ウォーレン・バフェットが買い増しを明らかにすると、アップル株が最高値更新

 米投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる著名投資家ウォーレン・バフェット氏の人気は、87歳になった今も衰えていません。ネブラスカ州オマハで5日開催されたバークシャーの年次株主総会には、世界中から4万人の株主が集まりました。

 バフェット氏の言葉を、直接聞くことができる貴重な機会だからです。バフェット氏は、5日の株主総会では例年通り、相場の見方について、投資家からのさまざまな質問にていねいに何時間も答えました。

 バフェット氏が、米IT大手アップルの株を1-3月期に7,500万株買い増したことを明らかにすると、アップルへの買いが増え、同社は史上最高値を更新しました。ハイテク株嫌いで知られるバフェット氏が高く評価する、数少ないハイテク株がアップルです。

 バフェット氏の運用手法は、年代により少しずつ変わってきていますが、基本は、バリュー(割安株)重視です。若い無名のころは、ディープ・バリュー(激安)株に投資して、株価の戻りで稼ぐ傾向が強かったのですが、年を経て、巨額の資金を動かすようになると、割安な安定成長株を重視するようになりました。

 

ウォーレン・バフェットの言葉に学ぶ

 バリュー投資で高い運用利回りを上げて有名になったバフェット氏の、若い頃の言葉を紹介する著作を原書で読みました。「Warren Buffett’s Ground Rules(ウォーレン・バフェットのグラウンド・ルール)」(Jeremy C. Miller著)です。バフェット氏が若い頃、投資家向けに書いた手紙が紹介されています。私が、25年のファンドマネージャー時代にやってきたバリュー運用に通じる極意が、若きバフェットによって熱く語られており、感動しました。

 私が強く共感した言葉を、2つ紹介します(日本語訳は窪田)。

  1. 「企業の本源的価値がわかっていれば、それを生かして有利にトレードできる。株価が、本源的価値と比較して、ばかばかしいほど、安い水準まで売られた時に買うことで、利益が得られる。」
  2. 「最近、新時代の投資哲学を語る人が増えた。その哲学によると、木々が空まで伸びるように上昇し続ける株が出るという。そんな哲学に乗って割高株を高値づかみするくらいなら、過度に保守的といわれてペナルティを課せられた方がましだ。」

 私は、今の日本株に、本源的価値を割り込んでいる株はたくさんあると思います。地味で不人気だが、財務内容が良く、キャッシュフローが潤沢で、安定高収益の会社を探せばいいわけです。価値が高いのに、不人気で株が割安になっているものは、結構あります。そこで今日は、「もしバフェ銘柄」、つまり、「もしバフェットが日本株ファンドマネージャーだったら買うかもしれない銘柄」を探してみたいと思います。

「もしバフェ株」候補5銘柄

コード 銘柄名 株価

配当
利回り

PER PBR 決算期 最低投資額
2914 日本たばこ産業 2,993.5 5.0% 13.6 1.9 12月 299,350
5108 ブリヂストン 4,512 3.5% 11.0 1.4 12月 451,200
8306 三菱UFJ FG 716.8 2.5% 9.9 0.6 3月 71,680
9020 JR東日本 10,650 1.4% 14.2 1.4 3月 1,065,000
9433 KDDI 2,860.5 3.1% 12.3 1.9 3月 286,050

金額単位は円、PERとPBRの単位は倍
注:株価・配当利回りは5月9日時点。配当利回りは、1株当たり年間配当金(会社予想)を株価で割って算出。三菱UFJのみ会社目標を使用。PERは株価を1株当たり利益(会社予想)で割って算出。日本たばこ産業・ブリヂストン2018年12月期、三菱UFJとKDDIは2018年3月期、JR東日本は2019年3月期基準。

 上記5銘柄は、バフェットの投資基準になるべく合うと考えるものを、筆者が選別したものです。以下、コメントします。

 

(1)日本たばこ産業(2914

 不人気で株価は割安ですが、安定高収益企業として評価できると思います。国内の喫煙者減少が不安材料となっています。飲食店での受動喫煙を減らすために、3月に、喫煙制限を強める閣議決定がなされたことが、不安視されています。東京都は、さらに制限を強める「受動喫煙防止条例」の設定を検討中です。

 ただし実際には、国内のタバコ事業は、喫煙者が減っても継続的に値上げすることで、収益を維持してきました。少数事業者が独占的に供給している製品では、通常、一方的な値上げは独占禁止法の観点から認められません。タバコ製品は事実上、その例外となっていると考えられます。

 JT(日本たばこ産業)は、次世代タバコで出遅れ、国内で米フィリップモリスの「アイコス」に水をあけられていることも、不安視されています。JTは、次世代たばこ「プルームテック」を拡販し、これから巻き返しをはかるところです。

 JTの魅力は、財務内容良好で、利益率が高いこと。それに加えて、買収巧者であることです。喫煙者が増加している新興国でタバコ会社を次々と買収し、利益を成長させてきました。また、株主への利益還元に積極的なことも評価できます。これまで、増配や自社株買いを積極的に実施してきています。

 

(2)ブリヂストン(5108

 トヨタ自動車(7203)が9日に発表した2019年3月期連結営業利益(会社予想)は、前期比4.2%減の2兆3,000億円でした。予想外に減益幅が小さく、ほっとしました。トヨタも株価は割安と言って良いと思います。ただし、トヨタ以上に、ブリヂストンの方が、より安定的に高収益をあげていくと期待されます。それには、3つの理由があります。

◆ブリヂストンの方がトヨタより、新車販売変動の影響が小さい

 自動車販売には好不況の波があり、トヨタの利益はその影響を受けて大きく変動します。ブリヂストンの業績も新車販売の影響を受けますが、その影響は、トヨタほど大きくはありません。タイヤメーカーでは、更新タイヤ(取替え用のタイヤ)の利益率が、新車用タイヤより高く、更新タイヤが重要な収益源となっているからです。更新タイヤは、世界の自動車保有台数が拡大しているために、新興国を中心に安定的に成長しています。

◆電気自動車が主流になるとトヨタはダメージを受けるが、ブリヂストンは影響が小さい

 電気自動車が主流になると、ガソリン車やハイブリッド車に強いトヨタなど、日本車メーカーに逆風です。このリスクと、タイヤメーカーは無縁です。次世代自動車が何になろうと、タイヤが必要なことは変わらないからです。

◆ブリヂストンの方がトヨタより、米保護主義のターゲットとなりにくい

 日本車にとって最も重要な市場である米国で、トランプ大統領が保護貿易主義を前面に出していることが、日本の自動車メーカーにとってリスクとなっています。トランプ大統領による日本の自動車産業批判は、事実に基づかない部分が多いといえます。

 ただ、米国が日本の自動車を叩き始めると、そこからは、理屈の通用しない世界に入ります。2009~2010年に北米でトヨタ・バッシング(叩き)がヒートアップしたことがありました。トヨタ車に特に技術的な問題がなかったにもかかわらず、トヨタ車は急加速するので危険というバッシングが全米に広がり、トヨタは大規模な自主的リコールに追い込まれ、巨額の課徴金を支払わされました。

 ブリヂストンも、バッシングの対象となるリスクがないとは言えません。ただし、今はそのリスクは低いと考えられます。ブリヂストンは、タイヤ世界首位で、日本車だけでなく、アメリカ車にも使われています。世界中の幅広いメーカーで使用されるタイヤであるため、日本車のようにターゲットとはなりにくいと考えられます。

 ブリヂストンのタイヤは、高品質・高価格のものが多く、米国内で価格破壊を先導しているわけではありません。米国でたびたび問題になるのは、低価格の中国製タイヤの輸入が増えることです。今後、政治的にターゲットになるとしたら中国製タイヤでしょう。米国生産比率の高い(輸入もある)ブリヂストン・タイヤはターゲットとなるリスクが低いと考えられます。

 万一、米国が輸入タイヤの関税を引き上げる場合、中国タイヤが一番大きなダメージを受けると考えられます。ブリヂストンも、輸入タイヤではダメージを受けますが、安い中国タイヤの輸入が減ると、米国内でタイヤ価格が上昇するので、米国内で生産するブリヂストン・タイヤには恩恵が及びます。

 

(3)三菱UFJ FG(8306

 長期金利をゼロに固定する金融政策が長期化することで、国内では、銀行業の利ざや(貸出金利と預金金利の差)縮小が続きます。国内業務に特化した地方銀行は、生き残りが難しくなってきます。ただし、三菱UFJ FGは、利ざやの厚い海外での与信拡大と、業務の多角化(信託・証券・リース・消費者金融など)によって、高収益を維持していくと予想しています。

 バフェット氏は、リーマンショックの時に、過度に売られた米国の金融株を買い、その戻りで大きなリターンを得ています。収益基盤がしっかりしている割に、株価が割安な日本のメガバンクも、投資基準にかなうのではないかと私は考えます。

 

(4)JR東日本(9020

 バフェット氏は、インフラを支配する企業に関心を持っています。日本でいうと、インフラを支配している圧倒的な強みを持っているのがJR東日本です。観光ブームの恩恵で、新幹線や観光列車、関連ビジネス(ホテルなど)の需要拡大で恩恵を受けています。主に、新幹線が牽引役となって、最高益を更新し続けていることが注目できます。

 JR東日本は、事実上、日本で最強の不動産会社であると考えています。日本の不動産価格は、JR駅周辺が一番高く、遠ざかるほど安くなる構造です。駅周辺に持つ鉄道用地を、不動産事業に転換することで、利益を拡大してきました。JR東日本の有価証券報告書によると、同社は、2017年3月末時点で、賃貸不動産の含み益が、1兆3,030億円もあります。

 有利な立地を生かした小売業(駅ナカ)やカード事業(SUICA)でも高い競争力を持っています。成長率は高くありませんが、安定的に成長していく企業になると予想しています。

 

(5)KDDI(9433

 携帯電話事業の競争激化懸念で株価は上値が重くなっています。ただし、KDDIは、世界景気に影響されずに安定成長を続け、2018年3月期で16期連続の増配を予定しています。ケータイ事業のほか、さまざまなITサービスも手がけ、これからも安定高収益を維持していくと予想しています。

バフェット氏が買いたくないのは、どんなものか?

 一方、バフェット氏がもっとも買いたくない銘柄は、どのようなものでしょうか?今の日本株市場で言えば、東証マザーズに上場しているバイオ株の一部がそうだろうと、私は想像します。まったく利益が出ていないのに、夢だけで数百億円の時価総額をつけている銘柄があるからです。

 バフェット氏は最近、仮想通貨「ビットコイン」にも批判的な発言をしています。株式のように利益を生むわけではない仮想通貨が、投機的な買いで急騰するのは、バリュー(投資価値)を追求して投資するバフェット氏の考えに合わないと思います。

 

 

 

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