【今日のまとめ】
1. 専門店セクター、アマゾン脅威
2. 「アバークロンビー&フィッチ」は「ホリスター」が好調
3. 「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」は得意のデニムへの注力
4. 「ギャップ」は、ようやく「GAP」ブランドがターンアラウンド
5. 「エクスプレス」も最悪期を脱した観
6. 「Lブランズ」は優等生らしくない戦略ミスで業績ダウン
7. 「アーバン・アウトフィッターズ」は「フリー・ピープル」が飽きられはじめ
アマゾンからの脅威に晒される専門店セクター
専門店セクターは、英語ではSpecialty Retailersと呼ばれ、アパレルやジュエリーを扱っている小売店のことです。このセクターに属する企業は、それぞれ自社の得意とする専門領域を持っており、ターゲット顧客を明確に絞り込んでいます。
近年、同セクターはアマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)から攻勢をかけられ、既存店売上比較をはじめとする経営指標は悪化しています。
さらに、ネットショッピングの普及でショッピングモールへの客足も遠のいており、過剰店舗に苦しむ企業が多いです。
このため不採算店舗の閉鎖、ネット通販への注力など、各社は体質改善に向けて努力しています。
とりわけ注目されているのが、オムニ・チャネル戦略です。オムニ・チャネルとは、スマホ、ノートパソコン、実店舗でのショッピングを全て包括、統合する仕組みを指します。
たとえば、消費者が自宅のノートパソコンである専門店のウェブサイトを閲覧し、その際、ある商品が気にとまったとします。あとでその消費者がショッピングモールを訪れた際、(そう言えばウェブサイトで見かけた、あの商品は置いてあるだろうか?)と気になり、実店舗に足を向けたとしましょう。
しかし、実店舗のどこにその商品が置いてあるのかすぐに見つけられず、スマホを取り出し、その商品を検索し、店員に「この商品、置いてありますか?」と聞いたとします。すると店員が、たちどころにその商品の置いてある場所に案内する…というのがオムニ・チャネル戦略の例です。
その場合、本人に合うサイズの在庫がなかったら、店員が「それじゃあ自宅に商品を届けます」という風にネット通販したのと同じようなフォローアップをすることも可能です。
オムニ・チャネル戦略では、実店舗をショールームのように使えますし、また消費者がネット通販で買った商品が気に入らなかった場合、それの返品場所にもなります。
アバークロンビー&フィッチ
アバークロンビー&フィッチ(ティッカーシンボル:ANF)は1892年に創業されたブランドで、20歳以上の顧客をターゲットにカジュアルで高級感のあるアメリカン・スタイルのアパレルを提供しています。同社は「アバークロンビー・キッズ」、カリフォルニアのライフスタイルにインスパイアされた「ホリスター」などのブランドも展開しています。
同社はもともとアウトドアにインスパイアされたアパレルを売っていましたが、上半身裸の男性モデルを前面に押し出した大胆なマーケティングでイメージチェンジしました。しかし、その新奇性が薄れるにつれ既存店売上比較が悪化し、現在ではこの路線を改め、再び同社のルーツに帰るマーチャンダイジング戦略を採っています。
その甲斐あって、先に発表された第3四半期(10月期)決算では既存店売上比較が+4.0%と大きく改善しました。
さらにEPS(1株あたりの利益)が予想21セントに対し30セント、売上高が予想8.18億ドルに対し8.59億ドルと、楽々とコンセンサスを上回っています。
とりわけ「ホリスター」は若者向けブランドの中では最も良いパフォーマンスを示しています。
地域別では米国売上高が+4%、海外が+5%でした。ネット通販は+24%でした。
グロス・マージンは61.3%でした。これは80ベーシスポイントの下落となっています。マージン下落の理由は値引き合戦が続いているからです。
第4四半期の既存店売上比較は予想+0.5%に対し、新ガイダンス+4%が提示されました。
アバークロンビー&フィッチはクリスマス商戦に向けてよいモメンタムを示しています。去年のクリスマス商戦では業績の悪化を受け在庫が前年比-14%と極端に絞り込まれた状態になっており、来店客が欲しい商品が店内にないという状況が生じました。今年は去年の教訓を生かし、よく売れている商品を中心に、十分な在庫を仕入れてあります。
アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ
アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(ティッカーシンボル:AEO)は1977年にミシガン州で創業された、流行に敏感な若者層をターゲットにした専門店です。現在、世界中に1,000店舗を展開しており、3万人の従業員がいます。
同社には2つのコア・ブランドがあります。
15歳から35歳の男女に、高品質で着心地のよい、デニムを中心としたカジュアル・ファッションを提供するのが「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」というブランドです。
次に、18歳から25歳を対象とした女性向けアンダーウェアとドームウェアを提供する「エアリー」というブランドを展開しています。エアリーはアメリカとカナダで158店舗を展開しています。その特徴は柔らかな素材、カラフルでフェミニンなプリントを多用している点です。
2016年はライバルのエアロポスタールの倒産に伴い、店じまいセールをした関係で、値引き合戦が特に酷かったです。
売上高に占めるネット通販比率は23%です。アメリカン・イーグル・アウトフィッターズは東海岸を中心として出店していますが、同社のネット通販は、実店舗が存在する地域で成績がよいです。とりわけ「エアリー」は実店舗を開業するとそれがすぐネット通販の成績も押し上げます。
同社はとりわけジーンズのセレクションが充実していることで知られていますが、今年は高品質のジーンズに注力しており、その勢いで顧客当り売上高を向上させたい考えです。
同社の第3四半期決算は12月6日(水)寄付き前に発表されます。
ギャップ
ギャップ(ティッカーシンボル:GPS)は1969年にサンフランシスコで創業したアパレル・ブランドで、「GAP」のほかに「オールド・ネイビー」、「バナナ・リパブリック」、「アスレタ」などのブランドを展開しています。同社は全米に3300店舗を展開しています。
同社の第3四半期決算はEPSが予想54セントに対し58セント、売上高が予想37.6億ドルに対し38.4億ドル、売上高成長率は前年同期比+1.1%でした。
既存店売上比較は予想+1.1%に対し+3%でした。ちなみに去年同期は-3%でした。
「オールド・ネイビー」の既存店売上比較は+4%でした。これは去年同期の+4%と同じでした。長年、既存店売上比較が大幅なマイナスを記録してきた「ギャップ」では、今期2013年以来初めてそれがプラスに転じ+1%を記録しました。ちなみに去年同期は-4%でした。「バナナ・リパブリック」は、いまだターンアラウンドの努力が実を結んでいません。既存店売上比較は-1%でした。去年同期は-6%でした。
2018年度のEPSは予想2.06ドルに対し、新ガイダンス2.08~2.12ドルが提示されました。既存店売上比較は「1ケタ台の下のほう」を見込んでいます。
エクスプレス
エクスプレス(ティッカーシンボル:EXPR)は20歳から30歳の男女をターゲットとしたアパレルならびにアクセサリーの専門店です。同社は婦人服の専門店、ザ・リミテッドの一部門としてスタートしました。パーティーでドレスアップしなければいけないとき、頼りになる服から、カジュアルなものまで、幅広く取り揃えています。
第2四半期の既存店売上比較は-4%でした。
来店客数は、これまでの極めて酷い状態から、若干、上向きはじめています。
商品別ではウイメンズのパンツ、ショーツ、デニム、水着がまずまずよいパフォーマンスでした。メンズではスーツ、ニットなどが好調でした。
ネット通販は前年比+28%でした。総売上高に占めるネット通販比率は19%でした。ネット通販で購入した商品が気に入らなかった顧客は、その商品を返品するわけですが、その際、郵送するのではなく、返品を最寄りのエクスプレス実店舗に持ち込む顧客が多いです。
その場合、店員は商品を受け取り、代金を返金すると同時に「店内にある別の商品はいかがですか?」と勧めるように教育されています。返品を商機に変えるこのような戦術は、実店舗のないアマゾンのような企業は真似できません。
エクスプレスは11月30日に第3四半期決算を発表します。
Lブランズ
Lブランズ(ティッカーシンボル:LB)はランジェリーの「ヴィクトリアズ・シークレット」とパーソナル・ケア、香水、石鹸などを扱う「バス&ボディワークス」の2つのブランドから成っています。
Lブランズは専門店各社が苦戦する中、2016年半ばまでは既存店売上比較がプラスで推移していました。同社がアマゾンからの脅威を最近まで感じなかったひとつの理由は、ランジェリーは自分の体にぴったりフィットする必要があり、消費者はわざわざ実店舗までおもむき、試着してからその商品を購入する習慣があったためです。
ランジェリーに特有の、このような実店舗の優位性にあぐらをかいて、ヴィクトリアズ・シークレットのマーチャンダイジングは、水着など、同ブランドのコア・コンピタンスと関係ない方向にブレました。その結果、売り残りが発生し、Lブランズは水着からの撤退を決めています。
同社の場合、コアのランジェリーの収益性が高いので、財務的には他社よりも魅力的です。したがって余計なことに手を出さず、ルーツに回帰すればよいという風にも分析できると思います。
アーバン・アウトフィッターズ
アーバン・アウトフィッターズ(ティッカーシンボル:URBN)は若者向けアパレルならびに雑貨を販売している専門店です。その他のブランドに「フリー・ピープル」、「アンソロポロジー」を持っています。
なかでも「フリー・ピープル」はつい最近まで極めてホットなブランドで、アーバン・アウトフィッターズ全体の業績を支えてきたのですが、最近は、やや飽きられている感じがします。「フリー・ピープル」の既存店売上比較への貢献に陰りが出た途端、ずっと問題を抱えていたコア・ブランドの「アーバン・アウトフィッターズ」、ならびに「アンソロポロジー」の弱さが露呈する格好になっています。
さらに言えば、ミレニアム層は雑貨に対する関心が低いです。「アーバン・アウトフィッターズ」と「アンソロポロジー」の2つのブランドは、雑貨比率が他社より高いので、アゲンストの風が吹いています。
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