なぜこのタイミングで決定されたのか?

 逆を言えば、今年3月の全人代(全国人民代表大会)で設定された「年5%前後」の経済成長率の目標達成が、現状のままだと難しくなっていることの表れかもしれません。

 9月14日に発表された8月分の中国の経済指標は、工業生産や小売売上高の伸びが鈍化したほか、新規の貸出残高も予想を下回るなど減速感がにじみ出ているほか、外資系金融機関からも、経済成長率の目標達成は困難との見方が相次いでおり、市場からは何らかの政策対応が求められているムードとなっていました。

 このほか、米国の金融政策が利下げサイクルに入ったことも、中国の金融緩和を後押しした面があります。この先も中国が追加利下げを行う可能性はありそうですが、少なくとも米国の利下げ幅の範囲内であれば、米中の金利差が拡大することはないため、人民元の下落リスクを回避しつつ、緩和政策を行うことができます。

 さらに、政治的な思惑も働いた可能性があります。来週10月1日(火)は中国の建国記念日にあたる「国慶節」を迎えます。今回の金融緩和策は24日(火)に打ち出されましたが、翌25日(水)にはミサイル(ICBM)の発射実験を行うなど、記念すべき日を迎えるにあたり、中国当局による国威発揚の意図があるのかもしれません。

中国経済は息を吹き返せるか?

 今回の金融緩和策が打ち出されたことで、いちばん重要なポイントになるのは、「中国の株式市場や中国経済が息を吹き返せるかどうか?」になります。

 結論から言ってしまうと、金融緩和策だけでは難しいと思われます。確かに、今回の政策は全体としてはそれなりの規模感で、内容も多岐にわたっていますが、中国経済減速の要因とされる不動産価格や不良債権について、まだ処理や対応が進んでいない状況下での金融緩和の効力は限定的な影響にとどまってしまいます。

 現在の中国景気悪化は、不動産市場が抱える問題(供給過剰による売れ残りや、建設計画の頓挫、それに伴う不動産価格の下落やカネ回りの悪化など)の深刻化がもたらしている面がありますが、企業や家計が負債の返済を優先し、借り入れに慎重な状況では金融緩和で市場に資金を投入してもあまり意味はありません。

 そのため、まずは不動産絡みの不良債権の損失を確定させて、公的資金を注入するなど、根本的な対策に踏み込むほか、さらにその上で、景気を刺激するための財政政策に取り組む必要があります。

 従って、今回の金融緩和策を受けた株価上昇は、その効果というよりも、不良債権の処理や、財政出動による景気刺激策など、「次の一手」である追加政策を期待した動きである可能性があります。

 ただし、不動産の不良債権の処理には巨額の資金が必要であることが見込まれるほか、中国は2008年から2009年にかけての世界的な金融危機の時に、4兆元規模の財政出動による景気刺激策を講じ、驚異的なペースで経済が持ち直したものの、それ以上に過剰生産設備や地方政府の債務などを生み出し、現在まで尾を引く問題につながったという経験があるだけに、中国の中央政府が再度の大型刺激策を打ち出すにはかなり高いハードルがあると思われます。

「積極的な財政出動がやりにくいので、今回の比較的規模の大きな金融緩和策で体裁を保った」というのが中国当局の「ホンネ」かもという見方もできるため、今後の株式市場の視点は、今回の金融緩和策が、「次の景気刺激策の第一歩」なのか、それとも「政策対応の限界」なのかを見極めることになります。

 仮に、後者であった場合には、失望感で再び売られてしまうことになるため、前者であることに期待したいところですが、中国経済の先行きについて慎重にならざるを得ない状況がしばらく続くことになりそうです。