2017年第4四半期決算が出揃った
2017年第4四半期の銀行・証券の決算が出揃いました。そこで今日はそれらをレビューしたいと思います。
総括
まず全体像ですが、大きく分けてトレーディングに代表される証券業務は低調、クレジットカードや融資に代表される商業銀行業務は好調でした。それは各行の売上高成長率にも表れており、巨大な商業銀行部門を持つJPモルガン・チェース(ティッカーシンボル:JPM)、ウエルズファーゴ(WFC)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)がしっかりした成長を記録した半面、トレーディングへの依存度が高いゴールドマン・サックス(GS)は不調でした。
トレーディング収入だけを比較すると、次のチャートのようになります。
2016年第4四半期に比べてJPモルガン・チェースとゴールドマン・サックスの成績が特に悪かったことがわかります。全体にトレーディングが低調だった理由としてはボラティリティーが低かったこと、長短金利差が小さいことなどによります。
一方、商業銀行業務では各行とも期待されたほど純金利マージンは拡大しませんでした。これは米国財務省証券の利回り曲線の傾きが比較的緩やかになっていることが原因です。
今後の見通しに関しては1)米国経済が好調であること、2)去年の暮れに税制改革法案が成立したことで事業主や消費者のマインドが強気であること、などの要因から融資成長に関しては楽観的な見通しを述べる銀行が多かったです。
JPモルガン・チェース
JPモルガン・チェースの第4四半期決算はEPS(1株あたり純利益)が予想1.69ドルに対して1.76ドル(ただし税制改革法案成立による-69セントを除く)、売上高が予想248.7億ドルに対し241.5億ドル、売上高成長率は前年同期比+3.3%でした。
税制改革法案成立によるマイナスを除いた純利益は67億ドル、前年同期比-1%でした。
純金利収入は134億ドル、前年同期比+11%でした。金利上昇、融資ならびに預金成長が寄与。純金利マージンは5ベーシスポイント改善し2.42%となりました。
ROE(株主資本利益率)は8%、ROTCE(有形自己資本利益率)は13%でした。普通株式等Tier1(自己資本の中の、資本金・法定準備金・利益剰余金などの基本項目)比率は12.2%でした。これは第3四半期の12.6%より若干減りました。
平均コア融資成長率は前年比+6.0%、前期比+2.2%でした。
貸倒引当金は13億ドルで、前年同期の8.64億ドルより増えました。損金計上は12.1億ドルで、第3四半期に比べ横ばいでした。
消費者・事業バンキング部門の売上高は56億ドル、前年同期比+16%でした。預金マージンの改善(2.02%から2.06%へ)、預金残高の増加が成長の主因です。住宅融資収入は14億ドルで、前年同期比-15%でした。サービス収入減少・貸付け利ザヤ縮小がマイナスになった理由です。カード部門売上高は51億ドルで前年同期比+11%でした。
トレーディング売上高は前年同期比-19%。うち債券部は-34%でした。ボラティリティーの低下、信用スプレッドが狭まったこと、税制改革などが影響しました。税制改革の影響を除く債券部門の売上高は-27%でした。株式部は前年同期比±0%でした。これは信用取引に絡むマーク・ツー・マーケット評価損1.43億ドルを含んでいます。それを除くと株式部売上高は+12%でした。プライム・ブローカレージ、現物株、法人向けデリバティブが好調でした。
税制改革によるリパトリエーションに関しては、あまり予想していないというコメントがありました。また税制改革はM&A(会社の合併・買収)と株式引受けにはプラス、債券引受けにはマイナスに働くというコメントがありました。さらに税制改革は企業向け融資には少しプラス、住宅ローンには少しマイナスになります。
総括すればJPモルガン・チェースはクレジットカード部門の売上高成長に助けられている面が大きいです。その半面、投資銀行部門は精彩を欠いていました。
シティグループ
シティグループ(ティッカーシンボル:C)の第4四半期決算はEPSが予想1.19ドルに対し1.28ドル、売上高が予想172.3億ドルに対し172.6億ドル、売上高成長率は前年同期比+1.4%でした。
税制改革法案成立に伴うノン・キャッシュ一時損は220億ドルでした。これは繰り延べ税資産の再評価が原因です。無視して良いでしょう。
純金利マージンのトレンドは、あまりパッとしません。
修正株主資本利益率は6.5%、修正有形自己資本利益率は8.9%でした。期末融資残高は前年同期比+7%の6,670億ドル、エフィシェンシー・レシオは58%、予想は59%でした。
シティグループは2018年の税率を25%と予想しています。他行に比べシティグループの税率が高い理由は海外事業の占める割合が大きいからです。
第4四半期のクレジット・コストは前年同期比+16%の21億ドル。純損金計上は1.84億ドルでした。
市場証券サービス部門売上高は前年同期比-17%の34億ドル。債券部門は-18%の24億ドル、株式部門は-23%の5.3億ドルでした。ひとつの金法顧客から1.3億ドルのデリバティブ損が発生しました。
ブックバリューは70.85ドルでした。タンジブル・ブックバリューは60.4ドルでした。これらは前年同期比でそれぞれ-5%と-6%でしたが、その理由は主に税制改革に伴う変更が原因です。
ウエルズファーゴ
ウエルズファーゴの第4四半期決算は、特殊要因を除くEPSが予想1.03ドルに対し1.16ドル、売上高が予想226.4億ドルに対し221億ドル、売上高成長率は前年同期比+2.2%でした。
なお今期のEPSにはたくさんの一時要因が含まれています。税制改革法案による一時益が33.5億ドル(+67セント)、保険サービス事業売却益8.48億ドル(+11セント)、架空口座、住宅ローン不適切勧誘などに絡む訴訟費用32.5億ドル(-59セント)などです。
平均融資残高は前年同期比62億ドル増えて9,561億ドルになりました。
ただ前期比ではこのところマイナス成長が続いています。これは主に商業用不動産向けの貸付を少し絞り込んでいるためです。
ウエルズファーゴは商業用不動産の貸付では全米No.1ですが、ここへきてやや無謀な融資が散見されるようになったため、融資審査基準を厳格化し、融資先を厳選しています。
商業向け融資損金計上率は0.09%、消費者向け融資損金計上率は0.56%でした。損金計上の合計は7.51億ドルでした。これは第3四半期より3,400万ドル増えました。
住宅ローン非金利収入は9.28億ドル。第3四半期は10億ドル、住宅ローン・オリジネーションは530億ドルでした。これは第3四半期の590億ドルより少なかったです。
ウエルズファーゴの純金利マージンのトレンドも、パッとしません。
バンク・オブ・アメリカ
バンク・オブ・アメリカの第4四半期決算発表はEPSが予想45セントに対し47セント、売上高が予想216.1億ドルに対し206.9億ドル、売上高成長率は前年同期比+3.5%でした。
なお上のEPSの数字は去年の年末に成立した税制改革法案による一時損29億ドル(EPSにして27セント)を除外してあります。
純金利収入は前年同期+11%の115億ドルでした。これは金利の上昇と融資ならびに預金の増加に因ります。
損金計上は12億ドルでした。この中には或る顧客への商業貸付けに絡む2.92億ドルの貸倒を含んでいます。
純チャージオフ・レシオは0.53%でした。これは去年同期の0.39%から上昇しました。
貸倒引当金は10億ドルでした。これは前年同期の7.74億ドルから増えています。
融資残高は+9%、預金残高は+8%でした。
投資銀行部門のセールス&トレーディング収入は前年比-9%の25億ドルでした。債券部は-13%の17.1億ドル、株式部は±0%でした。
エフィシェンシー・レシオは50%でした。これは前年同期の53%から改善しました。
純金利イールドは2.39%でした。これは前年同期比+16bpでした。
ゴールドマン・サックス
ゴールドマン・サックスの第4四半期決算はEPSが予想4.95ドルに対し5.68ドル、売上高が予想76.4億ドルに対し78.3億ドル、売上高成長率は前年同期比-4.2%でした。
投資銀行部門売上高は前年同期比+44%の21.4億ドルでした。うちアドバイザリーは+9%の7.72億ドル、引受けフィーは+76%の13.7億ドルでした。債券、株式引受けともに好調でした。
インスティチューショナル・クライアント・サービス部門売上高は前年同期比-34%の23.7億ドルでした。うち債券為替コモディティ部門は-50%の10億ドルでした。為替、クレジット、金利、コモディティなどの商品が不振でした。一方、株式部門は-14%の13.7億ドルでした。株式客注執行が不振でした。
モルガン・スタンレー
モルガン・スタンレー(ティッカーシンボル:MS)の第4四半期決算はEPSが予想78セントに対し84セント、売上高が予想92.5億ドルに対し95億ドル、売上高成長率は前年同期比+5.3%でした。
投資銀行部門売上高は14億ドルでした。うちM&Aアドバイザリー収入は5.22億ドルでした。株式引受け手数料は4.16億ドルでした。債券引受け手数料は4.99億ドルでした。セールス&トレーディング収入は27億ドルでした。そのうち株式部門は19億ドル、債券部門は8.08億ドルでした。
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。