2月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 世界同時株安の流れに逆らえず、日本の新興株市場も2月は月間で大幅マイナスに。2月の月間騰落率は、震源地となった米国のNYダウが▲4.28%(月間でマイナスは11カ月ぶり)。日本の主要株価指数でいえば、日経平均株価が▲4.45%、東証マザーズ指数が▲5.65%(月間でマイナスは5カ月ぶり)、日経ジャスダック平均が▲2.12%(月間でマイナスは10カ月ぶり)でした。

 日経平均株価が1,071円下げた(▲4.72%)2月6日に、東証マザーズ指数は▲9.16%、日経ジャスダック平均は▲7.15%。新興株市場のほうが、東証1部より大きな下落率となりました。このとき日本株が下落したのは外国人売りが犯人で、とくに外国人による先物売りが目立っていました。先物売りで下げたはずなのに、なぜ先物が発達していない(ジャスダックに関しては先物がない)新興株のほうが大きく下げたのか?

 これは、「まだまだ下げるのではないか?」という不安感が、今回は非常に強かったためではないでしょうか。適温相場(低ボラティリティを維持しながら指数が高値を更新し続ける相場)が続いた米国株市場の豹変に面食らい、その不安が大きかった・・・売りが殺到したというよりは、“買いが極端に減った”といえます。買い(指値)が減ることで流動性がさらに低下し、急落の初動時に下落が大きくなったのではないかと推測されます。

 また、タイミング悪く、急落直後に新興株の決算発表が相次ぎました。具体的には2月9日~14日が決算発表のピークで、この3営業日に東証マザーズだけで118社の決算発表が集中(マザーズ上場株の約半数)。手前で決算発表後に急落する銘柄も多かったことで、決算発表をまたぎたくない(=決算発表前に売っておこう)という心理がかなり働いたようでした。実際、マザーズ指数はこの3営業日は連日で下落。そして、決算発表シーズンを通過した2月15日以降に、強いリバウンドに転じました(決算発表済みの銘柄の買い直しが進んだのだと見られます)。

 

2月の売買代金ランキング(人気株)

 ダントツの人気集中銘柄は、2月もジャスダックのラクオリア創薬。前月に続き、売買代金25日移動平均が100億円を超えました。ただ、1月は月間で17%上昇しましたが、2月は21%の下落。1月上昇した分の打ち返しとなったわけですが・・・新興株の場合は通常、上昇時に出来高を膨らませた銘柄は、急落時に出来高が縮小する銘柄がほとんどです。

 なぜ、上昇した1月以上に、下落した2月に売買代金が増加したのか?それは、売りが多い一方で、押し目買いも凄まじく入る銘柄だからです。上昇トレンドが崩れたことで売りたい投資家(投機家?)が殺到した一方、逆張りで安くなったところを買いたい投資家も多い株が
ラクオリア。実際、信用買い残は2月第3週時点で386.5万株と、今年最大に膨らんでいます。

 ただ、前述のように、ほとんどの場合は下落時に出来高が減少します(高値圏で買ったものの、ハシゴを外され、塩漬け株になる)。例えば売買代金ランキングに入っている銘柄でいえば、レカム(売買代金25日移動平均は1月80.2億円→2月36.7億円)やナノキャリア(同1月40.1億円→2月25.0億円)など。一方で、ラクオリアのように逆張りの買いが多かったのがジーエヌアイ(同1月41.6億円→2月46.6億円)でした。

市場 コード
銘柄名

2月末
終値

時価総額
(億円)
売買代金
25日
移動
平均値
(億円)
月間
騰落率
(%)
ジャスダック 4579
ラクオリア
2,170 441 141.4 -21.3
東証マザーズ 4565
そーせい
9,670 1843 52.5 -17.9
ジャスダック 6324
ハーモニック
6,560 6318 49.7 -12.6
ジャスダック 6467
ニチダイ
2,669 242 49.5 85.7
ジャスダック 8927
明豊エンター
758 187 48.6 22.7
東証マザーズ 2160
ジーエヌアイ
615 829 46.6 -14.3
ジャスダック 3791
IGポート
4,135 209 43.2 75.6
東証マザーズ 3267
フィルカンパニ
9,290 515 42.9 8.3
東証マザーズ 3993
PKSHA
15,170 1943 38.7 -0.8
ジャスダック 3323
レカム
330 202 36.7 -10.6
東証マザーズ 4594
ブライトパス
840 351 32.4 3.4
東証マザーズ 3652
DMP
6,790 188 32.4 -25.3
ジャスダック 3540
Ciメディカル
11,360 1136 30.3 27.2
ジャスダック 3758
アエリア
1,696 331 29.8 -17.0
東証マザーズ 4592
サンバイオ
3,890 1770 29.1 -3.4
ジャスダック 6629
テクノHR
941 198 27.9 27.3
東証マザーズ 2121
ミクシィ
4,335 3391 27.5 -10.0
東証マザーズ 7779
サイバダイン
1,603 2202 25.7 -15.1
ジャスダック 6864
NF回路
3,915 248 25.4 13.2
東証マザーズ 4571
ナノキャリア
1,053 455 25.0 2.2

売買代金ランキング(5銘柄)

1 ラクオリア創薬(4579・ジャスダック)

 決算発表に対するリアクションがあまりに悪く、他の決算発表予定銘柄にも悪影響を及ぼす(決算発表前に売っておこうという流れを強める)きっかけにもなりました。9日に発表した前17年12月期は、営業損益が1.5億円の赤字。また、今18年12月期予想は営業損益が6.98億円の赤字と、赤字拡大見通しでした。これを受け、発表翌日の13日に23%安、14日も21.5%安と大暴落。
一般的には、創薬ベンチャーの赤字拡大というのは、パイプラインが進展している場合がほとんどです。臨床試験が進み、フェーズⅢのような人体で試験する段階に入ると研究開発費がかさむからです。ただ、そうした内面よりは、短期的な値動きだけで同社株を買っていた投資家が多いのでしょう。バイオ株は本来、長期スパンの投資対象にすべきです。

2 IGポート(3791・ジャスダック)

 長期的な業容拡大への期待から、株価は大変貌を遂げました。きっかけは、1月末に発表した同社のグループ会社と米ネットフリックス日本法人とのアニメ作品における包括的業務提携。これを受けて、2月1日~5日まで3営業日連続でストップ高に。今後、アニメ作品をネットフリックス上で全世界に190カ国に配信するようです。どんな作品を制作するのか?その詳細が出るまでは、期待含みの株価推移になりそうです。

3 フィルカンパニー(3267・東証マザーズ)

 1月に月間で2.1倍になった同社株ですが、マザーズ市場全体が崩れた2月も月間で上昇(相当強い株ですね)。2月に好材料視されたのは、7日に発表した立会外分売(※)の実施でした。その実施理由を、「東証1部への市場変更申請を行う準備を具体的に進めている」と同社側が明記。東証1部への昇格期待が株価に織り込まれる形で、上場来の高値圏を維持しています。

※立会外分売・・・東証の取引時間外に、大株主が保有する株の売出を行うことを指します。個人投資家に小口で幅広く株を保有してもらい、株主数を増やすことが企業側の主な目的です。

4 歯愛メディカル(3540・ジャスダック)

 昨年12月に上場したばかりの直近IPO株。22日に上場来高値を更新したことで、新値ブレイクを狙った買い注文など交えながら大きく上昇しました。
1月末に、国内大手証券が投資判断「2」、目標株価9,960円で新規カバレッジするなど、直近IPO株ながら担当アナリストが付いている銘柄。時価総額も1,000億円を超えたばかりで、「1,000億円以上の中小型株であれば買える」といった制限を持つ機関投資家の買い対象にも入りそうです。

5 アエリア(3758・ジャスダック)

 決算発表を挟んだドタバタ劇で乱高下、ここで売買代金が急増したことでランクインしました。14日に予定していた決算発表が出ず、翌15日に朝から売り殺到(11%安)。会社側が決算発表を遅延する理由などを開示しなかったことで、投資家を困惑させました。その決算発表も、予定より1日遅れとなる15日に提出。今18年12月期の営業利益予想が40億円(前期比49%増)と伸び率が大きかったことが好感されたうえ、前日の急落の反動もあって翌16日は前日比20%高になりました。このドタバタ劇の後に残ったのは、同社のIRの姿勢に対する不信感だけでしょうか…。
 

2月の株価値上がり率ランキング

 2月の値上がり率上位20は、マザーズ銘柄が7、ジャスダック銘柄が13。急騰株はジャスダックのほうが多い傾向は毎度のこと。とりわけ、2月の急激な地合い悪化のなか、相対的に小さい下落率で踏ん張ったのがジャスダックでした。個別でもジャスダック銘柄の健闘が目立ったのは当然かもしれません。

 ただこれといった材料が見当たらないなか、SNS上での買い煽りを理由にして急騰した株も含まれます(いつものことですが)。また、わかりやすい材料が存在する銘柄でも、この程度の材料でここまで上がるのか?という銘柄も多いように思われます。株価なので“上がれば正義”とも言われそうですが、その上がった理由が怪しい銘柄がかなり多くなっているのが気掛かりな面です・・・(何を買っても上手く利益を稼げる地合いでは無くなっている証拠?)。

市場 コード
銘柄名
月間
騰落率
(%)
2月末終値 前月末
終値
時価総額
(億円)
ジャスダック 3344
ワンダーCO.
89.5 1,760 929 98
ジャスダック 6467
ニチダイ
85.7 2,669 1,437 242
ジャスダック 7781
平 山
84.6 3,330 1,804 58
ジャスダック 3791
IGポート
75.6 4,135 2,355 209
ジャスダック 3083
シーズメン
64.9 874 530 9
ジャスダック 2436
共同PR
54.3 2,684 1,740 34
ジャスダック 9446
サカイHD
52.8 1,079 706 118
東証マザーズ 3929
ソーシャルワイヤ
48.9 2,137 1,435 127
東証マザーズ 3985
テモナ
48.4 8,890 5,990 117
ジャスダック 3356
テリロジー
47.1 559 380 88
ジャスダック 3150
グリムス
46.4 2,641 1,804 154
ジャスダック 7776
セルシード
43.7 733 510 84
東証マザーズ 2385
総医研
42.7 805 564 211
東証マザーズ 7813
プラッツ
42.6 5,390 3,780 50
ジャスダック 4664
RSC
41.2 1,200 850 35
ジャスダック 3042
セキュアヴェイ
40.4 1,092 778 35
東証マザーズ 6095
メドピア
39.3 1,432 1,028 128
ジャスダック 4972
綜研化学
39.0 3,320 2,389 276
東証マザーズ 4824
メディアシーク
38.7 907 654 89
東証マザーズ 2351
ASJ
38.4 1,871 1,352 149


値上がり率ランキング(5銘柄)

1 ワンダーコーポレーション(3344・ジャスダック)

昨年マーケットを席巻したRIZAPグループ(以下:RIZAP)。RIZAPが買収した赤字企業が、業績が改善するより先に株価だけ急騰する事例が多かったですよね。RIZAPの傘下企業を“チームRIZAP”なんて呼ぶ市場関係者もいますが、2018年のチームRIZAP加入第1号がワンダーコーポレーションに。
 前期まで3期連続で最終赤字の同社株を、RIZAPが1株980円でTOBすると発表。「住関連・ライフスタイル事業」の中核企業として迎えるようで、この発表を受け、期待感から株価は急騰。RIZAP神話(株価上昇で先にコミットする)はまだまだ健在!?

2 シーズメン(3083・ジャスダック)

 23日にカイカ(ジャスダック上場)の子会社で、仮想通貨関連事業を手掛けるCCCTと資本業務提携すると発表。ブロックチェーンや仮想通貨等のノウハウを活用した新しいサービスの提供などを行うそうです。この発表を手掛かりに株価は急騰、23日終値524円の株価は、3月5日まで6日連続ストップ高(終値1,624円)。
 14年2月期から毎期最終赤字で、今期も赤字予想のシーズメン。カジュアル衣料品の小売を手掛ける同社が、この提携を機に業績が立て直せるのかは不明ですが、株価はバラ色のシナリオを先取る格好で急騰しました。この発表直前まで、25日移動平均出来高が4,000株程度だった同社。この超低流動性株に、大量の短期資金が買いで入ってきたことによる需給ギャップで起きた値上がりとしか表現しようがありません。

3 共同PR(2436・ジャスダック)

 ワンダーコーポレーションやシーズメンとは異なり、業績がしっかりしている企業。とはいえ、期待膨らむ材料に、株価はかなり前のめりに反応しました。
SNSなどで影響力のある人物のことを“インフルエンサー”と言います。このインフルエンサーを企業が活用することをインフルエンサーマーケティングと言いますが、ユーチューバ―などのクリエイターを抱えるVAZとの資本業務提携を15日に発表。若年層を対象に、インフルエンサーを活用した新しいマーケティングを提供する・・・この目新しい話題に短期資金が群がりました。

4 テモナ(3985・東証マザーズ)

 7日に発表した第1四半期の好決算、さらには3月末の株主を対象にした1対2の株式分割が好感されて大幅高に。クラウド型通販システム「たまごリピート」が好調で、第1四半期の営業利益は前年同期の2倍強(1.15億円)に!
第1四半期にして、営業利益の通期計画に対する進ちょく率は4割強。上方修正する確率はかなり高いといえそうです。なお、この上昇局面で信用買い残が増えておらず、買い手に機関投資家も含まれていると推測できます。

5 グリムス(3150・ジャスダック)

 23日に今18年3月期の業績予想を上方修正。主力のエネルギーコストソリューション事業の増収効果などを理由に、営業利益は従来予想の8.3億円から10億円に増額。そもそも知名度が低かったこともあり、好業績の小型株として2月に一気に認知されたといえます。上がった理由が完全に業績ですので、高値圏から値崩れしにくい点も特徴でしょうか。
 

3月に注目したい新興株の動き

 2月の急落で負った傷は、修復に時間がかかるようです。日経平均株価は3月5日、2月の急落後安値を割れました。この日に東証マザーズ指数も▲5%と大崩れ。3月の新興株市場も…この日経平均株価に一連托生といった展開は避けられないでしょう。

 これは前月の本コラムで書きましたが、2月6日の急落以降、個人投資家が逆張りで買い向かった最大の銘柄が日経平均レバレッジETF(1570)だったため。この銘柄が上がらないことには(=日経平均が上がらないことには)、個人投資家の懐具合が改善しない状態にあります。新興株市場のメインプレーヤーは個人投資家ですので、その個人投資家のマインドを明るくするには「日経平均が上がること」が欠かせない状態になっています。

 そもそも、日経平均に採用される東証1部の銘柄も、マザーズやジャスダックの新興株も同じ“日本株”です。であるとすれば、日経平均が上がるならマザーズも上がる、連動するのは当然と思われるかもしれません。実際、日経平均とマザーズは連動するほうが多いのですが、とはいえ、常に連動するわけではありません。だいたい“3日に1回”は逆行します。逆行とは、「日経平均が上がったのにマザーズが下がった」「日経平均が下がったのにマザーズが上がった」といった現象です。

 例えば、2017年の年間営業日数は247ありました。そのうち、日経平均とマザーズ指数の前日比の騰落方向が一致したのは162営業日、不一致が85営業日でした。昨年の逆行確率は「34%」だったということです。前述の通り、3日に1回は逆行していました。今年も急落直前まで(1月4日~2月5日)の営業日数22のうち、方向不一致が6営業日ありましたので逆行確率は「27%」。ただ、急落した2月6日以降(2月6日~3月6日)は、営業日数20のうち方向不一致はわずか3営業日、逆行確率は「15%」に低下しています。

日経平均が上昇すれば、日経平均レバレッジETFの評価損益が改善する・・・この形にならなければ、マザーズなど新興株市場の根本的な修復は起きにくいように思います。ただ、これは全体感の話。「株価は安いときに買うべき」であって、そういう目線でいえば、マザーズなど新興株のファンダメンタルズに影響の無い話で下げている今はチャンスともいえます。実際、2月第1週の急落局面で、プロの機関投資家も動いていたことが判明しています。

 急落後と思われるタイミングでは、著名な運用会社による5%ルール報告が出ていました。例えば、ジャスダックのやまみ(2820)をレオス・キャピタルワークスが大量保有報告しましたし、マザーズのヘリオス(4593)ピーバン(3559)の大量保有、アドベンチャー(6030)SHIFT(3697)の買い増しをJPモルガン・アセット・マネジメントが報告していました。「日経平均を買っておけば儲かる」といったインデックス天国が終わったとしても、業績などで新興株をピックアップする従来型のスタイルでは十分戦えるはず。バーゲンハンティングすべきは、日経平均や日経平均レバレッジETFではなく個別株…2018年は、そうした本来あるべき姿に戻るのではないでしょうか。