2017年11月30日(木)、ウィーンで第173回OPEC(石油輸出国機構)総会、第3回OPEC・非OPEC閣僚会議が開催されました。
図:WTI原油先物価格の推移(期近 15分足) 単位:ドル/バレル
総会の開催前後、OPEC・非OPECの閣僚会議の開始前後、共同記者会見開始後にやや動きがみられましたが、全体的には原油価格に大きな変動はなく総会が終わったと言えます。
総会の数日前は、延長しても2018年9月あるいは6月か?などのロシアに端を発した報道があり、やや不安定なムードがありました。しかし、総会では事前に想定されたとおり、「2018年12月まで延長」が決定しました。
想定通りとなったことは、不安定なムードを払しょくすることにつながりましたが、同時にサプライズ感のなさとも映り、原油価格には大きな変動が見られませんでした。
OPEC・非OPECの合計24カ国が実施している減産は2018年12月まで延長
OPEC・減産に参加する非OPECそれぞれの削減幅は、原則的に2016年末に合意した内容を踏襲。2018年6月の次回総会で延長後の減産の進捗が精査される。
今回の総会で、OPEC・非OPECの合計24カ国が実施している減産を、2018年12月まで延長することが決定されました。
また、総会後に主要通信社より以下の内容が報じられています。
・削減目標は原則的に2016年年末に合意した内容を踏襲。昨年10月比(一部例外あり)OPECは日量120万バレル、非OPECは約60万バレルを削減。
・削減目標を持たないOPEC加盟国であるリビアとナイジェリアについて、2カ国合計で日量280万バレルの上限が課せられた。
・2018年6月22日(金)の次回総会で、延長された減産の進捗を精査。
つまり、2017年1月から始めた減産を、ほぼ同じ削減幅で2018年12月まで継続する、2018年6月にその進捗を精査する、というものでした。(リビアとナイジェリアについては後述)
延長の大義名分は石油在庫を削減すること。共同記者会見では、これまでの減産が在庫の削減に効果があったことを強調
在庫削減をさらに推し進めるためには、減産は今後も必要である、という点がロシアを含めた減産参加国が延長で合意する上で大きな要因となったと見られます。
総会後の共同記者会見では、登壇したサウジアラビアの石油鉱物資源相のファリハ氏、そして左に座ったロシアのエネルギー相のノバク氏がそろって複数回にわたって口にしたのは、「石油在庫の削減」についてでした。
石油在庫の削減は、2018年3月までの延長を決定した今年5月の総会や、今回の総会の前日に開催された減産監視委員会でも、これまでの減産の効果を示すもの、そして延長の根拠となるものとして度々出てきたキーワードです。
前日の減産監視員会、昨日の総会で強調された点は、OECD(経済協力開発機構先進国)の石油在庫は、2017年1月から10月までのこれまでの減産によって減少傾向にあり、今年5月時点の過去5年平均との差は+2億8,000万バレルだったが、10月時点ではその半分の+1億4,000万バレルまで低下した、という点でした。
図:OECD石油在庫の過去5年平均との差 単位:百万バレル
このデータは、減産がこれまでに在庫の削減に効果を発揮したこと、そして今後も減産が道半ばの在庫の削減を推進することを期待させる根拠となっていると考えられます。つまり、今回の延長決定の背景には、減産は在庫削減に効果があるため延長することが適当である、という考え方があったと考えられます。
高水準に積み上がった在庫の削減は、OPECの存在意義である「世界の安定した石油需給の実現」のために必要なことであり、そのOPECと協調するロシアを含む10カ国の非OPECにとっても、在庫の削減は今後も行動をともにする動機となっていると考えられます。
在庫はOPECが謳う目標まで削減できたとしても、大局的には大きな削減にならないなど、複数の留意点あり
2018年12月までの延長が決まり、今回の総会が終わったわけですが、この決定について筆者は3つの留意点があると考えています。
1. 在庫はOPECが謳う目標まで削減できたとしても、大局的には大きな削減にならない。
2. 新たに上限が設定されたリビア・ナイジェリアは若干だが増産が可能。
3. 増加傾向にある米国の生産が、世界の石油在庫を増加させる懸念について、OPECはほぼ具体的な対策を持たない。
1. 在庫はOPECが謳う目標まで削減できたとしても、大局的には大きな削減にならない
上述のとおり、減産は在庫の削減に大きな効果があるとされています。しかし、下の図のとおり仮にOPECが謳う過去5年平均まで削減できたとしても、この10数年間の在庫の推移で見た場合、引き続き高水準であることがわかります。
2014年後半から大きく在庫が積み上がりましたが、この積み上がりを受けて過去5年平均は上昇傾向となりました。
図:OECD石油在庫とその過去5年平均 単位:千バレル
足元のOECD石油在庫の過去5年平均は、およそ28億バレルです(上図の灰色の横線)。この値はこの10数年間に在庫が最も積み上がったときを上回る水準です。
つまり、OPECが掲げる目標が達成されたとしても、大局的には世界の石油在庫が大きく削減され、正常化されたとは言えないと思います。
2. 新たに上限が設定されたリビア・ナイジェリアは若干だが増産が可能。
OPECに加盟するリビアとナイジェリアについては、政情不安などによる一時的な生産減少からの回復途中にあるため、2017年1月の減産開始後も生産量の上限は設定されていませんでした。
今回の総会を経て、この2カ国について、2カ国合計で上限を日量280万バレルとすると報じられています。
以下はリビアとナイジェリアの原油生産量の推移です。
図:リビアとナイジェリアの原油生産量の推移(右は2カ国合計) 単位:千バレル/日量
左のグラフのとおり、直近でナイジェリアの生産量はやや頭打ち感があるものの、リビアのは増加傾向にあります。この2カ国合計の生産量の上限を日量280万バレルとすることとなりましたが、右のグラフのとおり、10月時点では2カ国合計で日量270万バレルであり、上限まであと10万バレルあります。
現在の減産は2017年1月から始まりましたが、2016年末に合意した各国の上限は、減産開始直前(2016年12月)よりも低かった国がほとんど(イランを除く12カ国)でした。つまり、減産が始まると同時にイランを除く12カ国は、生産量の削減を実施することとなったわけです。
その意味では、リビア・ナイジェリアは、当時のイランと同様、ある程度増産が許された(すぐに生産の削減を行う必要がない)と見なされていることになります。
OPECは2017年10月時点で、OPEC全体で順守することとなっている日量3,250万バレルとほぼ同量の生産をしています。
このため、リビア・ナイジェリアの今回の上限設定が、OPEC全体の安定した減産順守へはすぐには貢献しない可能性があります。
3. 増加傾向にある米国の生産が、世界の石油在庫を増加させる懸念について、OPECはほぼ具体的な対策を持たない
下のグラフは、米国の原油生産量の推移です。2010年以降、シェールオイル主要地区の原油生産量が急増したことで米国全体の原油生産量が記録的な水準に増加していることがわかります。
図:米国の原油生産量 単位:百万バレル/日量
先述のOECD石油在庫に占める米国の石油在庫はおよそ4割と推定されます(米エネルギー省の短期見通しより筆者推計)。このため、米国の生産量が増え、米国国内の在庫が積み上がった場合、世界の石油在庫は減少しにくくなると考えられます。
米国の原油生産量が増加傾向にあることについて、総会後の記者会見、その後の報道などによれば、世界の石油の消費量が増加すると見込まれており、生産の増加による在庫の増加は消費の拡大が相殺する、という趣旨の発言がなされていました。
つまり、米国の生産量が増加傾向(それによる米国の在庫増加)はやむなし、世界の消費拡大へ期待、というスタンスであると考えられます。
サウジアラビアから米国への原油輸出は減少傾向にありますが(米エネルギー省のデータより)、OPECが米国の石油在庫に対してできることは限られていると考えられます。
この点については、政治的な力が働く可能性はあると思いますが、増加傾向にある米国の生産が世界の石油在庫を増加させる懸念についてOPECは具体的な対策を持たない点は、引き続き留意したい点の1つであると考えています。
「減産延長への期待」で積み上がった投機筋の買いが、材料出尽くしで解消(売られる)可能性に注意
以下はWTI原油の投機筋の買いと売り、買い越し(買い-売り)枚数の推移です。
図:WTI原油の投機筋の買いと売り(左)、買い越し(買い-売り)枚数 単位:枚
OPEC総会での減産延長を期待させるムードが強まった9月ごろから、投機筋は買いを増やし、売りを減らし、その結果買い越し枚数が大きく増加していました。しかし、先週金曜日に発表になった、先週火曜日時点のデータではその傾向が反転する兆しを示されました。
OPEC総会を通過して、期待が現実のものとなったことで、材料出尽くし感から、投機筋が本格的に売りに転じ、原油価格が短期的に下落する可能性に注意が必要です。
ひとまず、さまざまな憶測を呼び、注目を集めたOPEC総会が終わりました。
今後は今回の決定内容を受け、主には在庫の推移、そして減産順守率などのデータに注目していきたいと思います。
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