執筆:窪田真之

<今日のポイント>
(1)世界的な半導体ブームが続いている。スマホ・データセンター・自動車・IoT機器などが需要を牽引。

(2)半導体ブームの恩恵を受け、半導体製造装置株は既に大きく上昇。ここからは警戒も必要。過去の経験則では、受注がピークアウトするときに、株価もピークアウトしている。今後の受注動向をウォッチしていく必要がある。

(1)半導体が世界的なブームに

今、世界は久々の半導体ブームに沸いています。半導体関連株が、米国でも日本でも軒並み大きく上昇しています。このブームはいつまで続くのでしょうか?4-5年周期で好不況を繰り返す半導体業界ですが、株式市場の盛り上がりから見ると、今回は18年ぶりの大ブームとなっています。

米SOX指数(半導体株価指数)の動き:1996年12月31日―2017年7月18日
(出所:楽天証券経済研究所が作成)

ITサービス・SNSで動画が本格的に活用される時代を迎え、スマホ・データセンターの記憶媒体として、NAND型フラッシュメモリーの需要が急増しています。また、自動車用の半導体や、IoT(モノのインターネット化)関連など、幅広い分野で半導体需要が拡大しています。
ところが、半導体業界は、リーマンショックの後、深刻な不況を経験しただけに、近年は新たな設備投資に慎重な姿勢をとり続けていました。そのため、急増する需要に増産が間に合わなくなっています。こうした中、世界の半導体大手(韓国サムスン電子、台湾TSMC、米インテル)は、いずれも年1兆円規模の設備投資を計画し、増産を急いでいます。
半導体の中でも、特に、スマホ・データセンターの記憶媒体で使われるNAND型フラッシュメモリーの供給不足は深刻です。データセンターの記憶媒体として、これまでHDDがメインで使われていましたが、今後は、処理速度が格段に速いフラッシュメモリーを使うSSDがメインになっていくと考えられています。それが、フラッシュメモリーの不足感をさらに強めています。
次世代メモリーとして期待されている3D NAND型フラッシュメモリーの歩留まりがなかなか上がらないことも、不足を長引かせている要因です。いち早く量産を始めているのは韓国サムスン電子で、東芝・米ウエスタンデジタルなどを大きく引き離しています。業界全体で3Dの量産が軌道に乗るのには、まだ、かなり時間がかかりそうです。
その恩恵をフルに受けているのが、半導体製造装置業界です。日本は、半導体産業では競争力を失い、今の世界的なブームの恩恵を受ける銘柄が少なくなりましたが、半導体製造装置では世界シェアが高く、ブームの恩恵を受ける銘柄が残っています。今期は、半導体製造装置株の業績が大きく拡大すると考えられます。それを反映して、過去1年半、主要な半導体製造装置株は、大きく上昇しています。以下は、推奨銘柄ではありませんが、ご参考までに、主要な半導体製造装置株の、株価パフォーマンスを示しています。

日本の主要半導体製造装置株と、日経平均の株価騰落率比較:2015年末―2017年7月19日 (注:楽天証券経済研究所が作成)

(2)半導体製造装置株には、そろそろ注意が必要

ただし、注意すべきことがあります。半導体業界は成長産業ですが、半導体製造装置産業は、必ずしも成長産業と言えないことです。世界の半導体出荷金額は、過去20年で3倍以上に拡大しました。シリコン(半導体)サイクルの影響を受けて、拡大縮小しつつも、長期的に成長してきたことがわかります。
ただし、世界の半導体製造装置は、成長産業とは言えません。ブーム時に、利益が急拡大しますが、不況になると赤字に転落することもあります。循環しながら成長する半導体業界と異なり、半導体製造装置は、これまでのところ、利益循環型の産業の域を出ていません。


 

(出所:世界の半導体出荷額はSIA(米国半導体工業会)、半導体製造装置受注額は日本半導体製造装置協会、1999年12月の値を100として指数化、楽天証券作成)

日本製の半導体製造装置の受注は、現在、ITバブル(2000年)と、リーマンショック前のブーム(2008年)のピークに近づきつつあります。半導体ブームはまだ継続しそうですが、半導体製造装置株の受注は、いずれピークアウトするでしょう。過去の経験則では、受注がピークアウトするときに、株価もピークアウトする傾向があります。
半導体ブームが燃え盛っている時に、こうした議論をするのは、時期尚早かもしれません。ただし、半導体景気は、急に雲行きが変わることもあるので、ここからは慎重に受注動向をチェックしていく必要があります。