12月号の概略
- 米大統領選挙でのトランプ氏当選を機にリフレ期待が台頭。米国市場では債券売りと株式買いの流れが続こう。
- 世界の景況感改善と米金利上昇(日米金利差拡大)によるドル高・円安で海外勢の日本株投資姿勢は積極化。
- 業績見通し改善とバリュエーション向上で、新年(2017年)を視野に入れた日経平均の上値余地は2万円超へ。
(1)トランプ氏当選で米国のリフレ期待強まる
11月の米国市場では、主要株価指数が最高値を更新する株高、債券安(利回り上昇)、ドル高・円安が進み、その波及効果で日本株堅調が続きました。11月8日の米大統領選挙で市場は2つのサプライズに直面しました。一つ目は、大方の予想に反して次期大統領にトランプ候補が当選したこと。二つ目は、選挙運動中こそ過激な主張が多かったトランプ氏が、選挙直後の「勝利宣言」で調和を重視する紳士的姿勢を示し、同氏に対する市場の印象を変えたことです。これにより、クリントン氏当選を織り込んでいた市場はあらためてトランプ氏の経済政策(公約)に目を転じ、そのリフレ効果(総額で最大約5.4兆ドル(約600兆円))の景気刺激策)を意識する展開となりました。同日に実施された議会選挙で、大統領府を勝ち取った共和党が上院と下院の過半以上の議席をも維持したことも「ねじれのない安定した政治が景気対策を実現する」との期待を後押ししたようです。
市場は、すでに景気が上向いている米経済の成長率とインフレ率が加速していくとみています。トランプ氏が掲げる景気対策を現在の「ほぼ完全雇用下」(11月の失業率は4.6%と2007年8月以来約9年ぶり低水準)で実施すれば、インフレ率の上昇が加速する可能性が高いとみられます。主要国の債券市場における「期待インフレ率(Break Even Rate)」を比較すると、米国のインフレ期待が急上昇していることがわかります(図表1)。
図表1:主要国の期待インフレ率
(2)日本株の相場観を大きく変えたドル高・円安
日本株式は、外部環境の変化(改善や悪化)に大きく左右される特徴があり、このことで「世界の景気敏感株」と呼ばれることがあります。具体的には、世界の景況感が向上、米国株式が上昇、ドル円が上昇(円が下落)するなどした場合、これら要因をカタリスト(契機)に海外勢(外国人投資家)が日本株に対する投資姿勢を積極化させる傾向がみられます。実際、OECD(経済協力開発機構)が11月28日に発表した最新予想によると、世界の実質成長率は2017年も18年も上向く見通し(世界の実質成長率は2016年の前年比+2.9%から17年は+3.3%、18年は+3.6%へとやや加速する見通し)で、米国、ユーロ圏、日本、中国の成長率見通しが前回予想(6月時点予想)よりすべて上方修正されたことが注目されました。また、ドル円と日米金利差の推移を振り返ると、長期債も短期債も金利差は拡大傾向にあり、ドル円が昨年8月に125円をつけた時点より金利差が拡大していることがわかります(図表2)。トランプ次期大統領による大規模減税とインフラ投資を主軸とした景気刺激効果と財政赤字拡大を巡る思惑や、FRB(米連邦準備制度理事会)による追加利上げ観測が米債金利を上昇させています。一方、日銀はイールドカーブコントロール(長短金利操作付き量的・質的緩和)策の一環として長期債利回りをゼロ%近辺に抑制する動きをみせており、当面の日米金利差は拡大トレンドにあると思われます。財務省の統計によると、海外勢(外国人投資家)は、最近2カ月で日本株式を約2兆円買い越してきたことが確認されています。リスクオン(リスク選好)に転じた海外勢が、日本株投資に前向きとなってきた背景に注目したいと思います。
図表2:ドル円相場と日米債券金利差の推移
(3)トランプノミクスを巡る不安や不透明感もある
トランプ氏が公約に掲げてきた経済政策は「トランプノミクス(Trumpnomics)」と呼ばれています。同氏は選挙戦中、「強いアメリカ」を再現するために(1)所得税や法人税減税及びインフラ投資などの財政出動を実施して米経済成長率を高める、(2)規制緩和を進め、金融規制やエネルギー規制を撤廃・緩和して産業界を活性化させる、(3)TPP(環太平洋経済連携協定)、NAFTA(北米自由貿易協定)、WTO(世界貿易機構)から離脱して国内雇用を守る、などと訴えてきました。(1)と(2)は、景気の底上げやビジネスの活性化にプラス(共和党は伝統的に「プロビジネス」と呼ばれる)であり、選挙後の米国株はこうした期待を先行して好感してきたと言えます。特に、(3)が選挙運動中の「扇動的」な表現に留まり、実際の貿易政策や外交政策が実利的でバランスのある方向へ軌道修正されるなら、市場が安堵する可能性もあります。ただ、トランプ氏の政策公約に潜在的なリスク要因は多く、楽観するべきでないことも事実です(図表3)。特に、リフレ政策が実体経済の改善を伴わずに米長期金利の上昇を加速させるだけとなれば、個人消費や住宅市況の減退に繋がる可能性があり、米国株の下落要因となりそうです。また、米金利の上昇とドル高が新興国市場での資金流出を加速させるリスクも警戒されています。さらに、トランプ政権が保護貿易的な政策を強行すれば、世界貿易量の縮小や企業コストの増加を介し、多国籍企業の業績下振れ要因となりそうです。来年1月20日に誕生するトランプ新大統領政権による政策実行とその中身を見極める必要があります。
図表3:トランプ次期大統領の政策とリスク要因
12-1月に市場の動意材料となりそうな主要イベントを下記に一覧しました。12月13-14日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で決定される金融政策とその方向性(FOMCメンバーによる金利見通しの変化)を市場は注視しそうです。また、トランプ新大統領(1/20就任予定)は政治経験がまったくないだけに、新政権の顔ぶれ(閣僚人事)や発言により具体的な政策をあらためて材料視していくものと考えられます。
図表4:12月-1月の注目イベントなど
あすなろ投資戦略
本コラムでは、投資ニーズに応じた投資戦略(あるいはマーケット特集)をご紹介して参ります。今月は、新年(2017年)を視野に入れた「日経平均のレンジ予想」を解説させていただきます。
(1)2017年の日経平均に上値余地はあるか
11月初旬から上昇してきた日本株に上値余地はあるのでしょうか。そこで今回は、新年(2017年)を視野に入れた中期的な時間軸で、日経平均と高い相関性がみられる「円換算ダウ平均」(ダウ平均×ドル円)のシナリオ別に、回帰分析に基づく「日経平均の予想レンジ」を試算してみます。図表Aが示す通り、円換算ダウ平均と日経平均の間には高い相関性があることがわかります。それだけ日本株が外部環境から受ける影響度が大きいということです。
わかりやすく言えば、ダウ平均やドル円が上昇(円が下落)する局面では日経平均は上昇しやすく、ダウ平均やドル円が下落(円が上昇)する局面では日経平均が下落しやすい関係があります。2010年以降の市場実績を回帰分析すると、円換算ダウ平均と日経平均の相関係数は98%(決定係数は96%)で、円換算ダウ平均の行方が日経平均の先行きを占う上で説明力が高いと言えます。統計上の細かい数字ですが、2010年以降の市場実績をもとにした円換算ダウ平均と日経平均の関係を回帰式(Y=aX+b)で説明すると、「円換算ダウ平均×0.008+1,752円」との算式で日経平均の参考値(中心値)を逆算できます。新年の米ダウ平均を「17,500ドル~19,500ドル程度」、ドル円を「105円~120円程度」と仮定すると、日経平均の想定レンジとしては「16,452円~20,472円」が視野に入ります。あくまで参考情報ですが、米国株の行方と為替の行方から視野にできる相場の水準感をイメージしたいと思います。
図表A:円換算ダウ平均と日経平均株価の推移
図表B:ダウ平均とドル円見通しから試算する「日経平均レンジ予想」
(2)ファンダメンタルズからも想定できる2万円超
日経平均の上値余地を、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)面からも占ってみたいと思います。株式のファンダメンタルズは「業績予想とバリュエーション(割安度)」と考えています。過去3年程度の日経平均と予想PER(株価収益率)の推移を振り返ると、予想PERは概して14倍から17倍を中心レンジに推移してきたことがわかります(図表C)。直近の日経平均ベースの予想EPS(1株当り利益)は約1,170円で、予想PERは約15.6倍となっています(11月末現在/予想EPSはBloombergのデータ)。ただ、前述したとおり米国や中国など世界の景況感が改善を続け、為替で円安が続くなら、企業業績見通し(予想EPS)は上方修正されていくと考えられ、投資環境の改善(不透明感の後退)そのものもPERの拡大を促していく傾向が期待できます。実際、2014年初や2015年春ごろに日経平均の予想PERが16倍から17倍まで拡大した経緯もあり、日経平均が新年の上値目途として2万円超((EPS1,170円×PER17倍)を視野に入れる展開となって不思議ではありません。なお、TOPIX(東証株価指数)ベースのEPSの2017年予想は前年比約9%の増益が見込まれています。日経平均ベースの増益率を(やや慎重に見積もって)約5-6%と想定すると、2017年のEPSは約1,230円に。このEPSに予想PER(16-17倍)を掛け合わせると、2017年の上値目途として「日経平均19,680円~20,910円」が視野に入ってきます。
図表C:日経平均と予想PER(株価収益率)の推移
(3)レーガノミクス初年(1981年)の市場実績に倣う
トランプノミクス(トランプ次期大統領の経済政策)は、「レーガノミクス2.0」(11月12日号のBarron’s紙)と呼ばれるほど、ロナルド・レーガン第40代大統領(1981年~88年)の経済政策に似ているとされます。参考までにレーガン大統領就任初年(1981年)における日経平均の軌道を振り返ってみました(図表D)。当時も、リフレ政策期待と財政赤字拡大観測を反映して「米長期金利上昇⇒ドル円上昇⇒日経平均上昇」が年央まで続いたことがわかります。さらに細かく当時の株価波動(相場の山谷)を分析すると、①1月21日にレーガン大統領が正式就任したあたりが一つ目の山、②「Sell in May and go away(5月に売れ)」の「相場格言(季節性)」に従って5月初めが二つ目の山、③ドル円がいったんピークをつけた8月ごろが三つ目の山、④米景気後退入りを嫌気して米国株が大幅調整した(=米長期金利が低下してドル円も下落した)9月に日経平均も大幅調整、⑤株価は10月ごろに底入れした後に年末に向け戻り歩調を辿った、とのパターンがみてとれます。とは言っても、当時の米国がスタグフレーション(インフレが高進するなかでの景気後退)に見舞われた経緯があり、最近の米経済実勢は異なる点も多いと考えます。また、やや上昇したとは言っても、最近の金利水準は当時と比べて極めて低水準に留まり、イールドカーブ(債券市場の利回り曲線)の形状は順イールドで、米経済がリセッション(景気後退)やスタグフレーション入りする可能性は低いとみられます。こうした環境下、米国株は底堅い動きを続けると見込まれ、新年を通じて日経平均を下支える要因になると考えられます。なお、過去1カ月程度の業種別物色(セクター別の株価優劣)を振り返ると、日本市場、米国市場、欧州市場で「金融(銀行・証券・保険など)」、「エネルギー(資源関連)」、「一般消費財・サービス(自動車など含む)」、「インフラ関連(資本財・素材など)」の優勢が鮮明であることがわかります(図表E)。循環的な景況感回復とインフレ期待の台頭を背景とした長短金利差拡大(金融にとっての利ザヤ拡大)、OPEC総会での減産合意を受けた原油相場の戻り、主要先進国での財政出動(インフレ整備などの公共投資や大規模減税)によるリフレ効果などを織り込む動きが始まったとみられ、こうしたトレンドは新年の物色動向のメインシナリオ(主流)として注目していきたいと考えています。
図表D:レーガノミクス初年(1981年)の為替と日経平均
図表E:世界株式の業種別物色動向(1カ月前比騰落率)
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