日本の2018年1-3月期GDP成長率は年率換算で-0.6%となった。8四半期連続のプラス成長の後では、ある程度の反動は避けられなかったと考えられる。しかし、今回のデータは政策担当者全般、特に日銀に対して明確なメッセージを送っている。そう、安心している余裕はないのだ。民間需要では全項目が減少を示し、堅調に伸びたのは輸出のみだった。日本のGDPの絶対水準は2017年春の水準まで戻ったことになる。はっきり言って、日本の金融当局にはまだなすべき事がある。今回発表された1-3月期GDPデータは、日銀が米国の金利サイクルとは全く別の方向に進むという筆者の確信を裏付ける内容だった。米国の政策金利と債券利回りの上昇にもかかわらず、日銀は短期金利と長期金利の両方をゼロ近辺に固定する方針を少なくとも今後15~18カ月維持すると予想される。

 

1-3月期GDPデータの注目点

 住宅投資の落ち込みが最も大きく、3四半期連続のマイナス成長となった。容易に想像できるが、原因は日銀が長期国債金利利回りをゼロ近辺に誘導する現行の金融政策を導入したことがきっかけとなった住宅ブームに対する反動である。2016年第1四半期から2017年第2四半期にかけて、超低金利住宅ローン(日銀が10年物国債利回りの上限をゼロに誘導したことが原因)が引き金となって、住宅投資は10%近く増加した。ここに来て、金利弾力性が消失したことから、住宅投資は2017年第2四半期のピークから5.1%減少した。

 住宅投資は内需全体、特に家計部門のリスク選好度の非常に重要な先行指標であるとみている。今回、ダウンサイクルが確認されたが、次のアップサイクルはいつ始まるのだろうか? 当社はほどなくサイクルが上昇に転じると予想しているが、これは「日本の新中産階級」の台頭という当社が提唱するテーマの現実化を裏付ける具体的事例が増えているからである。所得の拡大、フルタイム雇用の創出、婚姻率の上昇による世帯形成の増加が相まって、向こう数四半期で住宅投資は回復に向かうと予想される。

 明るいニュースとしては、1-3月期GDPデータは所得の伸びが力強く着実に加速していることを示している。雇用者報酬は0.9%増(年率ではなく前四半期比、名目ベース)と4四半期連続の増加となった。この1年間を見ると、雇用者報酬は名目ベースで3.2%、実質ベースでは2.0%伸びている。すなわち、伸び率は前年同期の2倍に達しているのである(2017年第1四半期は名目で1.4%、実質で 1.1%)。雇用者報酬は、従業員の実際の購買力を測るうえで最も信頼できる指標だが、これは毎月発表される賃金所得関連の統計とは違い、就業者数と平均賃金の組合せだからである。

 このように雇用者報酬のはっきりとした着実な伸びは、現在は好循環が進行中であり、日本の消費者の購買力が向上していることを示している。当社が予想するように、この好循環が続くとすれば、日銀が誘発した一時的な住宅ブームの調整も一段落し、住宅投資と住宅サイクルは間もなく落ち着きを取り戻すだろう。

 消費者は貯蓄を増やしており、貯蓄率は再び上昇に転じ、過去12カ月間の貯蓄額の増加分はGDPの1%に相当する。給与所得の伸びが加速しているにもかかわらず、1-3月期に消費は拡大しなかった。事実、この1年間で雇用者報酬は8.5兆円増加しているが、消費の伸びはわずか2.8兆円にとどまっている。つまり、過去12カ月間で家計部門の貯蓄額は5.7兆円増加したことになり、これはGDPの1%に相当する。明らかに、この貯蓄率の上昇が日本の抱える最大の「構造問題」である。膨大な貯蓄額は構造的な対外黒字と財政赤字を生み出すとともに、将来に対する根強い不信感、ならびに今後の増税や公共サービスの削減に対する不安を物語っている。現状では、家計部門は防衛策として貯蓄を増やしており、「アベノミクス」には期待していないことがうかがわれる。こうした深く根付いた不信感を払拭するのは非常に難しいが、最初の一歩として望ましいのは社会保障・福祉制度の信頼に足る改革、ならびに民営化と規制緩和の推進であろう。 

 結局のところ、今回のGDPデータは「政策担当者に安心している余裕はない」という明らかなメッセージを送っている。来月早々の国会閉幕を控え、黒田日銀総裁と新たなメンバーを加えた政策委員会は1-3月期GDPの落ち込みは一時的なもので、景気減速の始まりではないことを明確に示す必要があるだろう。非常に重要なのは、日銀は円高阻止に向けてあらゆる策を講じるとみられる点である。輸出の力強い伸びを危機にさらす余裕は日本にはなく、内需も1-3月期の不振からの回復を目指す必要がある。

2018年5月16日 記

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