3月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 2月に続いて3月も日本株は試練の相場でした。米国株のベア相場入り、そして日本株に対する外国人の売りが止まらず、月間でも日経平均株価は▲2.78%と2カ月連続で下落しました。2月の急落場面で、個人投資家の多くが逆張りで買ったのが日経平均レバレッジETF(1570)。上がって欲しかった日経平均が上がってくれなかったことが、個人投資家の懐具合を悪化させます。何度かリバウンドするも、結局落とされる…この繰り返しで、2月のファーストクラッシュ時と比べ、明らかに戦意喪失した投資家が増えたようでした。

 新興株市場の指数については、3月月間では東証マザーズ指数が▲2.65%、日経ジャスダック平均が▲3.99%。いずれも、日経平均と同様に月間では下落しており、日本株全体の地合いに新興株市場も左右されていました(日経平均が上がらなくても、新興株が買われるといった地合いではない)。

 なお、3月は、海外要因では①トランプリスク(米中貿易戦争への警戒感)、国内要因では②政局リスク(森友問題)と③ガイダンスリスク(円高が進んだことで19年3月期業績見通しが悪化しそうなこと)が売りのテーマでしたよね。この中で、マザーズ指数の下げが強く出ていたように見えたのが、②政局リスクを市場が意識していたタイミング。財務省の決裁文書改ざん問題に世間の関心が集中していましたが、外国人投資家の大半が森友問題など意味も分かっていないでしょう(当然ですが)。

 日本人のほうがより問題意識を強めていただけに、日本人の個人投資家がメインプレーヤーの新興株市場は②政局リスクに敏感だったように思われます。とくに、メディアが週末に内閣支持率を集計して公表します。3月は支持率低下が続いたこともあり、マザーズ指数は「月曜日(週初の初日)が全部下落」となっていました。


3月の売買代金ランキング(人気株)

 マザーズ市場の月間の売買代金を集計してみると、2月は19営業日で1兆7,592億円(1営業日当たり平均926億円)、3月は21営業日で2兆1,414億円(同1,019億円)。1日当たりでいえば1割ほど増加しています。

 一方で、売買代金25日移動平均のトップ20銘柄を見る限り、盛り上がった株がほとんどなかったのが特徴でした(1位の明豊エンターでも52億円で、2月はトップのラクオリア創薬は141億円)。また、売買の多い株のほとんどが下落。なかでも、2月の売買代金トップ銘柄ラクオリア創薬は、売買代金25日移動平均が前月比で3分の1となり、株価も月間では2カ月連続の下落となっています(高値づかみして、売れずに困って塩漬け株にした投資家が最も多い新興株)。

 個別株の売買は減っているのに、マザーズ全体の売買代金は1割増加している理由は、「IPO(新規公開株)」にあります。3月はIPOが多くなる時期ですが、今年は14社が上場。そのうちマザーズ銘柄が9社を占め、神戸天然物化学(6568)SOU(9270)ファイバーゲート(9450)RPA(6572)アジャイル(6573)などが大活況。初値が付いた直後の、流動性が極めて高いタイミングを狙い、日計り(デイトレード)に徹してエントリーする短期志向の投資家(個人やディーラーなど)が多かったといえます。短期資金の多くがIPOに向かった影響で、個別株ごとの売買代金は低下(人通りが減少)しました。

市場 コード
銘柄名
3月末
終値
時価
総額
(億円)
売買代金
25日
移動
平均値
(億円)
月間
騰落率
(%)
ジャスダック 8927
明豊エンター
678 167 52.8 -10.6
ジャスダック 4579
ラクオリア
1,808 368 46.9 -16.7
ジャスダック 6467
ニチダイ
1,442 131 46.6 -46
東証マザーズ 3689
イグニス
2,085 280 42.9 -0.8
ジャスダック 3791
IGポート
2,900 147 37.5 -29.9
東証マザーズ 4565
そーせい
8,820 1681 33.4 -8.8
ジャスダック 6324
ハーモニック
6,110 5885 31.1 -6.9
東証マザーズ 2385
総医研
744 195 30.7 -7.6
東証マザーズ 6095
メドピア
1,605 143 29.4 12.1
ジャスダック 6425
ユニバーサル
4,875 3910 29.2 -9.2
ジャスダック 7776
セルシード
1,780 203 26.2 142.8
東証マザーズ 4586
メドレックス
1,893 181 23.7 31.5
ジャスダック 3540
Ciメディカル
9,700 970 23.3 -14.6
東証マザーズ 3267
フィルカンパニ
6,900 383 22.1 -25.7
東証マザーズ 6034
MRT
2,760 145 22 50.9
東証マザーズ 6172
メタップス
2,743 369 20.9 -0.5
東証マザーズ 2160
ジーエヌアイ
522 704 20.4 -15.1
東証マザーズ 4592
サンバイオ
3,555 1617 20.2 -8.6
東証マザーズ 4380
Mマート
4,175 102 19.1 -27.9
東証マザーズ 3994
マネフォワ-ド
4,560 877 19 -1.5


売買代金ランキング(5銘柄)

1 イグニス(3689・東証マザーズ)

 期待させておいて…落とす。2月末に会社発のリリースで株価は急騰。子会社がVR関連のプロジェクト開発を本格的に始動すると会社側がリリースしたことで、発表前1,702円(2月27日終値)だった株価は、4営業日後にはほぼ2倍となる3,400円(3月5日高値)に。期待感満載の株価は一変、翌6日に20%安となります。
 売り材料視されたのは、5日の引け後、新株予約権発行で70億円超の資金調達を行うと発表したこと。1株当たり利益の希薄化を嫌った売りが殺到し、イグニス株のイグニスによるイグニスのための(?)急騰劇も、3月に入り、わずか3日で幕を閉じました。
 

2 メドピア(6095・東証マザーズ)

 マザーズ指数が月間で下落となった3月、出来高を増やしながら逆行高しました。5日に、ドラッグストア大手のスギHDとの資本業務提携を発表。スギHDと協業し、ネットとリアルを融合した統合型プラットフォームを創るようです。
具体的には、スギ薬局の来店者に提供するサービスに、メドピアの遠隔医療相談サービスなどを組み合わせるそうです。全国に1,000を超える店舗数を持つスギHDとの提携が、メドピアの業容を中長期で拡大させるのは間違いないでしょう。

3 メドレックス(4586・東証マザーズ)

 グッドニュースの連発で、昨年から株価の上昇が目立つバイオ株。3月一番の買い材料は、国内製薬大手の第一三共と、同社独自の経皮吸収技術を用いた開発候補品で共同開発契約を結べたこと。2月28日の発表を受け、株価は3月の月初いきなり23%高。この日の安値1,639円を、3月末まで一度も割り込まずに推移しています。下がったら押し目買いが入っている証拠で、それだけ強い材料であることが分かります(怪しい買い材料の場合、すぐに化けの皮が剥がれます)。

4 フィルカンパニー(3267・東証マザーズ)

 1月に月間で2.1倍、2月も月間8%高と強かった同社株も、3月は25%安と大幅調整に。2月に立会外分売の実施を発表し、その理由として「東証1部への市場変更申請を行う準備を具体的に進めている」と明記していました。近いうちに東証1部に昇格しそう…その期待が同社株には込められていましたが、3月も進ちょくを投資家に報告しています。同社は8日、本則市場(東証1部、または2部)への変更を申請したと発表。ただ、事前の会社側からのアナウンスが多過ぎたせいか、完全に“織り込み済み”といった反応に。買い材料とはいえ、2カ月続けて同じネタは通じない?
 

5 Mマート(4380・東証マザーズ)
 

 今年の第1号IPO(2月23日上場)銘柄。IPOが約2カ月にわたり空白となることもあり、第1号IPOには普段以上に初値買い資金が集まります。公開規模(公開価格×公開株数)が約8億円と大きくなかったことも手伝い、初値は公開価格1,240円の4倍以上となる5,380円に。
 IPO株は、完全に需給ギャップだけを理由とした高株価で上場直後は取引されます。ただ、これも買う人が居続ければ…という話。3月に入って続々とIPO銘柄が登場するに連れ、人気は分散していきます。IPO株は空売りが出来ないため、「買戻し」という概念がありません。新規の買いが続かなければ、株価は下がるしかないわけで…3月は月間で27%安に。

3月の株価値上がり率ランキング

 地合いの悪かった3月も、地合い無視で上がった株はいくつも出てきます。森(全体の地合い)より木(個別株)、森友より木…。ただ、3月の値上がり率ランキングの顔ぶれを見る限り、新興株でも小型株だけでした。木というより、枝を見よ!というところでしょうか。値上がり率上位20に時価総額で300億円以上の銘柄はゼロでした。

 また、市場別ではマザーズ銘柄が5、ジャスダック銘柄が15。3月も急騰株はジャスダックから圧倒的に排出されています。さらには、知名度の低い銘柄から大化け株が多く出ています。やはり、これまで取引されていなかった(信用買い残が少ない)マイナー銘柄ほど、戻り売り圧力が小さいために値段が上方向に跳ねやすいといえそうです。

市場 コード
銘柄名
月間
騰落率
(%)
3月末
終値
前月末
終値
時価
総額
(億円)
ジャスダック 7776
セルシード
142.8 1,780 733 203
ジャスダック 2176
イナリサーチ
80.2 1,400 777 42
東証マザーズ 9262
シルバーライフ
75.0 9,360 5,350 244
ジャスダック 9698
クレオ
67.7 1,045 623 90
ジャスダック 6276
ナビタス
65.4 802 485 46
ジャスダック 7855
カーディナル
62.1 1,527 942 33
ジャスダック 3316
東日システム
60.8 6,240 3,880 79
東証マザーズ 3624
アクセルマーク
54.2 1,940 1,258 85
ジャスダック 6819
伊豆SR
54.1 208 135 59
ジャスダック 7869
日本フォーム
53.1 4,165 2,720 17
東証マザーズ

6034
MRT

50.9 2,760 1,829 145
ジャスダック 7477
ムラキ
50.7 1,471 976 22
ジャスダック 4287
ジャストプラ
50.3 1,945 1,294 82
ジャスダック 4570
免疫生物
50.1 1,460 973 115
ジャスダック 2916
仙波糖化
48.9 1,026 689 117
東証マザーズ 6185
SMN
45.5 3,600 2,475 227
東証マザーズ 3138
富士マガ
41.1 1,515 1,074 50
ジャスダック 8257
山陽百
40.3 2,550 1,818 21
ジャスダック 4572
カルナバイオ
40.0 1,833 1,309 175
ジャスダック 3814
アルファクスFS
39.5 2,161 1,549 54

 

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 セルシード(7776・ジャスダック)

 新興株で唯一、3月に2倍高を実現した銘柄。2月の本決算発表後から動意付き、その勢いは2カ月継続。3月に入り、個別の材料でJTEC(3446)サンバイオ(4592)免疫生物(4570)ブライトパス(4594)…など、再生医療関連のバイオ株に日替わり物色が目立ちました。
 再生医療関連の同社にも資金が集まり、「上がるから買う→買うから上がる」のサイクルに。27日には、パイプラインの「軟骨再生シート」に関する欧州基本特許が成立する見込みになったと発表。怒涛の3月大相場、自社の好材料で有終の美を飾りました。
 

2 シルバーライフ(9262・東証マザーズ)

 昨年10月上場の直近IPO株。上場直後こそ人気はイマイチでしたが、今年3月にブレイクしました。引き金になったのは12日に発表した18年7月期の中間決算。営業利益が2.68億円と、通期予想(5.32億円)に対する進ちょく率は5割とまずまず。それ以上に、同時に発表した株式分割(4月30日現在の株主に対して2分割)が材料視されたようです。
 需要が今後伸び続けるとみられる高齢者向けの配食サービス。同社の「まごころ弁当」は店舗数で業界首位、ビジネスモデルとしてありそうでなかったIPOでした。また、社長は元警察官という異色の経歴。社会貢献度合いの高い事業という意味でも、長く応援したい存在ですね。
 

3 クレオ(9698・ジャスダック)

 増配へのサプライズに加え、3月に人気化した新しいテーマの材料も噛み合って急騰しました。2月末に、期末配当を前回予想比で1円増配(14円→15円)にすると発表。業績改善に反応して動き始めた株価に、追撃弾となったのが29日に発表した「RPAサービスの提供開始」でした。
 “RPA”とは、Robotic Process Automationの略。「ロボットで業務を自動化する」ということですが、人間の替わりとなるロボットの作業を、いわゆるホワイトカラーが手掛ける業務に対象を広げることを指す新しいキーワードです。このRPAで先駆するRPA(6572)が3月27日に東証マザーズに上場(初値は公開価格の4倍に!)。株価が人気化している最中で、このRPAが提供する「BizRobo!」を活用したサービス開始を発表したことが強く材料視されました。
 

4 ナビタス(6276・ジャスダック)

 2月末までほとんど売買されてこなかった低知名度の低流動性株。3月入り直後から急動意したきっかけは、「会社四季報の業績予想」でした。会員向けの情報で、同社の四季報予想を上方修正。同社の18年3月期の営業利益予想は0.96億円、四季報予想は従来0.95億円でしたが、これが「1.8億円」に大幅増額されました。
 会社予想とのかい離率が87%を超えており、サプライズ決算になりそうなことを先取る買いが殺到!ただし注意すべきは、大幅に増額修正された四季報予想を、実際の会社発表分が下振れたときのリスクが極端に大きくなったことでしょうか…。
 

5 カーディナル(7855・ジャスダック)

 物色テーマで注目集まる「ICタグ関連」として人気化しました。株価は3年ぶりに上場来高値を更新、突如現れたスター株といった扱いに。スーパーやドラッグストアなど、大手の小売チェーンが無人店舗やセルフレジの導入を目指していますよね。27日付の一部経済紙では、セブン-イレブン・ジャパンがICタグ(RFIDタグ)を使用し、店舗の検品作業を大幅に効率化するとも報じられました。
 RFIDタグの専用工場も持つ同社が、新興株の関連株として買いが集まりました。関連株で一番フィーバーしているのは、東証1部のヴィンクス(3784)。3月の月間上昇率は、カーディナルの62%を上回る67%。4月もその勢い、まだ止まっていません。
 

4月に注目したい新興株の動き

 3月の21営業日のうち、日経平均株価と東証マザーズ指数の上昇/下落の方向が一致したのは「17営業日」でした。引き続き、日経平均との相関性は高く、「日経平均が上がる→個人のマインドが改善する→新興株市場も上がる」というサイクルの中にあると言えそうです。その日経平均は「米国株が上がらないと上がらない」という、完全に受け身キャラ。その受け身キャラにヒモ付いてしまっている新興株も、結局のところ根っこにある「米国株がいかに立ち直れるか」に委ねられている側面があります。

 4月に入り、さすがに飽きてきたのか、“(米中)貿易戦争懸念”のネタに対する東京市場の反応は鈍くなってきました。昨年の北朝鮮リスクと同じで、最後は穏便に終わることが見えてきているなか、いちいちトランプ大統領のツイートに付き合って短期で売り買いする不毛さに気付いた投資家が増えているのでしょう。

 そうなると、この貿易戦争ネタ以外の手掛かりをきっかけに、米国株が反転する可能性もありそう。足元の米国株安は、とりわけFANG(フェイスブックアマゾンネットフリックスアルファベット)やMANT(マイクロソフトアップルエヌビディアテスラ)と呼ばれる人気銘柄群の下落の大きさが心配されていますよね。下落の過程で空売りが増加していることを前提にしますが、これらの買戻しがどこで入るか?も注目。

 その意味では、目先は10日~11日に予定されているフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOによる議会証言が悲観の後退(=買戻し)のきっかけになるかもしれない重要イベント。また、FANGやMANTでは、16日にネットフリックス、23日にアルファベット、25日にフェイスブック、26日にマイクロソフト、アマゾン・ドットコムが決算発表を予定しています。日本でも「米国の●●の決算発表には注目で~」と3カ月毎に言われますが、今回は手前の下げがきつい分、ここ数年で一番注目だと思います。

 日本の新興株でも、社数は多くないものの、今年に入って個人投資家が物色している人気株の決算発表が多くなります。12日(木)にマザーズのフィルカンパニー(3267)、13日(金)にジャスダックのIGポート(3791)ポエック(9264)、マザーズの串カツ田中(3547)ロコンド(3558)サインポスト(3996)、16日(月)にマザーズのマネーフォワード(3994)TKP(3479)などが予定。

 また、4月下旬からは、東証1部の3月決算企業の本決算が続々出てきます。今年に入って円高が進んだことで浮上した“ガイダンスリスク”…このリスクへの不安が過剰だったのか?それとも不安に思って正解だったのか?それに対する一定の結論が出てきます。手前で不安感から日経平均の先物売りや現物株の空売りが高水準でしたよね。それだけに、こちらも悲観の後退(=買戻し)というベストシナリオだけではなく、悪材料の織り込み済み(=買戻し)につながる可能性もあります。重要イベントが目白押しの4月ですが、あまりに3月までが「ハイリスク/ローリターン」だっただけに、イベント通過後に「ローリスク/ハイリターン」的な打ち返しになるのでは?なんて期待目線をしてみたくなる4月相場です(あくまで3月までがひどかっただけに)。