一家に一冊、お金の哲学!

 このたび、「お金で損しないシンプルな真実」という小著を朝日新聞出版社から上梓した。本稿では、この本の内容を紹介したい。

 

 

 冒頭に「小著」と書いたが、自著に対する慣例的な謙遜の意味だけでなく、本文が200ページ弱の文字通り小さな本だ。

 著者として目指したのは、「一家に一冊! 子供も大人も読めるお金の哲学」をコンパクトな本にまとめることだった。

 子供が読めるかどうかは個々の子供に大きく依存するが(自分の息子で小さな実験をやってみたので、結果を後述する)、早ければ中学生、遅くとも高校生の知識があれば大体の意味を取ることができるだろうし、新社会人にはぜひ隅々まで理解して、お金を気持ち良く扱うことができる人生を送って欲しいと思っている。

 小著の大まかな構成は以下の通りだ。

  • はじめに
  • 【第一章】人生とお金で大事なことをざっくりおさえよう
  • 【第二章】お金は、だまされずになるべく増やそう
  • 【第三章】未来のお金とどうつきあうか
  • おわりに

 第一章では、お金に対する基本的な考え方を説いた。

 お金を「自由を拡大する手段」と位置づけて、どのように働いて「稼ぐ」のかという考え方や、キャリア・プランニングの基礎、セカンドキャリア、など、まず、お金を稼ぐところから話を始めている。

 加えて、「借金」(「良い借金」と「悪い借金」がある)、「保険」、「お金の相談相手」、「家を買うか否か」、「老後のお金の扱い方」などを取りあげた。

 第一章では、細かな運用の話は出て来ないが、新社会人には、まずこのパートを読んで完全に理解してもらうと、しばしば陥りがちなツマラナイ損を避けることができると思う。

 親御さんは、社会人になる息子さん・娘さんに拙著を読ませると、新入社員で独身なのに生命保険に加入したり、カードでリボルビング払いを利用したりするような、愚かな行動を回避できるようになると申し上げる。加えて、親御さん自身は、退職金の運用を銀行に相談に行くことを踏みとどまり、老後の資金計画について自分で考えられて、安心できるようになる、と期待される。

 第二章は、運用の知識をコンパクトにまとめた。

 筆者が近年力を入れている、運用の「俗説」批判をまとめた後に、誰もがお金の運用を自分で考えることができるし、その方が安心であることを心の底から納得してもらうように努力した。

 運用の方法は、基本的に誰もが同じ方法でいいし(ちがいは、運用額とリスク資産への投資額だけでほぼいい)、シンプルな方法の方が間違えにくいので、「これだけ覚えておくといい」という運用知識を凝縮して書いた。心掛け的な話だけではなく、iDeCoや一般NISA、つみたてNISAなどの利用法についても書いた。

 第三章は、ビットコインなどで良くも悪くも注目される仮想通貨に対する見解も含めて、お金の未来について論じてみた。

 因みに、仮想通貨については、「お金の性能」として現行の通貨や金などよりも本質的に優れており、将来は、支払い・価値尺度・価値貯蔵などの手段として有望だと考えている。筆者は、平均的な論者よりも、「仮想通貨に対して、ややポジティブ」な意見を持っていると言っていいだろう。

 お金と金融ビジネスについてある程度の確度以上に起こりそうな近未来の予想と、通貨や株式といった根本的な仕組みが変わるかも知れない遠い未来に何が大切なのかというテーマで、大きく二つの問題を考えた。

 本稿は「トウシル」の読者向けなので、惜しみなく結論をご紹介すると、近未来にあっては、(1)現金使用の縮小、(2)格差の拡大、(3)銀行の衰退、を予想した。

 また、仮想通貨が現在のお金に取って代わって決済手段になるような遠い未来を考えるとしても、(1)稼いで、(2)貯めて、(3)できれば増やして、(4)資産を取り崩す、個人にとって必要な計画と行動に本質的な変化はなく、本書で述べた主な原則(7つほど挙げた)に変化はないはずだ、と論じてみた。

息子を使った小実験

 さて、本書を企画したさいに、編集者のリクエストは、「お金についての考え方とノウハウをコンパクトに凝縮したやさしい本を書いて下さい。20年後にも古くならない、子どもや新社会人に贈りたくなるような本です!」というものだった。加えて、筆者は、「おわりに」に、「自分の子どもも含めて、今の子どもや若者たちに、お金について本質的な内容を伝えておきたいと思ったのが、本書の執筆動機です」と書いている。

 そこで、このさい有言実行してみようというわけで、自分の中学校1年生の息子に拙著を読ませて、質問・感想を話させて、さらに理解度をチェックしてみることを思い立った。

 息子に、「後で、質問と感想を聞くから、しっかり読め」と指示して拙著を渡した。だいたい80分くらいで読み終わった。

 内容に関しては、そもそも「運用の俗説」を知らないので、俗説を批判した箇所がわかりにくかったり、FP(ファイナンシャル・プランナー)という職業を知らなかったりする点で、理解が難しい箇所があったと言う(FPは、たぶん警戒しなければならない怪しい職業だとは感じたらしいが)。これらの点については、著者である父親が、本の製造物責任を取って説明した。

 一方、貯蓄率を計算する公式や(中学入試の受験勉強で分数の計算はできるようになっている)、手数料の高いファンドがダメであること、借金には「良い借金」と「悪い借金」があることなどは、おおよそ理解していた。

 その他、あれこれ質問してみたが、7割以上は理解してくれたのではないか、という印象だった。

 著者としての理想かつ希望は、世間の親御さんが拙著をまず読んでくれて、次に拙著を息子さん・娘さんに渡して、親子で「ここに書いてあることは、どういうことか? 本当に正しいのだろうか?」と論じあってもらうことだ。小さな本の割には、豊富な題材があるので、お役に立てると思う。

 最後に、「トウシル」読者への追加サービスとして、拙著の冒頭で述べた、お金に関する3つの結論をご紹介しよう。

  1. お金は人生の自由を拡大する手段だが、あくまでも手段に過ぎない。
  2. お金は、たんたんと合理的に扱うといい。
  3. お金の運用は、他人(プロを含む)に任せるよりも自分で行う方が簡単であり、安心でもある。

 いかがだろうか?