マーケットは米中摩擦を静観
3月下旬に104円台をつけたドル/円は、朝鮮半島の地政学リスクの後退や米中貿易摩擦について米側から対話の意向が示されたため、貿易戦争拡大懸念が後退し、4月に入って107円台半ばまで上昇しました。
その後、先週6日に発表された米雇用統計の非農業部門雇用者数が10.3万人と予想を下回ったことや、再び米中貿易戦争拡大の懸念が広がり、米株は大幅安となり、ドル/円も106円台に下落しました。
米中報復合戦が過熱しているにもかかわらず、ドル/円は107円近辺で動いており、数週間前より円安の水準です。米中貿易摩擦は深刻な拡大には至らないとの安心感がマーケットには漂っているゆえかもしれません。その証左に、米中側からの発言に対してマーケットの反応は徐々に鈍くなってきていることがあります。
一方で、米株は米中貿易摩擦による企業への業績懸念と、フェイスブックなどといったIT企業のスキャンダルから、いまだ不安定な動きをしています。米株が不安定な動きをしている限り、ドル/円のこれ以上の円安にも限界がありそうです。
15日公表の為替報告書に警戒必要
貿易摩擦への反応は鈍くなってきていますが、警戒心を解くわけにはいかないでしょう。
13日には3月の中国の貿易統計が発表され、また15日前後には米国財務省から「為替報告書」が公表予定です。
17~18日には日米首脳会談が予定され、中国の対米貿易黒字の数字や「為替報告書」の内容次第では再び相場が動いてくるかもしれません。
「為替報告書」については、このコラムでも1年前に取り上げましたが、「為替報告書」とは、米財務省が半期に一度(4月と10月の中旬)、主な貿易相手国の為替政策を分析・評価し、議会に提出している報告書のことです。
対米輸出を増やすため、貿易相手国が為替介入などで通貨安誘導を行った場合は「為替操作国」として議会に報告し、制裁を発動します。
その前段階として、2016年4月に「監視リスト」を設け、即制裁ではないにしても貿易相手国の為替政策をけん制するようにしました。現在の監視対象国は、日本、中国、韓国、ドイツ、スイスの5カ国・地域です。台湾は半年前の報告書で対象国から除外されました。
現在、中国は監視対象国となっていますが、トランプ大統領が選挙中に公約していた「為替操作国」として認定することを見送ってきています。13日の中国の貿易統計で対米貿易黒字が拡大すれば、中国が監視対象国から為替操作国に認定される可能性もあり、貿易摩擦拡大懸念に再びマーケットは敏感になることも予想され、警戒する必要があります。
日本を眺めるトランプの思惑は?
日本についての評価も警戒しておく必要があります。半年前の報告書では、日本に対しては「約6年間、為替介入を実施していない」と評価する一方、円相場はドルに対し「過去20年間の平均に比べ20%超も安い」と指摘。為替報告書では実質実効レートで20%弱い水準とのことですが、名目レートにそのまま20%を適用すると、過去20年間の平均レート(年末終値ベース)は約108円で、この水準から20%の円高は約86円となります。
1年前の為替報告書でもこの「20%超安い」と同じ表現で指摘していました。
今回、現状の107円は過去20年間の平均レートに近い水準のため、同じ表現で指摘される可能性があります。もし、同じ「20%超安い」という表現なら、名目レートで約86円まで円高余地があると米国は引き続き考えていることになります。
4月中に開催予定の日米首脳会談で米製品の輸入拡大など具体的に貿易不均衡の是正を求められた場合、完全に拒絶するとカウンターオファーとして20%の円高を求めてくる可能性はあります。直接求められなくてもトランプ米大統領が「円相場はドルに対して20%安すぎる」と発言するだけで円高になります。
米中間選挙、過去のドル/円の値動きはドル安→ドル高
とにかく、米中間選挙を控えたトランプ大統領の行動には目が離せません。
米中間選挙前後のドル/円の動きは、過去5回の平均では、投票日前半年はドル安となり、投票日後はドル高の動きとなっています。中間選挙への不透明感からドル安になりがちであり、中間選挙が終われば、結果にかかわらず、その反動としてドル高に動いているようです。ただ、大統領選挙ではないので新政権期待の強いドル高程ではないようです。
今年のドル/円も年初からドル安、円高に進み、4月で一服していますが、11月の中間選挙に向かって再びドル安に動くかもしれません。中間選挙への不透明感に加えて、今年はトランプ大統領への警戒感から、例年よりその値動きが激しくなるかもしれません。
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