巨大な債務の壁が満期を迎える

 FRB(米連邦準備制度理事会)の0.5%利下げの本当の理由はこれである。

 米国の銀行の評価損を減らすには利下げしかない。

米国の銀行は6,850億ドルの評価損に直面した

出所:FDIC

 米国の銀行の投資有価証券の未実現損失は、2024年第2四半期現在で5,129億ドルだが、これは、2008 年の金融危機のピーク時の7倍に相当する。

 米国第2位の銀行であるバンク・オブ・アメリカは、現在、未実現損失のある満期保有証券を1,108億ドル保有しており、これは総額の20%に相当する。一方、FDIC問題銀行リストに掲載されている銀行の数は、2024年第1四半期には66行に増加した。

 銀行だけでなく、FRBも債務超過になっている。パウエル議長の率いるFRBは現在1,980億ドルの損失を被っている。

FRBは巨額の損失を被っている

出所:REALEJANTONI

 そして「今後の米国の金融政策の答え」は、以下の米国債の償還スケジュールで分かる。

 巨大な債務の壁が満期を迎える。

 35兆ドルのうち16兆ドルは6年で償還されてしまう。乗り換える時の金利が低ければ、米国債なんて誰も買わない。

巨大な債務の壁(米国債の満期償還)

出所:Lawrence MacDonald

 ロシアの外貨準備没収でドルが武器化されている今、ロシアも中国も誰も買わない米国債を買うのは日本だけである。日本だけでは米国債の買い手が足りないので、結局、米国はQE5(量的緩和第5弾=債券買い入れ)をやることになる。金利を上げないためには、中央銀行が自分で買うしかない。

 リン・オールデンの言うように、「現時点では、今陥っている負債バブルから抜け出す方法を考えることが先決になる。この負債バブルは、このまま行けば、より一層深刻なインフレへと発展してしまうからだ」。

CPI 1970年代(赤の破線) vs 2020年代(青)

(私たちは1970年代後半と同じ過ちを繰り返そうとしている?)
出所:REALEJANTONI

「アメリカは倒産する!」と言われたレーガン大統領のレーガノミクスの時代の米国の負債は1兆ドルだった。それがバイデノミクスの今は35兆ドルに達している。負債と金融バブルが今の世界景気を支えているのである。

米国の連邦債務 1900~2020年

出所:futuretimeline

米国の連邦債務 2018~2024年

出所:WOLFSTREET

 米国の負債の利子は年間1兆2,000億ドルを超える。政府の歳入の4分の1は債務の利子の支払いに充てられており、債務の利子は現在、高齢者への社会保障給付に次いで連邦予算で2番目に大きな項目となっている。これは米国を破産させることになるが、民主党も共和党もそれについて真剣に話し合っていない。

 レイ・ダリオはミルケン研究所アジアサミットで、「債務は無視され、実質的な負担を軽減するためにインフレが利用される可能性が高い」と述べた。大統領選挙が終われば、米国債はリスクフリーから確実に損失が出る債券に格付けが変更されるだろう。米国の負債は返済不可能である。

 負債は天文学的に増加中だが、この状況で大幅利下げ(=ドル安)になるとどうなるかを、そろそろ視野に入れておくべきだろう。米国が公式な不況に陥ったとき、どれだけの負債が必要になるのだろうか? 35兆ドルの負債があり、数カ月ごとに1兆ドルずつ増えている現状では、信用拡大は限界に達している。いずれ崩壊は避けられない。

 こうした将来不安を受けて、ゴールドが上昇している。ゴールドは年初来30%上昇の2,662ドルの高値を付けた。これは、今世紀のゴールドの年初来最高のパフォーマンスである。

ゴールドCFD(日足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ゴールドCFD(週足)

(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米国の借金を棒引きにする方法が一つだけある。それはここでは書かないが、この手法は「一回」しか使えない。

 G7各国は現在、将来から借りてきた借金で食っている先送り経済となっている。これでは、やがて若い世代の怒りが爆発するだろう。現在のバブルでカンカン踊りを楽しむのはいいが、将来、どういう結末が訪れるのかを頭に入れておく必要がある。「今だけカネだけ私だけ」の世の中ではあるが、不始末には後始末が待っている。