毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄
ルネサス エレクトロニクス(6723)、ソニー(6758)、ローム(6963)、東京エレクトロン(8035)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)、アドバンテスト(6857)、アドテックプラズマテクノロジー(6668)
決算シーズン前に半導体・半導体製造装置セクターのデータを確認する
7月24日の週から2018年3月期1Q(2017年4-6月期)決算の決算発表が本格化します。これまで同様、半導体関連企業の決算は最重要決算の部類に入ります。
そこで今回は、決算を前に、半導体デバイスと半導体製造装置の両セクターについて、諸データ(業界統計、企業の月次数値、業績上方修正など)を分析し、先行きを概観してみたいと思います。もちろん、詳細な分析のためには決算の中身を分析する必要がありますが、そのための下準備です。
なお、今年4月から日本半導体製造装置協会の日本製半導体製造装置受注高が公表されなくなりました。また、今1Qから東京エレクトロンが受注高を開示しなくなります。他の半導体製造装置メーカーの受注高は公表されると思われますが、業界の中で、特に前工程市場における東京エレクトロンの存在感は大きく、今後は受注高から業界のトレンドを見極めることが難しくなると思われます。そのため、半導体デバイスの需要、出荷と、設備投資の動きから、半導体製造装置市場の先行きを予測する「トップダウンアプローチ」が重要になると思われます。本レポートはその試みでもあります。
半導体・半導体製造装置セクターの主要企業の決算発表スケジュールは以下の通りです。
2017年7月26日(水) | アドバンテスト(同日に決算説明会) |
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7月27日(木) | 東京エレクトロン(同日の決算説明会、後日Webサイトで公開) |
7月28日(金) | ルネサス エレクトロニクス(同日に決算電話会議) |
8月1日(火) | ソニー(同日に決算説明会、Webサイトで公開) ローム(決算説明会なし) |
8月3日(木) | ディスコ(同日に電話会議、会社側説明をYouTubeで公開) ニコン(同日に決算説明会) |
8月7日(月) | レーザーテック(2017年6月期決算、8月9日に決算説明会) |
8月8日(火) | SCREENホールディングス(同日に決算説明会) |
8月9日(水) | アルバック(8月10日決算説明会、後日Webサイトで公開か) |
半導体出荷金額は順調に増加中
グラフ1、2は、2017年5月までの世界の半導体出荷金額(3カ月移動平均)の実額と前年比をグラフ化したもの、表1はそれらの実数です。特に、アメリカと中国での伸びが大きいことがわかりますが、これは、アメリカはデータセンター向けSSD(NAND型フラッシュメモリを使ったメモリ媒体)とサーバー用CPUの需要増加、中国はスマートフォン、パソコンなどに使うNAND型フラッシュメモリやCPU、各種半導体の需要が増えていることが大きな要因と思われます。更にNAND型フラッシュメモリやDRAMの市況上昇で金額が膨らんでいると思われます。
電子部品と半導体の4大需要分野は次の通りです(半導体の中でもトランジスタ、ダイオードなどのディスクリート半導体は需要構造が電子部品に似ており、様々な電子機器に装着されます。また、電子部品でも通信用として重要なSAWデバイス(弾性表面波フィルタ、受信した電波の中から目的の電波を選び出す)は生産に半導体製造装置の前工程製品を使います。電子部品と半導体はある程度需要と製造工程が似ています)。
- スマートフォン
- データセンター(SSDとサーバー)
- 自動車(自動車の電装化から自動運転と電気自動車に発展)
- ゲーム
先行きを考えると、スマートフォン市場では毎年恒例の新型iPhone発売が例年の9月よりも1~2月遅れるという観測が出ています(特に有機ELディスプレイ搭載のiPhone8)。またiPhone8の初期供給量が少ないという観測も出ています。ただし、iPhone8の人気が高い場合は、発売時期が後ずれするだけで来年2018年にスマートフォン向けに大きな半導体需要が発生する可能性があります。例えば一部の観測では、iPhone8のストレージメモリは64GBと256GBの二本立てになると言われています。今のスマホユーザーの動画の使い方を見ると、iPhoneの主流は今のような128GB版ではなく、256GB版になると思われますが、これはNAND型フラッシュメモリの需要増加に直結するでしょう。
データセンター向けも引き続き伸びが見込まれます。NAND型フラッシュメモリの市況が堅調なことを見ると、この分野の需要が軟化しているとは思えません。
自動車向けはまさにこれからの分野です。自動運転が初期のADAS(レベル1)からレベル2に移行する段階にあり、自動運転の普及による半導体需要の増加が予想されます。更に、電気自動車は半導体とモータ、各種電子部品のかたまりになります。 先週の楽天証券投資WEEKLY で指摘したとおり、今はこれまで手作りで少量生産してきた電気自動車が量産に移る転換点です。この動きが自動車向け半導体需要を更に増加させる要因になると思われます。
そしてゲーム向け需要です。ニンテンドースイッチのようなゲーム機に使われている半導体、電子部品は一部を除いて決して高度なものではなく、他の3分野に比べれば数量も少ないのですが、スマートフォン、データセンター、自動車向けの需要増加で電子部品と半導体の需給関係が十分に緊張しているところへ、ニンテンドースイッチの増産によってゲーム向け需要が増えることになります。特に電子部品への影響(一般電子部品の工場稼働率の上昇と、価格低下が抑えられること)が大きいですが、各種半導体へも良い影響があると思われます。
グラフ1 世界の半導体出荷金額(3カ月移動平均)
(単位:1,000ドル、出所:米国半導体工業会(SIA)より楽天証券作成、注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離)
グラフ2 世界の半導体出荷金額(3カ月移動平均):前年比
(単位:%、出所:米国半導体工業会(SIA)より楽天証券作成、注:「アジア太平洋・その他」は2016年2月まで中国を含む。2015年3月から「アジア太平洋・その他」の金額より「中国」を分離したため、中国の前年比は2016年3月から。)
表1 世界の半導体出荷金額(出荷向け先別、3カ月移動平均)
グラフ3 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月22日まで)
(単位:ドル、多値品、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成)
グラフ4 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
(単位:ドル、TLC、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成、注:2017年5月30日付けで従来の多値品がTLCに変更された。)
グラフ5 DRAMの市況
(単位:ドル、4ギガビット(DDR3)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成)
TSMCで10ナノの製造販売が始まった
グラフ6、7は世界最大の半導体受託製造業者であるTSMCの月次売上高の実数と前年比です。直近の売上高は4月を底として回復してきました。前年比も4月の前年比14.9%減から6月の同3.4%増へプラス転換しています。TSMCの2017年4-6月期(2017年12月期2Q)の売上高2,138.6億台湾ドル(70.6億ドル=約7,850億円)の58%が通信向けで、アップルが大手顧客と思われますので、iPhoneなどの高級スマートフォンの動きがTSMCの業績に与える影響は大きいと思われます。
グラフ8はTSMCが販売している半導体の線幅別内訳です。線幅が小さいほど半導体生産に高い技術を使っていることになります。4-6月期の特徴は売上高の1%が10ナノ半導体になったことです。TSMCは新型iPhoneのCPUを受注しており、その線幅は10ナノです。また、TSMCの4-6月期売上高のうち通信向けは前年比10%減だったため、iPhone向けビジネスは昨年よりも遅れて始まったようですが、ようやく10ナノ半導体の市場がスタートしました。
今後順当に進めば、先端半導体の世界は来年以降7ナノ、5ナノへと進むと思われますが、これは後述の半導体製造装置の市場に大きな影響を与えることになります。
グラフ6 TSMCの月次売上高
(単位:100万台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成)
グラフ7 TSMCの月次売上高:前年比
(単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成)
グラフ8 TSMCの線幅別売上比率
(単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成)
表2 iPhoneのCPUと製造技術
NAND型フラッシュメモリの企業別シェアが変化
これまで述べたように、半導体デバイスの市場全体は好調に推移しており、当面は良い状況が続くと思われます。上述の4大需要分野の持続性を考えると、長期ブームの可能性も出てきました。
ただし、個々の半導体市場での企業の動きを見ると、シェアに変動が見られるケースもあります。目につく事例がNAND型フラッシュメモリです。表3は、NAND型フラッシュメモリの四半期ベース売上高、前四半期比伸び率、市場シェアを並べたものです。東芝の市場シェアが継続的に下がっていることに注目したいと思います。サムスンの攻勢というよりも、同盟関係にあった(今は係争中だが、四日市工場を共同運営している)ウェスタン・デジタル(WD)とSKハイニックス、マイクロン、インテルの伸びが目立ちます。東芝以外のメーカーによる「東芝追撃戦」と考えてよいと思われます。
東芝メモリ(東芝の半導体子会社)はこの状況を放置するわけにいきません。今の東芝を巡る騒動にカタがついて、東芝メモリの落ち着き先(売却先)が決まれば、「迎撃戦」を行わなければなりません。「追撃」、「迎撃」はいずれも設備投資を伴いますが、スマホ向けストレージメモリの需要、データセンター向け需要(データセンターの記録媒体は今もHDDが主でSSD比率は未だ一桁%と言われている)の大きさを考えると、大きな設備投資をしても市況が軟化することは考えにくいものがあります。そのため、NANDの分野での大型設備投資が継続する可能性があります。
表3 NAND型フラッシュメモリの売上高と市場シェア
6月の日本製半導体製造装置販売高は前年比53.6%増
7月20日付けで日本半導体製造装置協会は、2017年6月の日本製半導体製造装置販売高を公表しました。それによると、6月の販売高(暫定値、3カ月移動平均)は1,530億5,200万円(前年比53.6%増、前月比10.3%減)となりました。
グラフ9を見ると、今回の半導体設備投資ブームが2000年以降2回到達したピークに接近しつつあり、かつ、6月販売高が5月より少なかったために、販売の勢いに一服感を持つ向きがあると思われます。しかし、私の意見では半導体設備投資ブームは今後も続き、過去2回のピークに届き、それらの水準を抜く可能性があります。
まず、統計を可能な限り遡ると、2000年以降毎年5月から6月にかけて販売高が減少するパターンが続いています。ちなみに、2016年6月は前月比19.1%減、2015年6月は同27.6%減となっており、2017年6月の10.3%減よりも大きな減少になっています。この要因は、期末なので大きな数字になる3月の影響が6月にはなくなることと(この販売高は3カ月移動平均値なので、6月は4,5,6月の平均値になる)、季節性と思われます。
一方で6月の前年比は53.6%増と極めて高水準な数字になりました。3月の影響から脱していますが、それでも前年水準を大きく上回る販売高となりました。
半導体デバイスを取り巻く環境は上述したとおり良好です。グラフ1とグラフ9を見比べると、半導体出荷金額が大きな波を描きながらも右肩上がりで増加しているのに対して、半導体製造装置販売高は過去2回とも同水準でピークを付けました。半導体・半導体製造装置の今回のブームと、2000年以降2回のブームの相違点は、2000~2001年にはネットバブル崩壊が、2007~2008年にはサブプライムショックとリーマンショックがありブームが終焉したことです。今回はまだその規模の経済変動はありません。
もし大規模な経済変動がなければ、今回のブームでは、半導体、半導体製造装置ともに、より長い期間持続的な成長をする可能性があります。特に、半導体製造装置販売高が過去のピークを抜く可能性があると思われます。
グラフ9 日本製半導体製造装置の販売額
(単位:百万円、3カ月移動平均、出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成)
表4 日本製半導体製造装置の受注高と販売高(3カ月移動平均)
後工程と製造装置用部品も好調
後工程では、ディスコの2018年3月期1Qの単独売上高が376億4,500万円(前年比37.9%増、前四半期比14.5%増)となりました。メモリ向け中心に引き合いが強く、ダイサー(前工程で処理されたウェハをチップに切り出す)、グラインダー(ウェハの底を平らにする)ともに好調でした。市場環境を考えると、波はあると思われますが、今後も業績は順調に伸びると思われます。
グラフ10 ディスコの単独売上高
(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)
半導体製造装置の部品も注目したい分野です。前工程装置(スパッタリング装置、エッチング装置など)の電源の大手メーカーであるアドテックプラズマテクノロジーは2017年8月期業績見通しを上方修正しました。7月14日発表の2017年8月期3Q累計決算(2016年9月~2017年5月の9カ月決算)は35.8%増収、営業利益6.4倍の好決算であり、これに基き会社側は通期2017年8月期見通しを上方修正しました。前回予想は売上高71億7,500万円(前年比35.0%増)、営業利益11億7,300万円(6.3倍)でしたが、新予想は売上高は変更ありませんが、営業利益は13億5,000万円(7.2倍)です。
今の前工程装置の伸びを考えると、2018年8月期も20%以上の増収、30%以上の営業増益が見込まれます。
今1Qも半導体関連は好決算が期待できよう
今1Q決算における注目決算企業であり、投資妙味を感じる企業は、半導体デバイスでは、ルネサス エレクトロニクス、ソニー、ロームです。ルネサスは自動車向けマイコン、ソニーは高級スマホ向けイメージセンサー、ロームは、民生向け、自動車向け、ゲーム向けの動向などが注目点です。東芝も東芝メモリの中身は重要ですが、前3Q決算が未確定であり、いつになればまともに決算発表が出来るのか不透明で、上場廃止リスクがあります。
半導体製造装置では、まず東京エレクトロンが注目されます。前述の日本製半導体製造装置の2017年4-6月期販売高は前年比43.8%増でした。東京エレクトロンの今上期会社予想売上高は4,800億円(前年比36.1%増)、下期会社予想は5,000億円(同11.9%増)です。日本製装置販売高の伸びを考えると、上期下期ともに(特に下期に)業績上方修正の可能性があります。
次にSCREENホールディングスです。今期会社予想は上期6.5%増収、通期1.6%増収であり、この中で半導体製造装置部門は通期で1.9%減収となる見通しです。SCREENホールディングスの製品構成は前工程のウェハ洗浄装置に偏っていますが、エッチング装置などの前工程の主力装置が増加する時には、即ち東京エレクトロンの売上高が増えるときは、洗浄装置もある程度は増加すると思われます。この会社も上方修正の可能性があり、決算が注目されます。
ディスコ(ダイサーなど)、アドバンテスト(メモリテスタ、ロジックテスタ)など後工程装置の会社にも注目できます。ディスコは1Qの好調さが2Qも続くかどうかが注目点。アドバンテストは前下期の需要増加に対して生産体制の整備が遅れたため、受注を失った部分がある模様です。これを取り返せるのかどうかがポイントです。テスタ、ダイサーともに、半導体工場の稼働率上昇は需要増加要因です。
前述のアドテックプラズマテクノロジーのような半導体製造装置向け部品メーカー(電源メーカーなど)も、半導体ブームが長期化するのであれば(私はそう考えていますが)、投資妙味があると思われます。
表5 半導体製造装置の主要製品市場シェア(2016年)
本レポートに掲載した銘柄
ルネサス エレクトロニクス(6723)、ソニー(6758)、ローム(6963)、東京エレクトロン(8035)、SCREENホールディングス(7735)、ディスコ(6146)、アドバンテスト(6857)、アドテックプラズマテクノロジー(6668)
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