2大巨頭の国家元首が長期政権化

 3月18日のロシア大統領選挙でウラジーミル・プーチン大統領が76%超の得票率で圧勝、再選しました。2000年の初当選当時の得票率は53%でした。

 今回の任期は2024年までの6年間で、2000年の初当選から、間の首相就任期間も合わせると、ほぼ四半世紀にわたって、ロシアの指導者として君臨することになります。ただし、ロシア憲法は連続3選を禁じており、プーチン大統領にとっては2024年までの6年が最後の任期の予定です。

 中国でも同じような長期政権化の動きがありました。3月17日の全国人民代表大会(全人代)の全体会議で今後5年の国家主席を選出し、習近平国家主席は全会一致で再選されました。

 さらに、全人代は11日に採択した憲法改正で、国家主席と副主席について「2期10年」までとしていた任期上限を撤廃。この結果、習近平主席は2023年以降も続投し、習政権が長期化する可能性が出てきました。

 このように両国指導者は「皇帝」のような強さにこだわり、独裁的な国家主義に動く強権国家となりつつあるようです。

 強権国家を確立させようとする一方で、両国ともに喫緊の課題があります。それは経済問題です。エネルギー資源に依存するロシア経済は、欧米の経済制裁の影響を受け、経済は低迷(2017年GDP<国民総生産>は1%台)。これまでの18年間にわたるプーチン体制の停滞感は強く、国内に不満もくすぶっています。

 また中国は、過剰債務が重荷となっており、統制をしながら暴発させず、それなりの成長率を維持しながら過剰債務を解消しなければならないという命題を背負っています。

 両国とも、これらの経済問題を早期に解決しないと社会不安が広がり、市民の不満のマグマが噴出し、国内治安が不安定になって政権基盤を揺るがしかねない状況です。

 

保護主義へひた走る米国、EU・日本の「内憂外患」

 一方、これまで民主主義、自由経済社会の旗振り役として、これら国家主義的な中国、ロシアを国際社会で牽制する役割を担っていた米国は、トランプ氏が米国大統領に就任し「米国第一主義」を唱え始めたことから、国際社会の秩序が揺らぎ始めてきました。

 米国が内向きになった国際社会の空白をつき、中国やロシアは地域や経済分野の領域の勢力を拡大しようと動いています。両国は強固な権力を追い風に、自国の経済問題を解決するため、民主主義や自由経済社会を脅かすような動きに出てくる可能性もあります。そうなれば、投資マネーは萎縮し、動きが鈍くなるかもしれません。

 米国がダメなら欧州があると言いたいところですが、2016年のBrexit(英国のEU<欧州連合>離脱)の動き以来、欧州各国の政局も不安定な状態となっています。

 テリーザ・メイ首相率いる英国は内政が不安定であり、EUとの交渉も難航しそうな気配です。英国経済も徐々に頭打ち感が出始めています。

 そしてEUを主導してきたアンゲラ・メルケル首相率いるドイツは、昨年2017年9月の選挙に勝ったものの、他党との連立交渉が難航。5カ月の政治空白期間を経てようやく、大連立政権の発足となりました。

 しかし、これも「消去法の大連立」「敗者同士の連立」と言われるように、メルケル首相の求心力は低下。内政の混乱が今後も続けばEU域内でのドイツの発言力が低下する可能性があります。

 さらに3月4日に総選挙が行われたイタリアでは、反エリートの政党「五つ星運動」と反EU・反移民の政党「同盟」が躍進し、この2党だけでほぼ5割の票を得ました。ただ、過半数とはなかったため、連立は難航しそうであり、政局は混迷を極めそうな状況となっています。

 そして、安倍一強体制を背景に、日米欧の中で最も政治が安定していると日本に投資してきた海外投資家も、森友学園の文書改ざん問題から、アベノミクス継続に対する不安を抱き始めているようです。

 黒田東彦日銀総裁は再任されたものの、異次元金融緩和政策の出口の時期に言及し始めたことも加わり、これまでの日銀の「金融緩和継続 → 円安・株高」の構図が成り立たなくなると感じ始めている可能性もあります。

 こういった日本の政局の動揺は今年1月からの円高、外人投資家の日本株売りの背景の1つになっているかもしれません(3月第1週までに海外勢は9週連続で日本株を売り越し、累計売越額は7.8兆円に)。これが政権を揺るがす事態に発展すれば、円高、株安がさらに進行する可能性もあり、注意が必要です。

 

「米中露vs日欧」時代がやってくるか?

 いま、中露の強権支配に対抗するはずの日米欧の政権は、解説したように求心力が低下し始めたことで、数年前と比べて、明らかに国際政治の構図が変わっています。

 このことは相場シナリオを想定する場合、無視できません。今後、それぞれの国が内政問題に翻ろうされ、日米欧が一致団結をみず、強権国家に対抗しきれなくなる世界がくるかもしれないからです。麻生太郎財務大臣のG20(20か国・地域首脳会合)欠席もその兆候なのかもしれません。トランプ政権も「米国第一主義」を取っているため、場合によっては米中露vs日欧という構図も想定する必要があるかもしれません。

 為替を動かす要因として、経済要因と政治要因があります。経済要因の中には、成長率や物価、失業率など経済実態を表す指標や、金融政策、財政政策などがあります。しかし、政治要因は時として、経済要因を一蹴する場合があります。現在は米国の金融政策によって相場が左右されていますが、政治要因の色彩が強い保護主義政策は、この金融政策の要因を吹き飛ばすかもしれません。

 また、国際秩序の枠組みが大きく変わってくると、あらゆる経済要因を一蹴するほどのインパクトを与えるかもしれません。2018年に入って、ドイツの連立難航、イタリア総選挙の反EU・反移民政党の躍進、米国の保護主義表明、ロシアのプーチン再選、中国の習近平再選(任期なし)、朝鮮半島の南北首脳会談、米朝首脳会談、安倍政権の動揺…と、わずか3カ月弱で政治イベントが次々と起こっています。今年は特に政治変動には留意する必要がありそうです。