6月の欧米の金融政策委員会では、出口戦略を一歩前進した決定をしましたが、その直後のドルや金利はあまり反応しませんでした。しかし、その後先進各国の金融当局者からタカ派発言が相次いだため、月末にかけて株は下落し、長期金利は上昇しました。この動きは、金融緩和から金融引締めを警戒し始めてきた投資家心理の変化なのか、それとも6月末の四半期決算や、米独立記念日や夏休み前を意識したポジション調整的な動きなのかを見極める必要があります。

金融緩和時や金融引締め時の株や金利、ドルの動きは、一般的にはどのような動きになるのかここで整理しておくと、今後の動きの中で変化が生じた時に対応がしやすくなります。あるいは事前にいくつかのシナリオを想定しておくと動きやすくなります。

一般的に金融緩和政策は景気後退局面で物価が下落している時に実行されます。対して金融引き締め政策は、景気や物価が過熱し始めるタイミングで実行されます。あるいは、景気が過熱していなくても資産バブルなどの兆候が出始めると引締め検討議論が出てきます。

景気後退局面、物価下落→金融緩和政策(利下げ、マイナス金利、量的緩和)

景気・物価過熱局面→金融引締め政策(利上げ、量的緩和終了、資産縮小)

また、株式市場では景気回復→株価上昇という反応が多く、ここに金利要因が加われば、景気回復→金利上昇→株価下落と言う局面も出てくる可能性もあります。そして、先程の金融政策と金利・株価の動きを組み合わせると以下の通りなります。

景気後退→金融緩和→金利下落→景気回復期待→株価上昇→景気・株価過熱→金融引締め→金利上昇→株価下落

金融引締めは、景気がよいから行われるのですから、本来なら株価にとっては上昇しやすい局面ですが、長期金利が急上昇すると株価への影響も小さくない可能性が出てきます。6月後半は世界的な金利上昇懸念が広がった結果、「金利上昇→株価下落」という見方が優勢になる局面が出てきました。IT銘柄の代表であるFAANG株(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、およびGoogle(現在はAlphabet)のことを指す)は、6月は冴えない動きとなっています。背景は諸説ありますが、低金利下の成長バブル銘柄が、金融引締め・金利上昇でその反動安となったとの見方が一般的のようです。この結果、6月のナスダックは下落月となりました。

ドルについても米国の金融緩和、金融引締め時において二通りのシナリオが考えられます。

金融緩和→米金利下落→ドル安

金融緩和→米金利下落→景気回復期待→米株価上昇→ドル高

金融引締め→米金利上昇→ドル高

金融引締め→米金利上昇→米株価下落→ドル安

金融引締め時には、「金利上昇→株価下落」という事態に陥れば、ドル安になりやすく、逆に株価が下落しなければ、金利上昇に支えられたドル高になりやすいということがわかります。ドル相場を予測する上で、今後の金融引締め局面では「金利上昇→株価下落」という様相が強まるのかどうかを見極める必要があります。

もう一度今回(6月)の欧米の金融政策委員会の内容とその後のタカ派発言を振り返ってみます。

まず、6月の欧米の金融政策決定事項を振り返ると、

ECB 6月8日の理事会では、政策金利の先行きを従来の「現状かそれ以下の水準」から「当面の間、現状水準にとどまる」と表現を変更し、追加緩和姿勢から中立姿勢にECBスタッフの経済見通しでは3月時点よりも成長率を上方修正しているが、物価見通しは2017年(1.5%)、18年、19年とも下方修正しており、政策目標の2%弱には遠い予想。ドラギ総裁は「物価の基調は引き続き弱い」との認識
FRB 6月13-14日のFOMCで資産圧縮の基本計画を公表し、年内に保有資産の縮小を開始すると公表。経済見通しは、成長率は横ばい予想だが、コアPCEインフレ率を3月時点の1.9%予測から1.7%に下方修正し、FRBの目標とする2%に届かない見通し

これら政策が決定された後は、金利もそんなに上がらず、むしろ、ECBもFRBも物価の見通しを下方修正したことから、金利は下がり、ユーロやドルは売られるところとなりました。

ところが、その後発表された米経済指標が強い指標が出たことから、9月にも米FRBの資産縮小プログラムは決定事項となり、10月にも開始との見方が広がり、長期金利上昇のきっかけとなりました。更に主要各国のタカ派発言が6月終わりにかけて相次いだため、各中央銀行が金融引き締めに走るのではないとの警戒感が広がり、長期金利は急上昇するところとなりました。各中央銀行総裁の発言は、これまでと異なり、下記のように金融引締めを強く示唆する内容となっていたからです。

6月27日 ECBのドラギ総裁は「デフレの脅威は遠のいた」「あらゆるサインが、力強く、幅広い回復を示している」と、これまでの慎重姿勢から一変。
6月28日 BOE(イングランド銀行)のカーニー総裁は、経済情勢が改善すればとの前置きをしながらも「いくらかの緩和策を取り去ることが必要になる」と緩和縮小を示唆し、「金融政策委員会(MPC)で今後数か月以内に議論することになる」と発言。
6月28日 カナダ中央銀行のポロズ総裁はCNBCとのインタビューで、「2015年に実施した利下げは役割を果たした」との見解を示したことから、次回7月12日の金融政策委員会で利上げが決定されるとの観測が急浮上し、カナダドルは上昇。

このように6月の終わりに、各中央銀行総裁から示し合わせたように金融引締めを示唆する発言が相次いだことからマーケットはびっくりし、金利は急上昇しました。ドラギ総裁は6月8日のECB理事会後の記者会見では慎重姿勢でした。カーニー総裁に至っては、1週間前には 「インフレ圧力は抑制されており、利上げする時ではない」と今後の利上げについて否定的な見解を示していました。この発言直後ポンドは急落したのですが、たった1週間でスタンスが変わるものでしょうか。謎です。更に謎なのは、物価が政策目標にまだ届いていないのにもかかわらず、かなり予防的に政策変更への道程を示し始めていることです。各総裁は、経済が想定通りならばと前置きをしていることから、今後、ますます各国の個々の経済指標の注目度が高まってきます、特に物価動向には注視しておく必要があります。

今回の金利急上昇局面では、日本の長期金利もわずかに上がりましたが、一時的との見方が強く、世界の金利上昇の動きから「蚊帳の外」にいるようです。このままだと、円キャリー取引が強まってくるシナリオが浮上してくるかもしれません。緩和政策を取り続け、「出口」が見えない日銀の政策は世界から取り残され、海外投資家による、金利の低い円を売って金利の高い外貨を買う動きが活発になってくるかもしれません。ここのところのクロス円の動きは、ドル円の動きと比べて値幅が大きいことから、円キャリー取引の兆候なのか、この動きにも注目しておく必要が出てきたようです。