トランプ米大統領のOPECへの言及はやっぱりツイート

 先日4月20日、トランプ大統領はツイッターでOPEC(石油輸出国機構)について言及しました。恐らくトランプ大統領がSNSでOPECについて触れるのは、これが初めてだと思います。

 その内容を紹介します。

Looks like OPEC is at it again. 

どうやらまた、OPECのようだ。

With record amounts of oil all over the place, including the fully loaded ships at sea. 

海に停泊している満タンに積まれた船を含め、至るところに記録的な量の石油があるのに。

Oil prices are artificially Very High! 

石油価格は人為的にとても高いものだ!

No good and will not be accepted!

よくないことで、受け入れることはできない!

 

「口撃」と「称賛」、どちらかと言えば口撃のツイートといえます。ターゲットはOPECです。

 OPECとロシアなどの非OPEC諸国(計24カ国)などの産油国は意図的に原油の生産量を減らす「減産」(2018年12月で終了予定)を行っています。これが非常にうまく機能し、余剰在庫を大きく減少させていると産油国の会議で発表された直後のタイミングでのツイートでした。

 ツイートの最後の文に「No good」「will not be accepted」とあるとおり、トランプ大統領はこれを受け入れない姿勢を示しました。

 何が「よくないこと」「受け入れられないこと」なのでしょうか?

 原油価格を動かしているのが「OPECだから」でしょうか? 要因はどうあれ「原油価格が高いから」でしょうか? 需給バランスによるものではなく「人為的要因で原油価格が動いているから」でしょうか?

 ツイートの短文から想像する他ありませんが、トランプ大統領の「受け入れられない点」は「OPECが人為的に原油価格を高くしていること」とみている報道が多く見られました。
しかし、少し細かくデータを見たところ、トランプ大統領が受け入れられないとした点が別のところにあるのではないか?と筆者は考えるようになりました。

 

最も注目すべき単語は「ship」。満タンの「洋上在庫」の問題

 筆者が注目したのは「ship」という単語です。「海に浮かぶ石油が満タンの船(fully loaded ship at sea)」のとおり、海の上に石油在庫が存在しているのです。

 これは「洋上在庫」というもので、各種タンカーに積まれている、あるいは洋上の貯蔵施設に入っている石油の在庫のことです。

 図1は大手海外通信社が集計している世界の原油・石油製品の洋上在庫の推移を示したグラフです。

図1:世界の原油・石油製品の洋上在庫の推移

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成
単位:百万バレル

 上のグラフは、原油と石油製品の世界の洋上在庫の推移を示したものです。原油と石油製品を合計すると、2018年4月25日時点で2億2,926万バレルです。これは2010年頃と比較すると、およそ1.5倍の量です。

 このような在庫が世界の洋上に積み上げられているということです。トランプ大統領のツイートは、世界の洋上在庫が2010年以降、高水準の2億バレル台を維持している点について、言及したと言えます。

「OECD在庫減は減産の賜物」とうたうOPEC

 図1のように高水準で推移する洋上在庫を横目に、減少傾向にある在庫があります。それがOECD石油在庫です。

 OECD(経済協力開発機構)は、欧米や日本などの国が国際経済について協議するために作られた機関です。

 2018年現在、米国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、スイス、トルコ、英国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなど35カ国が加盟しています。
これらの国にある石油在庫、つまりOECD石油在庫のデータはEIA(米エネルギー省)やIEA(国際エネルギー機関)などが毎月公表しています。

 図2はEIAが公表しているOECD石油在庫の推移です。

図2:OECD石油在庫の推移 

出所: EIAのデータをもとに筆者作成
単位:百万バレル

 OPECの減産開始(2017年1月)以降、大きくOECD石油在庫が減少しています。

 OPECは4月20日に開いた減産監視委員会で、このOECD石油在庫が減少しているのはOPEC、非OPEC合計24カ国で減産を実施しているためだと強調しました。

「減産が万事うまくいっている」ことを発表し、市場に安心感を与え、原油価格を上向かせる狙いがあったと考えられます。

 この委員会の後、トランプ大統領が冒頭のツイートを行いました。「洋上在庫」を含め在庫はあると指摘したのです。

 OPECの減産がうまくいっていることを発表するため、OECD石油在庫が減少していることを強調したものの、世界のすべての在庫を網羅していない点をトランプ大統領のツイートは指摘していると言えます。

 筆者もこの点が気になり、EIAに問い合わせたのですが、やはりトランプ大統領が指摘しているとおり、「洋上在庫はOECD石油在庫に含まれない」という回答でした。

 OECD石油在庫は「加盟国35カ国の主に陸上の在庫」であるということです。つまりここには、中国やインドなど「加盟していない国」、あるいは陸上でない「洋上」の在庫は含まれていないことになります。

 このような、ある意味「抜け穴がある」OECD石油在庫が減少したことをもって、洋上在庫が高止まりしているにも関わらず、OPECは減産がうまくいっていると発表しているわけです。

 

中国の原油洋上在庫が急増中。OECD在庫減少分の一部か?

 図3は、中国の洋上在庫の推移です。

図3:中国の原油・石油製品の洋上在庫の推移

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成
単位:百万バレル

 2018年3月時点で中国の洋上在庫は原油・石油製品合計で2,000万バレルとなりました。現在は少なくともこの8年間の最高水準にあります。2018年2月から3月にかけて中国の原油洋上在庫は1,800万バレル増加しました。

 大幅減少中のOECD石油在庫において消費されずに、中国の急増は一例として、洋上在庫や非OECD諸国に「移動」している可能性は決して否定できるものではないと筆者は考えています。

 世界の石油消費の伸びが緩やかな巡航速度を維持している、つまりサプライズ感のない増加が継続していることも、在庫減少に疑問符が付く要因だと感じています。

 OECD石油在庫の大幅減少は、「一部は消費されずに移動しているだけ」というのが筆者の仮説です。

 この仮説が正しければ、いずれ巡り巡って洋上在庫や非OECD石油在庫が、OECD石油在庫を増加させる可能性もあります。

 3月に上海原油先物の取引が始まりましたが、納会日(原油の現物の受け渡しが行われる日)は最も早くて2018年9月です。この日以降の納会日のために在庫が積み上がっているとすれば、あと数カ月間は洋上、あるいは中国の陸上の在庫が増加し続ける可能性もあります。

 上海原油の受け渡し品はオマーンやイラクなどの中東産がメインです。このため、非OECD諸国間で原油が移動することになりますが、従来オマーンやイラクから原油を調達していた国は他国からの調達の必要が生じるため、間接的なOECD石油在庫の減少要因になり得ます(中国の洋上あるいは非OECD在庫にあたる陸上在庫は増加)。

 

価格を操作するOPECをけん制した大統領

 OECD石油在庫の減少は、OPECなどが行っている減産がうまくいっていることをわかりやすく伝える格好の材料となり、OPECは盛んにそれをプロパガンダ(政治的な宣伝)に用いていると筆者は考えています。

 それでいて、OECE石油在庫の性格上、洋上在庫、非OECD在庫を含んでいない点はほとんど報じられません。

 その意味では、トランプ大統領のツイートは「洋上在庫の存在に光をあてた」、現状の問題点を浮き彫りにする非常に的を射たものであったと筆者は考えています。

 OPECが(1)抜け穴があるOECD在庫が減少していることをプロパガンダに用いていること、(2)人為的に原油市場を操作していることをけん制するために、ツイートしたのではないかと思います。

 

米国内のガソリン価格を下げて支持を拡大させたい大統領!?

 トランプ大統領は人為的であったとしてもそうでなくても、あるいは人為的でその主体がOPECであったとしてもそうでなくても、原油価格が上昇することそのものを好ましく思っていない可能性があります。

 図4は米国内のガソリン価格の推移です。

図4:米国内のガソリン価格の推移

出所:米エネルギー省(EIA)のデータより筆者作成
単位:ドル/ガロン

 米西海岸地区ではガソリン価格が1ガロンあたり3ドルを超えました。全米、および5つの石油管理地区で最も安い地区であるメキシコ湾岸地区でもおよそ3年ぶりの水準まで上昇しています。

 米国内の個人においてガソリン消費の負担が大きくなれば、個人の消費動向、引いては個人消費が6割とも7割とも言われる米国のGDPにまで影響を与えかねません。

 加えて、米国内のガソリン価格が上昇することで消費が抑えられ、石油会社、特に精製や販売を手掛けている会社の収益を圧迫する可能性が出てきます。

 また、このようなガソリン価格が上昇することによるマイナス面の影響が2018年11月の中間選挙にも影響が出る可能性もあります。

 トランプ大統領は、政権誕生(2017年1月)以降、上昇の一途を辿っている米国内のガソリン価格の上昇にそろそろ歯止めをかけることを意識し始めた可能性があるのです。