日経平均は10月に16連騰を付けた後も下げをこなし、11月9日には25年振りに2万3,000円台を付けました。しかし、取引時間中に年初来高値を付けた後は高値警戒感から急落し、一時400円近くのマイナスに。一日の高安値幅は859円と荒れ相場となりましたが、結局、45円11銭のマイナスで終えました。高値波乱となった相場は、その日から勢いがなくなり、11月には6連続営業日で株は下がり、一時2万2,000円を割れ込みました。

 その間のドル円の動きはどうだったでしょうか。株が16連騰のときは、111円台後半から114円台に一時乗せましたが、114円台の滞空時間は長くなく、株が6連続営業日下落していく中で112円を割り込み、111円台後半までドル安となりました。111円台後半は10月のドル円の安値ゾーンと同じで、結局、行って来いの相場となっています。

 この10月の上げ、11月の下落は株の動きが先行したのか、ドル円の動きが先行したのか、局面によって違う動きをしていましたが、時期的なタイミングと先行きの不透明感が重なって起こったのではないかと考えられます。

2つの重要なタイミングと重なっています。

(1)毎年、11月第4木曜日(今年は11月23日)の米国感謝祭(サンクスギビング Thanksgiving Day)の前には、ポジションを閉める動きが出やすくなります。上げ相場が続いていれば、売りが出やすくなり、下げ相場が続いていれば買いが出やすくなります。今回は、年初来高値を更新する動きが続く上げ相場だったため、高値警戒感も重なったようです。

 サンクスギビングは木曜日が祝日なので、金曜日も休みを取る人も多く、家族、友人が集まってお祝いをするため、結構、帰省の動きが活発となります。従って、お祝いの前にポジションを閉めようという心理が働きやすくなるようです。

 米国のクリスマスシーズンは、この日から始まると言われています。サンクスギビングの翌日金曜日は、小売業のクリスマス・年末セールの初日かつ最大の商戦日となります。年間の2割ほどを稼ぐと言われているため、商売が黒字となることや人出の多さから「ブラックフライデー」と呼ばれています。この日の消費額は年末に向けての消費動向を占う指標としてマーケットでは注目されています。

(2)11月末、12月末はファンドの決算月の時期です。また、ファンドを解約するためには45日前に解約請求をしなければいけないというルール(45日前ルール)があります。ファンドは12月決算が多いことから、45日前である11月15日前には、これらの解約による売買が出やすくなる時期となります。今年は、上昇相場が続いたため、高値警戒と利食いの売りが重なり、早めの動きとなったようです。

 これらの時期的タイミングに重なって先行きの不透明感からポジションの手仕舞いが大きくなった可能性があります。先行きの不透明感とは、米国の税制改革の行方と欧州政治動向、地政学リスクであり(北朝鮮リスク、中東リスク)、11月に入って、より不透明感と不安感が増したようです。これらの不透明感は年末に向けて更に増す可能性があり、以下の通り2018年の相場を大きく動かす要因となるかもしれないため引き続き注目していく必要があります。

 

1.米国税制改革

 米税制改革法案は、11月16日に米議会下院で可決されましたが、その前の11月9日には米議会上院の共和党が税制改革法案を発表しました。ところが、焦点となる法人税引き下げの実施時期が上院案は2019年に先送りするという内容でした。共和党は年内に法案を成立させたい考えですが、調整は難航する可能性があるという見方が大勢です。

 米国議会は11月26日まで休会で、12月も18日から休会予定のため、調整が難航すればトランプ大統領が目指す年内法案成立の可能性はかなり難しいかもしれません。また、共和党は上下院で過半数を占めていますが、上院は野党との議席数の差が小さいことや、共和党内の反対者も出て来る可能性もあり、法案通過へのハードルはかなり高そうです。

 マーケットは、法人税引き下げ実施時期が1年遅れるという内容に失望し、このニュース が株売りのきっかけの一要因になったようです。また、法案成立についても先行き不透明感が高まり、2018年の1~3月のどのタイミングで、どのような内容で成立するのか、上院の19年実施案は交渉の道具なのか不安をもって見ているようです。

 法案成立が遅れれば、株高、ドル高の重しとなり、19年実施決定となれば、株安、ドル安となりそうですが、しかし、相場シナリオを考える際に気を付けなければいけないのは、18年実施でかつ法案早期成立となれば、ポジティブサプライズとなるため留意しておく必要があります。

 

2.欧州政治動向

 欧州の政治動向の雲行きが怪しくなってきました。今年前半のようなEU離脱や反難民を唱える極右の動きは静まっていますが、欧州の中核となるドイツの政権が不安定となってきました。メルケル首相は、3党の連立政権を画策し、与党勢力として過半数を維持しようとしましたが、第2党のFDP(自由民主党、議席数80)が連立離脱を表明したことにより、3党連立協議は決裂となりました。

 今後は、他党との連立再協議、過半数を割り込む少数政権与党、再選挙の選択肢となりますが、いずれもかなり困難な選択肢であり、政治空白が長期間続く可能性が高まってきました。

 このニュースを受けて、ユーロは一時売られましたが、今のところ続落とはなっていません。ドイツ経済は好調なため、政治要因はあまり影響しないとの見方もありますが、政治空白が長引けば、欧州から米国へマネーが流れる可能性もあります。ファンドの2018年の投資方針として欧州マネーが米国に動くのか注目点のひとつとなりそうです。

 また、12月には英国とEUとのEU離脱交渉がヤマ場を迎えます。EU内のメルケル首相の求心力が低下する中、英国にとって有利な交渉になるのか、逆に他のEU諸国がここぞとばかりに主張を述べ始め、協議がまとまらず時間切れとなるかもしれません。いずれにしろ、ポンドの波乱要因となりそうです。

 さらに、2018年春にはイタリアの総選挙が予定されています。メルケル首相の求心力が低下し、ドイツの政治力が弱まれば、欧州に再びポピュリズムが吹き荒れる可能性があり、世界を不安定にしかねません。2017年の欧州政治イベントは前半は無難にこなされましたが、2017年の終盤になって、再び不透明感が増してきています。そして2018年に向けて益々不透明要因は増大しそうな気配です。

 

3.北朝鮮リスク

 今年前半から中盤は北朝鮮リスクにマーケットは翻弄されましたが、10月の中国共産党大会からトランプ大統領のアジア歴訪へと続く政治イベントの流れの中で北朝鮮はおとなしくしていました。そして、11月の米中首脳会談の後、中国特使が北朝鮮を訪問しましたが、金正恩委員長との会談は見送られたようです。中国の説得も思惑通りに進まず、核問題の協議は中朝間で進展していないことが窺えます。トランプ大統領はこの動きを見てかどうかはわかりませんが、中国特使の帰国直後に北朝鮮をテロ支援国家として再指定しました。

 11月20日、韓国国家情報院は国会議員との非公式の会合で、北朝鮮が米国への脅威を強めるため、年内に更なるミサイル実験を行う可能性があるとの見方を示し、動向を注視しているという報道がありました。このような状況をみると、北朝鮮リスクは払拭されたわけではなく、再びリスクが台頭してくる可能性があり、2018年も続くとみておいたほうがよさそうです。

 

4.中東リスク

 サウジアラビアの内政と外政のリスクが浮上してきています。ムハンマド皇太子が自らの地位を確固たるものにするため多数の王族が拘束されました。数兆円の資産が没収されたとも言われています。しかし、権力一極集中は他の王族の反発を招き、皇太子が進める構造改革が頓挫する可能性があり、政策の先行きに対する不透明感が広がっています。

 サウジアラビア国債は売られ、国債のCDS(保証料率)は上昇し(悪化し)、投資家の間に警戒感が広まってきています。また、外交面では、サウジアラビアは2016年にイランと断交し、今年はカタールと断交しました。そして、直近ではレバノンを巡って対立が顕在化し、内政に行き詰ったムハンマド皇太子がイランとの対立を深める可能性もシナリオとして考えられます。

 サウジアラビアの内政、外政の不透明感は中東リスクを高める可能性があり、2018年には更にリスクが高まる可能性が予想されます。中東リスクの高まりは、原油価格に影響を与えるだけでなく、投資マネーを委縮させる可能性があるため注意が必要です。