執筆:窪田真之

今日のポイント

  • 最近、原油価格が下がったのには2つの理由がある。OPEC減産の実効性が低下したこと。もう1つは、米シェールオイルの生産コストが低下し、再び、増産に転じていること。
  • 原油価格が1バレル40-50ドルで推移すれば、日本の企業業績にプラス寄与する。4-6月決算では、素材・市況産業が好調と予想される。

原油先物の上値が重くなってきた理由

日経平均は、しばらく2万円前後の膠着が続くと考えています。今日は、原油価格の低迷が続いている理由を、解説します。
最近、WTI原油先物(期近)の上値が重くなっています。OPEC(石油輸出国機構)が今年1月から原油減産を実施していることを好感し、WTI原油先物は2月に一時1バレル54ドルまで上昇しましたが、その後下落に転じ、足元は1バレル46ドル前後で推移しています。

WTI原油先物(期近)の動き:2014年1月2日―2017年7月18日

(出所:シェールオイル生産コストは楽天証券経済研究所の推定)

最近、原油価格が下がってきたのには、2つ理由があります。中東の減産の実効性が低下したことと、米シェールオイルが増産に転じたことです。それでは、ここで過去4年の原油価格の動きを簡単に振り返ってみましょう。
原油価格は、世界の原油需給のバランス変化によって起きています。需要は年々安定して増加していますが、2014年以降、供給が、需要を上回るペースで拡大するようになったため、原油価格は大きく下落しました。

(1)2014年に原油価格が急落
2013年まで原油の世界需給は、日量50万バレルの需要過剰でしたが、2014年に日量90万バレルの供給過剰になったため、原油価格は急落しました。米国でシェールオイルの生産が拡大したことが、供給過剰を招きました。

(2)2015年後半に原油価格が再び急落
2014年の原油急落で、米国のシェール油田でコスト割れが増えました。2015年前半は、シェールオイルの生産が減る思惑から、原油が反発しました。しかし、15年後半は中東原油が増産され、供給過剰が日量2百万バレルまで拡大したために、原油価格が再び急落しました。高コストの米シェール油田は廃業に追い込まれたものの、低コストのシェール油田が増産したために、シェールオイルの生産はあまり減りませんでした。

(3)2016年に原油価格が反発
米シェールオイルの生産がようやく減り始めたこと、OPECが減産に向けて話し合いを始めたこと、世界需要が順調に拡大したことを受け、原油需給が徐々に改善に向かい、原油価格が反発しました。11月にOPECが減産で合意すると上昇に弾みがつきました。

(4)2017年、再び原油価格はじりじりと低下
原油を増産したいのに我慢している国が世界中にあることから、原油の上値は重くなってきました。1月から開始されたOPEC減産の合意は守られていますが、その実効性が低下しています。減産の対象外とされたリビアとナイジェリアが予想以上に増産したためです。また、米国で、生産コストが下がってきたシェールオイルが再び増産に転じ、原油需給を悪化させています。

日本への影響

日本は、長い目で見れば、資源安の恩恵を受ける国ですが、短期的には、原油急落で大きなダメージを受けました。2016年前半の企業業績は、資源安の影響で、大きく下ぶれしました。資源権益の減損、資源の高値在庫の評価損に加え、資源国でのビジネス悪化が、下ぶれ要因となりました。
世界全体の景気にとっても同じでした。2016年前半は原油急落が、産油国の景気を悪化させただけでなく、原油の輸入国である米国・欧州・中国も、逆原油ショックでダメージを受けました。
2016年後半以降、原油が反発していることは、世界経済にとっても、世界の株式市場にとってもプラスに働いています。日本の企業業績も、原油価格の反発により、改善しています。
原油価格が上昇しすぎると、コストアップによるマイナスが日本経済に及びますが、原油価格が上がり過ぎることもなく、下がり過ぎることもなく推移している今は、日本の景気・企業業績に好影響を与えると考えられます。これから、2017年4-6月期の決算が発表されますが、素材・市況関連株の業績は好調が見込まれます。

ただし、米国自動車販売の減少で、自動車セクターの業績は不振が予想されます。日経平均が、膠着を抜け出すことができるか、不透明な状況が続きそうです。