大きく下げると慌ててしまうが、なんとなく売るとまずい
今年の2月、株価が大きく下落しました。日経平均株価(終値)は半月で約13%のダウン。個人投資家にとっても、大きなインパクトがありました。
しかし、こういうタイミングで慌てて売る人は「なんとなく」売ってしまっていることがほとんどです。そしてこれからも「なんとなく売る」を繰り返すことになるでしょう。それは「なんとなく」買っているからでもありますが、投資家としてのステップアップが必要な頃合いです。
特に、昨年春以降に口座開設をして株式投資を始めた人にとって、ここまでマイナスになる局面はほとんどない環境だったかもしれません。しかし、市場は本来このように一方向に動くものではありません。むしろ、上がったり下がったりする市場とつきあっていくことこそが投資の本質かもしれません。そこで今回は「下がったとき、さてどうするか」という話を投資初心者向けにしてみたいと思います。
全部売る、から卒業すると個人投資家はぐっと楽になる
個人投資家がまず学ばなければいけないのは「売り方」ですが、「いつ売るかタイミングを見計らう」を学ぶよりももっと重要で役に立つ売り方の発想があります。
それは「一部売る」という発想です。おそらく売るタイミングを見計らおうとする人は「全部売る」の考え方でタイミングを考えています。そしてまたいいタイミングを見計らっては「全部買う」を考えるのでしょう。
実はそれこそが投資の選択肢を狭めています。資金をすべて売り払うということは「得られた運用益の20%を税金として差し出す(NISAを除く)」ことと、「もう一度今よりも安いタイミングで投資をリスタートするタイミングを考える」ことの2つを必要とするからです。
あなたの人生において、今日どうしても売る必要がないのに、一度売ってしまうと、投資に関するリソースを相当量必要とすることになります。
個別株を保有している場合、単位株の問題がありますから、「ちょっと売る」をしにくいのが悩みですが、投資信託やETF(上場投資信託)を使えば、「100万円分保有しているけれど、20万円分相当を手放そう」というような部分的な売却が簡単に、好きな割合で行えます。投資信託やETFは投資金額が小さいからです。
個別銘柄に集中しすぎると、人生のリソースを投資に多く割かざるをえなくなりますが、それは仕事の時間や休息の時間、プライベートの時間を削って投資に捧げるということです。私は投資は国民の誰もが「現実的」にできるものとするべきだと思いますが、個別株に夢中になって相場が一度上下動したあたりから、投資信託やETFを使った、国際分散投資にシフトしてみることをおすすめします。
そのほうが、驚くほど投資の負担が軽くなり、一方でリスクも抑えられ、手間ひまが軽減する割に期待リターンは維持できるということになるはずです。
リスクを調整するバランス感覚で「ちょっと売る」のが基本
さて、投資信託やETFをベースに資産運用を行う場合、部分的な売買でリスク調整が容易になるメリットがあると説明しました。その基本的なやり方を考えていきます。「ちょっと売る」といってもフィーリングで売るのではなく、何らかのルールが必要です。このときに「株価が一定割合下がったら」とか「目標株価に到達したら」と考えるのが普通の投資の発想法ですが、ちょっと売るのであれば、これを理由にする必要はまったくありません。
考えるのは「資産全体に占める投資割合」です。私たちは無制限に投資資金を持つのではなく「財産の半分くらい」とか「財産の3分の1くらい」というイメージを持っているはずです。しかし、株価が値上がりしているときは、当初抱いていたイメージから
乖離していることになります。このズレを修正するだけで、リスクコントロールと上手な「ちょっと売り」ができます。
たとえば、500万円の資金があって、200万円までなら投資してもいいな(つまり資産の40%くらい投資をしてもいい)、と考えて投資デビューした人があったとします。そうしたら、投資部分は35%の値上がりを獲得後、プラス30%まで下がってしまったとします。このとき資産合計の560万円(投資した分の200万円が30%値上がりした=260万円)の40%相当は224万円になります。それなのに投資資金を260万円も保有しているわけですから、これは最初考えていた投資割合からずいぶん増えていることになります(投資割合は46%を超えている)。
そこで、560万円の40%だけ投資する割合に戻す、と考えるのが「ちょっと売る」のやり方です。投資資金260万円のうち36万円相当、つまり1割ちょっとだけを部分的に売却すれば、元から考えていた投資割合に戻ることになり、かつ部分的には利益確定に成功したことになります。また、この後値上がりした場合は、224万円分の投資資金がまた含み益をもたらしてくれますし、もっと値下がりしたときは336万円ある預貯金から再投資を考えることができます。なお、個別株で投資をしている人も「預貯金:リスク資産」の比率で考えるという発想では同じになります。
ずるずる「高い投資割合」を是認しないように注意しよう
ちょっと売る、は投資初心者が合理的に行う利益確定術として悪くない戦略なのですが、なかなか実行できません。ひとつは単位株などのハードルに邪魔されることですが、もうひとつの理由は「現状を是認」してしまうことです。
当初想定していた投資割合へ復帰するよう提案すると、多くの人が「いや、値上がりしているのですから、このままでいいじゃないですか」と現状を是認してしまったり、「投資割合はやっぱり40%から50%に見直します」と当初の投資ウエートを変更してしまうことがしばしばあります。
もちろん、それもひとつの投資判断なのですが、「もうちょっと値上がりするだろうから、もっと突っ張ったほうがいいだろう」というような欲望を理由にした現状是認は、ほとんどの場合、高いリスクの黙認に他なりません。結果としてさらに市場が下がると「あそこで売っておけば良かった」と後悔することになりますし「やっぱり投資比率は40%も持ちたくないよね」と当初のルールに戻ってくることになります。
人はうまくいっている時ほど、自分の判断を過信します。うまくいっているがゆえに自己評価が高くなってしまうわけですが、インデックスが上昇している時期の運用益獲得はほとんど他動的なものですし、個別株がそれを上回ったとしても最終的にその原動力を生み出したのは当該投資企業です。
投資に慣れていない人ほど、市場が動いているうちに自信過剰(オーバーコンフィデンス)の洗礼を受けることになります。最初は「当初想定していた投資割合に戻す」というシンプルなルールで何度か「ちょっと売る」を試してみることをオススメします。
売る理由は株価ではなく自分の内に求めよう
元々想定していた投資割合、資産配分に戻すというのは、投資理論的にはリバランスと呼ばれます。あまり難しい言葉を用いることは好きではないのですが、これは理論がどうこういうほど難しい話ではありません。
よく考えてみると「判断軸を外(マーケット)ではなく、自分の内(リスク許容度)に求める」という判断をしているだけにすぎないからです。株価に理由を求める(株価が一定水準に達したとか、一定水準まで下がったからとか)ことよりも、自分がリスクを負いすぎているのではないか、と自問自答し、自身のリスク許容度に売買理由を求めるほうが簡単ですし、個人としては有意義であるはずです。
実は、こういう売買をしようとすると、「そもそも自分はどれくらい投資をしてもよいと考えていたのか」ということを考え直すことにもなります。適当に投資金額を決めて個別株をいくつかなんとなく買うのではなく、資産全体に占める投資割合をしっかりコントロールできるようになってくれば、「なんとなく投資家」から一歩ステップアップしたことになるはずです。
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