「資産」が増えても「不安」は消えない
「残高は増えています。でも、いくらお金を使っていいのか分かりません」
会社員のタカシさん(40歳)は、妻と小学生の子どもの3人暮らし。手取り月収は38万円で、毎月5万円をNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)で投資信託に積み立てています。
また、運用資産とは別に預貯金も確保しており、合計は1,000万円を超えていました。
ところが、タカシさんの気持ちは一向に晴れません。
「教育費も老後資金も必要ですし、物価も上がっています。月5万円では足りないですよね……」
家計を確認すると、食費、住居費、光熱費、保険料、日用品費などの支出が月30万円。NISAへの5万円を差し引くと、残るのは3万円です。ここから家電の買い替えや帰省などの臨時支出に備えようとすると、家族の楽しみにお金を使う余裕はありません。
妻から家族旅行を提案されても「そのお金を投資すれば、将来もっと増えるかもしれない」とためらう。友人との食事も断り、趣味も後回しにする……。そこまでやっても、月5万円が「少なく思えてならない」というのです。
タカシさんの不安が消えない根本原因
タカシさんは、「65歳までに3,000万円」という、明確な目標を持っていました。しかし、その根拠や使い道を尋ねると、口ごもってしまいます。
「老後には、それくらい必要なのかなと思って……。何に使うかは、まだ考えていません」
資産形成に励んでも不安が消えない理由
筆者が日々のファイナンシャル・プランナー(FP)業務で痛感しているのが、「何歳までにいくらためたい」という目標を持つ人は多い一方、「ためたお金をどう使うか」までを具体的に考えている人は驚くほど少ないという事実です。
「老後のため」という答えの先にあるのは「毎月の生活費の不足分」なのか、それとも「趣味や夫婦で旅行するための費用」なのか、はたまた「介護が必要になったときの備え」なのか……使途によって、必要な額も、準備の方法も変わります。
また、使い道が曖昧だと、たとえ目標に近づいても「もっと必要かもしれない」と基準が上がり続けてしまい、達成感や満足感が得られません。
そして何より、資産残高を増やすこと・減らさないこと自体が目的になると、現在の生活を楽しむことが難しくなるのです。
必要額を確かめないまま資産形成を続けても「どこまで頑張れば良いか」が分からないせいで不安が続き、生活を切り詰めることで生活満足度まで下がってしまう……そうなる前に、対策を講じる必要があります。
不安が消えない時、最初に取り組みたいこと
不安を解消する最も簡単な対処法は、いまためているお金について「いつ」「何に」「いくら使いたいか」を明確にすることです。
「老後資金」という大きな項目だけではなく、「子どもの大学進学」「65歳以降の生活費の補填(ほてん)」「元気なうちの夫婦旅行」「趣味の費用」「介護の費用」など、できるだけ細かく、具体的に分けます。
例えば教育費であれば、進学までの年数と進路の希望、すでに準備できている預貯金を確認します。また老後資金であれば、毎年の誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で将来の年金見込額を確認し、退職後の支出との差額を見積もりましょう。
ここで、老後の不足額が仮に月5万円であれば、年間60万円、65歳から95歳までの30年間では1,800万円(物価上昇や運用損益を考慮しない単純計算)となります。
必要額を明確にすることで、「なんとなく3,000万円」から「1,800万円あれば十分」となり、不安は軽減されるはずです。他にも、働く期間や退職後の生活水準などについても検討することで、必要となる金額がさらに具体的になります。
「いくらあれば良いか」が把握できたら
続いて、お金を使う時期に合わせて、保管する場所を分けましょう。
急な病気や収入減に備える生活予備費、数年以内に使う予定の資金は必要なときに取り出しやすく、価格変動の小さい預貯金や債券などで確保します。一方、当面使う予定のない資金については、値下がりに耐えられる範囲で投資信託や株式などの長期運用を検討したいところです。
NISAは運用益が非課税になる制度ですが、投資商品の元本を保証する仕組みではありません。そのため、投資額は日々の支払いや突発的な支出に対応可能な範囲で行いましょう。