急激な上昇ペースだけが「FAANG」の調整理由ではない

 皆さんの中にも、次世代の成長をリードすると見られる米国の大手ハイテクの代表的銘柄群、いわゆる「FAANG銘柄」(フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル)に投資していらっしゃる方は多いと思います。当コラムや私の講演等でも、この中でネットフリックス以外についてはしばしばご紹介しています。

 ニューヨーク証券取引所にはFAANG銘柄によって構成されている「NY FANG指数」というものがありますが、この指数は2017年、56%もの上昇率となり、米国株をより広くカバーするS&P500指数の上昇率18%を大きく上回りました。しかし、NY FANG指数は2018年初から3月半ばにかけてさらに24%上昇。さすがに調整なしにそのまま上昇できないペースとなったところで今回の調整を迎えることになりました。

 今回の調整について、「上昇ペースが速い」以外に市場で言われている理由はさまざまです。フェイスブックは大きく報じられたケンブリッジ・アナリティカを通じた個人情報漏洩問題、グーグルはこれをきっかけとしたインターネットに対する大規模な規制導入懸念、アマゾンは連日に渡るトランプ大統領からのツイッター攻撃、そしてアップルはiPhoneの売上成長鈍化懸念です。

 確かにこのような理由はあるのですが、そもそも2カ月半で24%と言うと、1年間で115%の上昇ペース。いくらFAANGでも、これは維持は不可能でしょう。そこにちょうど良い調整理由が出てきたというのが、自然な受け止め方ではないかと思います。

 上昇ペースが速かった分、調整も大き目になるのは当たり前ですが、このようなときに大きなサポート材料となるのが、「バリュエーション」です。要するに株価が下落しても、バリュエーションが割安であれば下値は限られたものと見ることができますし、一方で調整後でもバリュエーションが高ければ持ち続けることはできなくなるでしょう。

 このような観点から、FAANG銘柄が現在どのような位置にいるのかを見てみたいと思います。なお、FAANG銘柄のうちネットフリックスは当社として分析の対象外なので省かせていただきました。

フェイスブック(FB)

 確かに今回のケンブリッジ・アナリティカを通じた個人情報漏洩は深刻な問題であり、フェイスブックは責任を逃れられないと思います。ただ今回の失敗をきっかけに、フェイスブックは今後二度と同様の過ちを犯さないような措置を取るでしょうし、中長期的にそれはかえって非常に強固で、安心感が持てるものとなるでしょう。

 1日当たりアクティブユーザー数が15億人に迫るプラットフォームは全メディアにとって脅威であり、今回のスキャンダルを各メディアがより大きく取り上げるのは当然です。メディア報道によってより不安心理が高まり、2019年予想PERが16倍台と、S&P500指数平均とほぼ変わらない水準にまで下がっている現状では、悪材料はかなり織り込まれたと思います。

アマゾン(AMZN)

 FAANG銘柄の中で、ビジネスにしている市場規模が最も大きく、そしてそこから予想される成長率が最も高いのがアマゾンでしょう。従って当然のことながらPERも高く、調整局面が訪れたときになかなか下値を読みにくい銘柄かと思います。

 ただ私は今回、トランプ大統領が下値を教えてくれた感じがしています。一企業にとって、世界最強の国の大統領が連日ツイッター攻撃する以上の悪材料はあるでしょうか? アマゾンは3月末にかけて連日トランプ大統領のツイッター攻撃を受けて株価は1,300ドル台。今後よっぽどのことがないと、この水準を下回る状況は考え難いのではないでしょうか。

アップル(AAPL)

 iPhoneの需要が多くて生産が追い付かないと「供給不安」、店頭にiPhoneが並んでいると「需要減少」――これはメディアがアップルについて報道するときの常套手段となりました。私もアップルやiPhoneの売上動向についてはもう10年近く分析していますが、繰り返される一定のパターンがあり、メディアはその波を捉えて報じているだけというのがよくわかります。

 保有する現金から税金を差し引いた時価総額で2019年予想PERを計算すると11倍を割り込みます。ビジネスの上下動をよく理解し、これに耐えられる中長期的な投資家は、引き続き十分報われる状況だと思います。

アルファベット/グーグル(GOOGL)

 検索以外の事業を拡大しつつあり、それによって中身がわかりにくくなってきているのが一因で、比較的高い成長率の割に2019年予想PERは20倍と、市場平均を少し上回っている程度です。

 検索エンジンと並んで傘下のYouTubeは「金の成る木」に近い良いビジネスであるほか、現在進行中のさまざまな投資・開発案件が将来芽を結んでくることによって得られる収益はほとんど評価されていない状況です。もちろん割安な株価がさらに割安になる可能性はありますが、こちらも長期の投資は報われる可能性は高いと考えています。

 このように2000年のネットバブル期と異なり、昨年の非常に高い上昇率にもかかわらず、利益成長率も高かったおかげで、今回株価調整後の大手ハイテク銘柄はバリューの観点から見ても、調整前とほとんど遜色のない水準だと思います。もちろん、市場が再び評価してくれるようになるまでには時間が必要でしょうが、その時間を待つ(=リスクを取る)価値はあると考えています。