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 米政権は従来、自由貿易を超党派で推進してきましたが、トランプ政権は通商政策の根本的な変化を目指しています。その基本目標は、米国にとって自由、公平、互恵的な貿易を促進し、米国の通商法を強力に施行することにあります。この線に沿って、大統領就任と同時に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱したほか、2018年に入って保護主義的な色彩の濃い通商政策を相次いで打ち出してきました。

 

【ポイント1】5本の柱からなるトランプ米大統領の『通商政策』

『通商政策』は大統領選挙における選挙対策の目玉のひとつ

 今年2月公表の米通商代表部(USTR)「通商問題の課題と年次報告」によると、トランプ大統領の『通商政策』の基本原則は、「自由、公平、互恵的な貿易を促進し、米通商法を強力に施行」することです。

 さらに、同報告は、米国の『通商政策』が5本の柱、つまり、(1)米国の安全保障を支えるものであること、(2)米国の経済を強固にするものであること、(3)より良い通商交渉を行うこと、(4)米国の通商法を強力に執行すること、(5)世界貿易機関(WTO)を改革すること、から成っていると述べています。

 

【ポイント2】中国に対して、「通商法301条」に基づく制裁措置を発動

多国間交渉よりも2国間交渉を重視

 

 上記目標を実現するための手段として、トランプ政権は、多国間交渉よりも2国間交渉に力を入れ、目標が達成できない場合には通商協定を再交渉し、修正すると主張してきました。

 これに沿って、3月22日に、知的財産権の侵害等を理由に、中国に対して「通商法301条(※)」を適用し、制裁措置をとると発表しました。その主な内容は、(1)500億ドル相当の中国製品に25%の輸入関税を賦課、(2)中国企業の対米投資を制限、(3)中国からの技術移転の強要をWTOに提訴、等です。

 このほかにも、鉄鋼の輸入品に対して25%、同じくアルミニウムに対して10%の追加関税を公表しています。

(※)「通商法301条」は、外国による不公正な貿易慣行に対し、大統領判断による関税引き上げ等の一方的制裁措置を認めるもの。

 

【今後の展開】今回の制裁の経済的影響は小さいが、報復措置の応酬に要警戒

 高率関税の対象となる500億ドルは、米国の対中輸入額の約10%に相当します。米国の輸入額に占める対中比率が約20%ですから、課税対象は全輸入額の2%程度です。従って、この措置による直接的な影響は、大きなものではありません。

 一方、中国も30億ドル相当の米国製品に対して最大25%の追加関税の賦課を発表しました。今後、懸念されるのは、報復措置の応酬、自由貿易体制の後退に進むことです。その可能性は現時点では低いと考えられますが、警戒は怠れないでしょう。