今日のポイント

●裁定買い残高の変化に、外国人による投機的な先物売買の動向が表れる。近年は、裁定買い残が3.5-4兆円まで膨らむと、日経平均は反落に転じることが多かった。

●足元、裁定買い残は2.9兆円まで膨らんでいる。まだ警戒を要するレベルではないが、残高の上昇ピッチが速いことには注意が必要。今後、裁定買い残が3.5兆円に近づくときは、日経平均反落を警戒した方が良い。

※裁定買い残高とは、裁定取引との絡みで売買されている現物株で、まだ決済が終わっていない買い残高のこと

外国人の日本株買いが続いている

 外国人投資家の買いで日経平均の上昇が続いています。外国人は9月第4週から10月第4週まで、5週連続で日本株を買い越しています。株式現物の買い越し額は、合計で、2兆4,343億円に達しています。
 まだ統計の出ていない先週(10月30日から11月2日)も、外国人の買いで日経平均が上昇したことは、ほぼ間違いありません。

日本株の主体別売買動向:9月25日~10月27日

出所:東京証券取引所「二市場一・二部 投資部門別売買状況」より抜粋。 注:プラスは買い越し、▲は売り越しを示す。金融法人は、信託銀行(信託勘定)を除く銀行・生損保・その他金融法人の合計、個人は現物・信用の合計

 

 主体別の売買動向を見ると、外国人の一手買いで上がっていることが、良くわかります。
◆個人投資家:外国人が買う間、2兆460億円も売り越し
◆投資信託:主に個人投資家の解約により、3,969億円の売り越し
◆金融法人:持ち合い解消売りが続き、2,388億円の売り越し
◆事業法人:自社株買いで買い越しになることが多いが、この上昇局面では売り越し
◆信託銀行:年金や日銀の買いで買い越しになることが多いが、この局面は売り越し

外国人の先物買いも、増えている

 外国人の買いにも、いろいろな種類があります。株式現物を買ってくるのは、海外年金やソブリン・ウエルス・ファンド(国家ファンド)などの長期投資資金です。買ってすぐに売ることはまれです。
 ただし、日本株を買う外国人は、長期資金ばかりではありません。株価指数先物(日経平均先物など)を買ってくる海外ヘッジファンドは、投機的資金です。日本株の上昇が見込める環境では、先物をどんどん買ってきますが、環境が悪化すると、すぐに売りに転じます。

 外国人の買いがいつまで続くか判断するためには、外国人による先物買いがどこまで膨らんでいるか見ることが重要です。

「裁定買い残」の変化に、外国人の先物買いの動向が表れる

 私がファンドマネージャー時代に、日経平均先物のトレーディングをする上で、重視していた需給指標が、裁定買い残高の変化です。詳しい説明は割愛しますが、裁定買い残高の変化に、外国人による投機的な先物買いの変化が表れます。
 外国人が先物を買うと、日経平均が上昇し、裁定買い残高が増加します。外国人が先物を売ると、日経平均が下落し、裁定買い残高が減少します。

 近年の日経平均および裁定買い残高は、以下のように推移しています。

日経平均と裁定買い残高の推移:2007年1月4日~2017年11月6日

注:東京証券取引所データに基づき楽天証券経済研究所が作成

 裁定買い残高は、アベノミクス開始後の2013から2015年は3.5兆~4兆円まで増加すると、減少に転じていました。日経平均は、裁定買い残が増加している間、つまり外国人が先物を買っている間は上昇します。ところが、裁定残高が減少に転じる、つまり外国人が先物売りに転じると、下落に転じます。
 2013から2015年は、裁定買い残高が、3.5兆~4兆円まで増加したところで、日経平均先物を売れば、タイミングよく日経平均が下げに転じ、利益を得られる可能性が高かったと言えます。
2013から2015年の部分を拡大したのが、以下の図です。

日経平均と裁定買い残高の推移:2013年1月4日~2016年1月8日

注:東京証券取引所グループのデータに基づき楽天証券経済研究所が作成


 裁定買い残高は、2.9兆円まで増加

 10月27日時点で、裁定買い残高は、2.9兆円まで増加しています。裁定買い残高が、近年のレンジの上限(3.5兆から4兆円)に達したわけではありませんが、足元の増加ピッチが速いことには、警戒が必要です。まだ、統計が発表されていませんが、11月2日時点で、裁定買い残は、さらに増加していると考えられます。裁定買い残高が3.5兆円に近づく場合は、売りを考えたほうがいいと思います。