2月に入ってから、米国株式は大きく揺れています。前日比で1,000ドル下がる日もあれば、上昇して終わっても日中の変動幅が1,000ドルを超えるなど、非常に不安定な動きとなっています。

 昨年2017年11月末には2万4,000ドル台だったNYダウは、今年の初めに2万5,000ドル台に乗せ、1月半ばには2万6,000ドルに上昇しました。そして2月に入って約1週間で、この2,000ドルの上げ幅が帳消しにされてしまいました。

 昨年からの上昇スピードが速すぎたため、その調整が起こっているにしか過ぎないとの見方もあれば、不安定な相場は続き、株式バブルははじけ、株はさらに下落するという悲観的な見方もあります。

 

VIX指数「恐怖指数」の恐怖

 米株発の世界株安と言われています。米株安は、1月終わりに開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)後のインフレ懸念の高まり、そのことを裏付けるような米労働者の賃金上昇の発表がきっかけだったことは株価の動きから推測されます。しかし、急落を加速させたのは他の要因もあるようです。

 聞こえてくるのは、VIX指数がらみのデリバティブ商品で巨額の損失が発生し、その巻き戻しでVIX指数が急上昇し、これが株の下落を加速させたという話です。

 VIX指数と言うのは、株式の将来の変動を予測する指数のことです。“ Volatility Index(ボラティリティ・インデックス) ”の略で、株価が大きく動くと予想する投資家が増えると上がり、株価が安定的に推移すると考える投資家が多くなると下がるという特徴を持っています。

 しかし、市場環境が不安定なときに上がる傾向があるため、投資家の不安感の度合いを表す指標と言われています。これが通称「恐怖指標」と呼ばれる所以(ゆえん)です。

 VIX指数は、平時では10~20の間で推移していることが多いですが、世界的に株価が大きく下落すると急上昇します。たとえば2008年のリーマン・ショックの時には80近くまで上昇しました。

 2017年は、株はほぼ一本調子で上がっていき、景気の拡大と低金利が共存する「適温経済」を、FRB(米連邦準備制度理事会)は緩やかな利上げで演出。それが株高の背景ですが、適温経済という環境の中での株高だったため、VIX指数は安定した動きをしていました。
また、北朝鮮のミサイル発射などの地政学リスクが高まっても、VIX指数はほとんど反応しませんでした。この結果、この安定を売りにした金融商品が生まれ、VIX指数の変動が少ないほど儲かる金融商品が人気となりました。

 ところが、株価の急落を受けて、VIX指数が急上昇したことから損失が拡大、その商品の期限前償還を含めた損切りによってポジションが巻き戻され、VIX上昇の一要因になり、さらにVIX上昇が株安を招くという悪循環に陥ったそうです。

 これらの商品に投資したヘッジファンドの運用リターンは平均して、昨年1年間で180%と言われていましたが、この2月の2日間で1年間のリターンの半分が消えたようです。
VIX指数の上昇が、株安を加速させ、この株安によるリスクを抑えるために株式を売却する動き(リスク・パリティ戦略)も見られました。

 しかもコンピューターによる自動取引によって、下げが加速されたと言われています。コンピューターによる自動運用は、取引が一方に傾くと値動きの速度を増幅させやすい傾向があります。

 株式市場は、下げが下げを呼び、戻ってもすぐに売りで抑えられる不安定な動きとなっています。しかし、VIX指数そのものの水準を見てみると、一時50台はありましたが、30前後で推移しており、リーマン・ショックの時の80台とは程遠い水準です。40前後の高値は、リーマン・ショック以降も数回起こっています。この水準を見ている限り、過去と比較すると大きなパニック状態ではないことを示しています。恐怖指数の調整が終わり、リスク資産のリスク調整が終われば、現在の米企業業績や減税効果を鑑みれば景気拡大は持続し、春先には市場は落ち着くのではないかというシナリオが想定されます。

 

はじけたのは「債券バブル」?

 今回の株安のきっかけになった長期金利の上昇について、株のバブルがはじけたのではなく、10年近く続いた金融緩和によって生じていた「債券バブルがはじけた」という見方があります。

 利上げに対するFRBの強気姿勢が今年に入って鮮明となり、2月初めに発表された米雇用統計の賃金上昇をきっかけに、「債券バブル」がはじけ始めたというのです。今後はさらに金利が急騰するリスクがあるのではないかと警戒され、金利が上昇し始めると、株も調整が続くのではないかと懸念され始めています。

「債券バブル」とはどの程度の規模なのでしょうか。FRBが2008年に量的緩和を始めた世界の債券の時価総額は推計で119兆ドル(1京3,000兆円)と言われています。

 これが2017年末になると、金利低下による債券価格の上昇を受けて50兆ドル(約4割)膨れ上がり、世界の債券の時価総額は推計で169兆ドル(1京8400兆円)になりました。世界のGDP(国内総生産)の6割強にあたる額です。

 あまりにも金額が大きすぎて実感が伴わないので、この間の世界の株の時価総額と比較してみます。2008年の世界の株式時価総額は32兆ドル。そして2017年末には85兆ドルに増えたと推計されています。増加額は53兆ドルと債券の増加額とほぼ同じ大きさです。率からすると株のほうがバブルではないかと思われますが、株より値動きが小さい債券が株と同規模で増えたということが、バブルを物語っていると言われています。世界中で金利がどんどん低下していく中で、少しでも利回りがあればどんな債券にも投資家が触手を伸ばしていった結果の数字です。この投資家の動きを見て、元FRB議長のグリーンスパン氏は、2017年8月に「バブルは株ではなく債券にある」とすでに警鐘を鳴らしていました。

「債券バブル」はあったかもしれませんが、「債券バブル」ははじけたのでしょうか。長期金利の上昇が株安のきっかけになったかもしれませんが、株が大きく下落すると米国債が買われる動きを見せています。

 この動きを見ていると、債券の売りが売りを呼び、金利が一本調子に上昇するような動きではなさそうです。バブルがはじけた状況ではなく、バブルが転換し始めた、すなわち正常な水準にしぼみ始めたということではないでしょうか。

 景気が拡大していたにもかかわらず、これまで長期金利が抑えられていた状況が正常化に戻る過程の動きと見ることもできますし、債券を取り巻く環境は変わってきていたのに、マーケットはその事実を無視していたことによって起こったのかもしれません。

 つまり、債券を取り巻く環境の変化とは、これまで債券の買い手だった中央銀行が購入を縮小し始めていることです。米国債の最大の買い手だったFRBは、2017年10月から、保有資産の償還分は再投資せず、資産を縮小し始めました。

 ある米系証券の試算によると、日米英と、ユーロ圏、スウェーデンの中央銀行は最大月2,000億ドル(約22兆円)の債券の買い手でしたが、2018年末にはそれらの中央銀行の合計資産額が減少に転じるそうです。

 これらの動きを見ていると、債券の買い手が減るわけですから、債券価格は上がりにくく(金利は低下しにくく)なるのは避けがたくなり、インフレが加速すれば金利は上がるかもしれません。

 しかし、中央銀行も景気を腰折れさせないように、市場と対話しながら政策を進めていくのではないでしょうか。その点から、水準訂正された長期金利の環境で、景気拡大が持続するような政策を取っていくことが予想されます。株価急落後の中央銀行高官の様々な発言がそのことを物語っています。

 株安はスピード調整であり、債券は景気拡大に即した水準訂正であるとすると、ドル/円はどのような動きをするのでしょうか。

 単純には、長期金利の上昇はドル高につながります。相場が落ち着き、リスク回避の円買いが終われば、素直にドル/円は115円へ向けて上昇を始めるのでしょうか。

 もし、株式市場が上昇し始め、債券市場が金利の高い水準で落ち着いても、ドル/円が上昇しない場合は、上昇した米長期金利の水準をドル円はすでに織り込んでいることかもしれません。

 また、金利以外の要因に強く影響されているのかもしれません。それは、株価急落前の円高要因であった日銀の出口戦略や、米国の通商問題かもしれません。相場が落ち着いた後のドル/円の動きをみながら、改めて検証していく必要があります。