過去4カ月の推移と今回の予想値

 

 

世界同時株安のきっかけをつくった米雇用統計

 2月に勃発した世界株価の大暴落。その引き金を引いたのは2月5日に発表された1月の米雇用統計だったといってもよいでしょう。

 1月の米雇用統計は、失業率は4.1%で横ばいながら、NFP(非農業部門雇用者数)は+20万人と市場予想を上回る結果でした。しかしそれ以上に目を引いたのは、平均労働賃金が予想を上回る前月比0.3%上昇、前年比も2.9%の伸びとなって、さらに過去分も上方修正されたことでした。

 この結果を知ったカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は、「賃金がついに上がり始めるサインが見えた」と感嘆するとともに、「この傾向が続くならば、金利にも影響が出てくるだろう」と発言。ハト派(利上げ慎重派)で知られるカシュカリ氏が金利上昇の可能性について言及したことは重要で、これに反応した米長期金利が急上昇することになったのです。

 ところが、緩やかな金利上昇が続くだろうと高をくくっていたNY株式市場は大パニック。翌月曜日(5日)のダウ平均は1,500ドル以上の大暴落を記録しました。世界の株式市場が同時株安に見舞われるなかで、ドルが売られると同時に円が買われて、ドル/円は2016年11月以来となる105円台前半まで大きく円高が進みました。(3月5日時点)。

パウエルFRB議長は何を考える?

 パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、27日の議会証言で米国の経済成長に自信を示し、FRBが段階的な利上げを実施する方針を維持することを表明しました。ところがその2日後の議会証言では、「賃金上昇を示す強い証拠はまだみられない」と述べ、はやる相場に釘をさしています。たしかに、平均労働賃金の推移を見るかぎり、明確な上昇傾向は見られません。(グラフ1、2)

 

 FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーのなかでも、今年の利上げに関しては意見が分かれていて、3回の主張もあれば、それでは多すぎるとの意見も出ています。しかしながら、過去最大の下げ幅を記録したNY株式市場に対しては、「一過性である」との見解で一致しています。

 それはつまり、平均労働賃金にはっきりした上昇傾向を確認できるならば、株式市場の一時的な変動に必要以上に配慮することなく、FRBは着々と利上げを進めるこということです。したがって、今回2月の雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)や失業率もそうですが、それ以上に平均労働賃金が大注目となるわけです。

 

 

2月の雇用統計の予想は?

 市場予想では、NFP(非農業部門雇用者数)が+20.5万人、失業率4.0%。しかし平均労働賃金は、前月比+0.2%に低下の予想です。(グラフ3)

 平均労働賃金が予想以上に強い結果となれば、年4回の利上げが可能性として再浮上してくるでしょう。少なくともマーケットはその前提で動き始めるはずです。

 

 

ドル/円の上値は限定的か

 ドル/円については、米金利上昇イコールドル高という、これまでの公式はもう通用しなくなりました。金利急上昇による株価下落リスクという新たなファクターが加わったからです。右目で株式市場を見ながら左目で米金利を追うという芸当をこなしつつ、ドル/円をトレードする必要があるでしょう。