11月終盤のドル円は、北朝鮮リスクから一時111円を割れ、110.85円を付けました。しかし、110円台は一瞬で、その後月末に向けてじりじりと上昇し、112円台半ばで11月を終えました。11月終盤にドル円を動かした要因は、下記が挙げられます。
・ドル高・円安要因…米税制改革法案への期待と12月12~13日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げへの期待。
・ドル安・円高要因…北朝鮮リスクとトランプ政権のロシア疑惑。
これらの要因が相まって、ドル円は狭いレンジながら上下に乱高下した動きとなりました。
そして、もうひとつ相場のかく乱要因がありました。そのかく乱要因とは英国とEU(欧州連合)の離脱交渉のです。11月28日、英国とEUが交渉の懸念事項である「清算金」について基本合意に達したとの報道が流れました。この報道を受けて、ポンドは急騰し、1%近く上昇。当然ポンド円も上昇し、その日は147円近辺から149円近くまで2円近くの上昇となりました。ポンド円というクロス円が上昇すれば、ドル円もつれ高となり、ドル高・円安を後押しします。
ポンドは、その後もアイルランドと北アイルランドとの国境問題で基本合意に達したとの報道から、さらに上昇し、ポンドドルは1.32台前半から1.35台前半まで3日間で約300ポイントの急上昇となりました。ポンド円はさらに動いています。4日間で147円から153円手前まで約6円近くの急上昇となりました。これだけの円安となれば、ドル円もつれ高となり、ドル円は111円から113円まで2円の上昇となりました。
「ツレ高」とは、ポンド円の円安の動きにつられてドル円も円安になるという動きですが、オペレーション的な動きも影響しています。つまり、ポンド円や豪ドル円の取引において、それらのクロス円の市場規模は大きくないことから、たとえば、ポンド円を買うときは、ポンドを買って同時にドル円も買うというオペレーションがよく行われます。従って、ポンド円が買われるときはドル円も買われやすい動きになることが多いようです。
さて、その後153円近くまで上昇したポンド円は、12月4日、イギリスのメイ首相の交渉相手であるユンケル欧州委員長が「本日中の合意はない」とのニュースが流れると急落しました。152円台後半から151円台半ばまで約1円50銭程急落しました。ドル円もこのポンド円の急落につられて70銭程円高となりました。このようにポンド円の振幅と比べるとドル円の振幅は小さいですが、ポンド円によって引き起こされる「ツレ高」、「ツレ安」になる動きには注目しておく必要があります。このクロス円による「ツレ高(円安)」、「ツレ安(円高)」は、ユーロ円や豪ドル円など他のクロス円によっても起こることがあるので注意が必要です。
EU離脱交渉の懸案事項
さて、英国とEUの離脱交渉は今後も相場のかく乱要因となる可能性があるため、この問題の成り行きに注目しておく必要があります。複雑な問題が絡んでいるためなかなか理解しにくい面もありますが、離脱交渉の現在の状況をまとめてみると以下のようになります。
(1)まず、離脱交渉は2段階に分かれて交渉されています。
第1段階 通商協議に進む前提となる離脱条件の合意が必要
離脱条件最優先の3分野とは、
・清算金
・在英EU市民とEU圏内で暮らす英国市民の権利保障
・アイルランドと英領北アイルランドの国境管理
第2段階 通商協議 (離脱後の通商関係や激変を緩和する移行措置の協議)
(2)イギリスとしては、早く第2段階の通商協議に臨みたい。10月のEU首脳会談で決着し、第2段階の通商協議に入りたかったが、第1段階の離脱条件の合意、特に清算金問題が折り合わず難航。12月のEU首脳会議(12月14~15日)に先延ばしに。
(3)11月終盤、ポンドが上昇したのは、第1段階の離脱条件優先3分野に英国が譲歩し基本合意に近づいたという報道によるもの。
(4)しかし、12月4日の報道では、交渉相手であるユンケル欧州委員長が「本日中の合意はない」と発言したことからポンドは急落。この背景は、12月のEU首脳会談で通商協議に入ることを承認するためには、イギリスの譲歩案を示す期限が12月4日と定められていたから。ポンドは急落したが、急上昇のスタート時点の水準まで戻っていないのは、EU首脳会談まで協議は継続されるという期待が込められているからだと推測される。
5日の新聞報道だと、「英、EU離脱で譲歩案 協議を継続」との見出しや「英EU国境管理も進展 通商協議「近づいた」」との見出しになっており、マーケットの反応よりかは楽観的な見出しとなっている。一方、TVニュースなどは「英EU離脱交渉 意見の隔たり埋まらず」と厳しいニュアンスを伝えた。
(5)2019年3月期限のEU離脱には、EUは議会承認手続きがあるため交渉は遅くとも2018年秋までが実質的期限となる。既に1年を切っているが、通商交渉は離脱条件の合意よりもハードルが高いことが予想されるため、もし、12月のEU首脳会談で通商協議入りが承認されなければ、イギリスにとっては厳しい局面に(ポンド売り要因)。
(6)メイ首相にとっても、譲歩案をEUに示したものの、英国内の不満の声も出始めており、そのまま実行するためには厳しい環境に直面する可能性が大きい。既に北アイルランドの地域政党が反対の意向を示している状況。
これらの状況を鑑みると、今後為替市場に影響を与えるかもしれないポイントは、
・12月14日までに離脱条件の協議が進展し、12月14~15日の首脳会談に通商交渉が承
認されるのかどうか。承認されればポンド高に、承認されなければポンド安の可能性。
・12月14日までの間に、EUに示した譲歩案に対する国内の不満をメイ首相は抑えきれず、苦境に立たされることになればポンド売り要因に。
11月終盤のポンドの動きを見ていると、EU首脳会談の結果がネガティブな場合、かなりポンドは急変動する可能性があるため注意が必要です。また、そのEU首脳会談の前日には米国のFOMC(12月12~13日)が開催されるため、来年の利上げペースの見通しなどによっては、連日相場の変動が大きくなる可能性があるため注意が必要です。後10日ほどで本当に決着するのかどうか注目です。
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