも渡されました。

 2013年には1MDBは再びゴールドマンサックスを主幹事とし30億ドルの債券を発行。そのうち12億ドルはジョー・ローが所有する英領バージン諸島籍のペーパーカンパニーのシンガポール銀行口座に送金されました。その金はモネ、ゴッホなどの絵画を買う代金に。また6.8億ドルはナジブ・ラザック前首相の個人口座に送金されました。

 そして今年に入ってからナジブ・ラザック前首相は1MDBの債務返済のためにBNMに国有地を5億ドルで売却し、その金の一部が債務返済に使われました。

 1MDBのスキャンダルは世界の金融関係者に知られているので目新しいことではありません。しかし今回、マレーシア中銀までもが「ゴミ箱」として使われていたことに世界の投資家はショックを受けています。

 ちなみにこれまでに1MDBが背負込んだ借金の総額は130億ドルであり、そのうち45億ドルが着服された模様です。なおゴールドマンが引受けた債券の償還は2022年であり、償還が危ぶまれています。

このスキャンダルが新興国投資に与える影響

 普通、アメリカが利上げし、なおかつドル高になっている局面では新興国投資の相対的魅力は低下します。事実、このところアルゼンチン・ペソ、トルコ・リラが軟調に推移しており投資家は神経質になっています。そこへ今度はマレーシアにスキャンダルが発覚したことでこのニュースは新興国のセンチメントをさらに悪くすると思われます。

マレーシア経済は健全

 しかし一歩下がってマレーシアという国の経済のファンダメンタルズを見た場合、それは極めて健全です。

このところGDP(国内総生産)は市場関係者の期待を上回る成長を見せています。

 

 また物価も安定しています。

 

経常収支は安定的に黒字です。

 

さらに外貨準備は十分です。

 

 これらのことから今の時点では1MDBのスキャンダルが投資家のマレーシアに対する信頼を揺るがすリスクは小さいと見るべきでしょう。

まとめ

 1MDBスキャンダルは世界の金融関係者にとっては周知の事実です。今回、BNMすらナジブ・ラザック前首相に利用されていたことが発覚したことはさすがにショックでした。折から新興国投資を巡るセンチメントは暗転していることから、このニュースは投資資金がアメリカなどの先進国へ逆流することを助長するかもしれません。ただマレーシアの経済そのものは健全であり、少々の事では投資家の信頼は揺るがないと思います。